エピローグ
「はい、これから質疑応答を始めます!」
「は?」
ここは藤井の家である。一人暮らしで勝手が良いので、四人の溜まり場となっている。先ほどの発言は怜奈だ。
「何で、私を混ぜてくれなかったのよぉ!!」
その言葉を発したあとで、怜奈は藤井を見た。驚いているようだ。奈美香も同じような顔をしている。
おそらく、意図的に「私たち」ではなく「私」といったことに対する抗議が出てくるものと想像したのだろう。
だが、藤井は神妙な面持ちで俯いているだけだ。
「ちょっと、あんた、どうしたのよ? まだ機嫌悪いの?」
「うるせえな」
「何よそれ。嫌んなっちゃう」
「うるせえって」
「何なのよ、もう!」
「奈美香、そのくらいにしとけ。藤井も、気持ちはわかるけど、機嫌直せ」
「康平……。悪かった。俺、まだ信じらんないんだよ。南原が犯人だったなんて」
「それが普通の反応だよ」
「どうして……、どうしてあんなになったんだよ……」
「それは外野の俺たちにはわからないさ。いや、外野ですらないよな。外野は立派なナインの一人だ。何も知らない俺たちが、それを知ったところで、気持ちのいいものじゃない。もちろん中にいる野球部員だって納得できないだろうけどな。
少なくとも、バッテリーの息が合わなかった、以上のものはあるだろ。チームの和を乱す者への制裁か。それでも全く意味はない、詭弁だよ。殺したやつの気持ちを理解できないのは、ある意味正常だ。自分たちは殺したくならないということだからな」
「わかんねえよ、お前の話も……」
「わかんなくてもいいんじゃないか? たぶん、な」
「というか、いつから犯人が分かってたの?」
奈美香が横やりを入れてきたので、猪狩は彼女を睨んだ。
「お前なあ……」
「いいじゃない、答えなさいよ」
「最初の時点で八割くらい」
「そんなに?」
「だっておかしいだろ。密室にするくらいなら死体を運び込んだ方がいいだろ。部室で発見なんてされたら容疑者は野球部に限られるんだし。だから、どうやったかじゃなくて、どうしてやったかを考えてた。結局、偶然だったっていう結論だったけど」
「……野球部、どうなるのかな?」藤井は不安そうな顔で言った。
「元には戻らないな。でも、これを乗り越えていくんだろうな」
そう、高木はいない。
南原もいない。
それでも、誰かがその穴を埋めるだろう。
この悲しい出来事を乗り越えていくのだろう。
だが、それはおそらく詭弁だろう。
どうやったって、傷は残る。
乗り越える、なんて幻想かもしれない。
悲しみを心の奥にしまって見ない振りをするだけなのかもしれない。
もう戻らない。
一度起きてしまったことはもう戻らない。再生不能だ。
けれど、未来は残っている。
重要なのは、未来に向けてどうするか、なのだろう。
おそらく、これも詭弁だ。
だが、それでも良いのではないだろうか。