Ver.2.3
「なんでセンチネルがこんな所にいるんだ!」
冒険者の悲痛な叫びが洞窟に響いて、ニーア達もその存在に気づいたが、洞窟蜥蜴が邪魔をしてオレと合流できないでいた。
「は、挟まれた」
「逃げ場がないぞ。ど、どどど、どうするんだ?」
「そもそも、センチネルがこんな所にいるなんて聞いていないぞっ!」
その確認のための調査なのだが、あれだけ冷静だった冒険者達がセンチネルを見て取り乱している。
各々の武器を構え、センチネルに対峙するがその行動はビクビクしていて頼りない。
そんな冒険者達を見て、センチネルが咆哮を上げれば、小さな悲鳴を上げてさらに及び腰になってしまっていた。
そこには倒してやろうという気迫が一切なく、只々恐怖に顔を歪ませているのだが、それも致し方なかった。それだけセンチネルという存在は驚異なのだ。
(よく見たら結構傷まみれだな。空腹で気性も荒くなっているようだし、誰かと戦闘したのか?)
そこでオレはあのカイコガのセンチネルを思い出す。
(もしかしてカイコガとの縄張り争いに負けて、こんな所に逃げ隠れていたのか? と考えると、その争いの時に幼体がはぐれて、運悪くサークレイの連中に捕まったというシナリオか……)
そう考えれば辻褄が合うように思えるが、運命を知っている身としては素直になるほどと納得できない。
(……なにが狙いだ。わざわざ中盤に出てくるクエストボスをここに持ってきて……ここでオレが倒されるという筋書きならお粗末じゃないか?)
オレの考えが正しいのなら、目の前の蜥蜴型センチネルはカイコガ型センチネルに縄張り争いで負けて、こんな場所にボロボロの姿でいるのだ。カイコガに勝ったオレが手負いの相手に負けるはずがない。もっとも、共振ブーストを使う前提の話なのだが。
(洞窟蜥蜴達もいるし、オレの知るシナリオ外になっているからあまり時間を掛けたくないな)
状況を鑑みてオレはついついニーアを見てしまい、彼女と視線が合ってしまった。
【ノウン、やるのね】
後悔先に立たずだが、ニーアがオレの考えを理解してしまい、声でオレにそう送ってくると、コハルにハンドサインでなにかを伝えている。
(あらかじめ二人で相談していたのか。ほんと、伝達能力がなくてご迷惑をおかけします)
「先輩方、こっちに来て洞窟蜥蜴の足止めをしてっ! センチネルを倒すためにニーアをノウンの所に行かせたいの!」
「センチネルを倒すだと? なにをバカなことを! そんなことできるわけないだろ!」
「それよりも、波動人形をここに壁として置いて、全員で洞窟蜥蜴達を突破すれば、この場からは逃げられる!」
「それが良いっ! おいっ、波動人形にセンチネルの足止めをさせるように命令しろっ!」
コハルに言われて、恐怖に顔を引き攣らせていた冒険者達が逆にコハル達に指示してきた。
「なにバカなこと言ってるのっ! こっちの奥に逃げたら出口から離れちゃうし、あいつらのねぐらに直行よ!」
もはやそんな基本的なことすら分からなくなるほど冒険者達は錯乱しているようだった。場数を踏んでいる冒険者達ですらセンチネルを前にするとこうなるのが普通なので、コハル達の冷静さの方が異質だったりする。
気が立っているセンチネルの咆哮で冒険者とコハルの言い争いが中断されると、なにを思ったのか、冒険者の一人がオレから離れ、さりとてコハル達に合流するでもなく、中途半端な逃げ方をする。
それを見逃さないセンチネルがそちらへ駆け出し、オレは慌てて対処する羽目になった。
(オレを無視するとは良い度胸だなぁパァァァンチッ!)
アイシャの時はオレの手首がへし折れたが、今回はセンチネルの身体に深くめり込み、相手は体勢を崩すとそのまま岩壁に激突する。
「すごいわ……センチネル相手に素手で互角以上の力を発揮するなんて……益々、知りたいっ」
(あっ、ここにも違う意味で冷静な人がいたわ)
一人、シレッと戦闘に参加せず皆から少し離れたところで静観していたルルカが場違いにも、うっとりしながらこちらを見ていた。
(やばっ! この軸線だとセンチネルがルルカの方へ行くっ!)
冒険者が逃げた先にルルカがいて、案の定センチネルがそちらに標的を変える。
(くそっ、素手じゃ致命傷には至らないか)
センチネルがルルカの方へ駆け出し、オレも慌ててそちらへ走るが、一歩遅れたため間に入れそうになかった。
「ルルカさんっ!」
オレ達の一部始終を戦いながら見ていたコハルが叫ぶと、ルルカもうっとり顔から真面目な顔に戻っていた。
「あら、これはいけませんね」
着ていた外套を翻し、中から見えたのは鋼鉄の握り拳。逃げるどころか、ルルカは中腰になると迎え撃つような体勢になる。
ルルカが共振音を発すると、義手にある溝部分から光が漏れ、同時に彼女の外套の奥から見えるダイバースーツのようなぴっちりした服の間接部やら身体の一部に取り付けられているパーツが仄かに光り始めた。
(あれは、身体強化の波動具。ミショルドに行かないと手に入らない防具がもうこんな所でお目見えかぁぁぁい! もう順序が滅茶苦茶だ)
滅茶苦茶にした筆頭のオレが一人困惑する中、ルルカによるセンチネルへと渾身の一撃が放たれた。
センチネルの鼻先に鉄拳がめり込み、洞窟内に大音量の衝撃音が響き渡る。
吹っ飛ぶとまではいかないが、悲痛の叫びを上げて、天を仰ぐとセンチネルの足が止まった。
(センチネルをグーパンで後退される脳筋波動技師。ああ、そういえば、そういうキャラだったね、怖い、怖すぎる)
あまりの光景にコハル達や冒険者達だけでなく、洞窟蜥蜴達まであんぐりと口を開けて、鉄拳を繰り出したままのルルカを眺めていた。
ルルカはそんな皆に動ずることな、いや、オレの視線に気が付いたのか、ポッと頬を赤らめ、義手を外套の中へと引っ込めると、こちらを見ながらモジモジし出す。
「やだ、そんな熱い視線で見ないでください。恥ずかしいです」
(熱い視線なんて送ってないが……)
そもそもツルツル顔のオレには不可能なのにルルカにはそう見えるらしい。後、ニーア達が半目になってオレを見てくるのだが、どうしてだろうか。
「ほ、ほら、ノウンに余計な負担を掛けていないで、さっさとコハルさん達と入れ替わりなさい!」
良くも悪くも場が止まったおかげで、冒険者達がルルカに急かされ動き出すと、彼女の指示を読んでいたのか、はたまた別の理由があったのか、とにかくすでに動き出していたニーア達とスムーズに入れ替わることができて、洞窟蜥蜴達から上手く抜け出すことができたようだった。
「なんて力だ。これをあのお嬢ちゃん達が二人で食い止めていたのか?」
「し、信じられん。本当に新人なのか?」
押し寄せる洞窟蜥蜴達をこちらへと行かせないように捌いていく冒険者達がもう弱音を吐き始める。
「ニーアは私が守るから、速攻で倒しちゃってっ!」
冒険者達が持ち堪えられなさそうと判断したコハルの合図と共に、ニーアはオレのすぐ後ろに立つと、迷いなく共振音を発し始めた。
「……あれが、報告にあった共振ブースト……」
冒険者と一緒に移動しなかったルルカがオレとニーアを見てなにかを呟いているが、オレの波動炉の唸りが大きすぎて聞きとれない。
そんな中、オレとニーアの波動が重なり合い、それがエネルギーとなって膨れ上がっていった。
(ん? なんだ? 一瞬ノイズのような波動が……)
前二回と違った違和感を一瞬だけ感じたが、以後何事もなかったのでオレの気のせいかと意識を敵に戻す。
おそらく騎士風にクラスチェンジしたのだろうオレは、光によって作られた剣と盾を構えると、相手のセンチネルを見据えた。
元々温厚なカイコガの時のような外して正気に戻すというのは今回の相手には通用しないし、この後残党狩りもしなくてはならないので余力を残したい。
(悪いがコハルの言う通り、速攻で終わらせてもらうぞ!)
オレ達の迫力に圧されたのか、センチネルが少し尻込みしていたが、オレが剣を構えると咆哮を上げて突進してきた。
それを盾で受け止めるオレの身体は一歩たりとも後退しない。
(後ろにニーアがいるんだ。オレが無様に下がるわけにはいかない)
牙や爪で攻撃しても、攻撃パターンを知っているオレは冷静に盾でそれを防ぐ。すると、これでもかと身体を回転させてその太い尻尾がオレの横から襲いかかってきた。
(その攻撃も知っているぞ)
オレは逃げるでもなく剣を振り上げ、タイミング良く袈裟斬りすると、尻尾は綺麗に切断され、センチネルが体勢を崩した。
(終わりだ!)
無防備状態になったセンチネルとの距離を詰め、その首に向かってオレは唐竹割りをする。
「……い、一方的じゃないか……」
「あ、あんな波動人形、初めて見たぞ」
「あれでシングルナンバーじゃないなんて嘘だろ……」
あっという間にセンチネルを屠り、オレはそのまま洞窟蜥蜴達を殲滅にかかる。
向こうもボスが倒されたので浮き足立ち、コハル達にも対応できなくなり、その数をドンドン減らしていくのであった。
それからしばらくして……。
「素晴らしいです。あなた方は文句なしの満点です。強いし、格好良いし、頼りになるしで、もぉ~……」
「教授、涎、涎……途中から波動人形だけを見て言わないでください」
洞窟蜥蜴を討伐し、採掘場の調査はなんとか終わりを迎え、外に出たオレ達にルルカは拍手しながら今回の評価を口にする。が、冒険者のツッコミで脱線しそうになった自分に気が付き、咳払いして場を誤魔化していた。
(う~ん、本来は綺麗で頼りになる知的お姉さんなのに……なんでこんなに残念美女になってしまったんだろうなぁ……)
「と、とにかく、あなた方は文句なしに冒険者として採用します。この私が文句は言わせません。良いですね?」
オレ達の方を見て話していたルルカは、最後にツッコミを入れてきた冒険者に向かって話し掛けると、彼らはバツの悪そうな顔をして頭を掻いていた。
「ハハッ……キミ達には助けられてしまったな。先輩として立つ瀬がないよ。特に、波動人形……いや、ノウンだったか……数々の発言、すまなかった。本当に助かったよ」
冒険者達は先程までの戦闘を振り返り、苦笑いしながらオレ達に頭を下げてくる。
(今回もなんやかんやで運命を変えることに成功したようだし、冒険者にもなれそうで良しとしようかな)
オレは今回の結果に大満足し、オレの両脇に立つ二人を見てみると喜ぶコハルとは対照的にニーアが上の空になっていた。
【ニーア?】
オレがチャットを送ると、ニーアは何事もなかったかのようにこちらを見上げて微笑んでくる。
【どうしたんだ? なにか気になることでも】
【ううん、別に。ただ、今回はノウンが私に遠慮せず、私の力に頼ってくれたのが嬉しくて、ついポ~としちゃってたみたい】
そんな感じには見えなかったが、本当に嬉しそうにこちらを見てくるニーアにオレは気恥ずかしいやら、申し訳ない気持ちで一杯になり、オレはそれ以上追及することはなかった。
【す、すまない……】
【謝らないで。これからも、どんどん私を頼ってくれて良いからね】
そう言うと、ニーアはそっとオレの冷たい身体に触れてくる。
「まぁ~た二人でコソコソとイチャついて~。私も混ぜてよぉっ!」
オレ達の様子を伺っていたコハルが話に割り込むようにニーアに抱きついてきた。
やれやれとオレは溜息を……吐けないが、そんな気持ちで空を見上げ、ファイスへと帰るのであった。




