第39話 クロウは嘘が下手
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本棚の隅に、少ししわのできた絵本があった。
それは赤ずきんの絵本。
あの中にマゼンダがいる。
だけど俺はそれを見て見ぬふりをした。
マゼンダをまたこの世界に引き戻してどうする?
どうするつもりだ?
絵本の背表紙を眺め、俺はため息をついてパソコンの電源を入れた。
カタカタとキーボードの音が響く。
ピンーポーン・・・
キーボードの音だけの俺の部屋にインターホンが鳴り響く。
俺は舌打ちをするとドアの向こうを覗き込む。
そこにはクロウが立っていた。
帽子をかぶっていたけれど、俺がクロウを見間違うわけがない。
俺はまた、ため息をついてドアを開けた。
「よっ なんか顔が険しいぞ!」
「・・・何か用か?」
「ひでー!どうせ元気ないんだろうから優しい俺が励ましに来たんだろー!?」
クロウはそういうとずかずかと家に上がりこむ。
俺はクロウの背中を1度睨んだが、すぐにやめた。
悪気があるわけじゃないだろうし・・・ん?
「お前、なんで俺が元気ないと思ったんだ?」
「・・・え?」
クロウがビクッと体を小さく震わして俺のほうを見た。
俺は眉間にしわを寄せてクロウを壁へどんどん追い詰める。
クロウは『なんだよー』と笑ってはいたが顔が引きつっていた。
「なんでだ?」
「い、いや・・・その・・・リンがいなくなったから寂しく・・・」
「嘘だな。」
「う・・・」
俺がきっぱりと言うと、クロウは否定もせずに唸った。
ふと、ルファの顔が浮かぶ。
「ルファか」
「え!?」
図星らしく、クロウは額にじわりと汗をかき始めた。
この男はいつも堂々としてるくせにどうしてこう、嘘が下手なんだろう?