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EP 15

第二種目・借り物競走(大パニック)

「はいはーい。第一種目はまさかの全員反則負けというクソみたいな結果でしたがー。気を取り直して第二種目、『借り物競走』いってみよー。ヒック」

 放送席のルチアナが、完全に出来上がった赤い顔でマイクを叩く。

 グラウンドの中央には、裏返された大量の紙きれがばら撒かれていた。

 マモルがホイッスルを吹き、ルールを説明する。

「いいか! グラウンドの中央にある『お題』の紙を拾い、そこに書かれている『人』や『物』を連れてゴールしろ! 魔法は禁止だ! 自らの足で探し出せ!」

 スタートラインには、新たな顔ぶれが並んでいる。

 黒組から元魔王軍将軍・デュラス。

 白組から、砂を噛んで復活した極貧アイドル・リーザ。

 赤組からは、純情乙女の聖女・フィリアだ。

「位置について……パァン!」

 ピストルの音と共に、三人が一斉にグラウンド中央へダッシュする。

 まずは黒組のデュラスが、一枚の紙を拾い上げた。

「ふむ……お題は……**『可愛い幼女』**か」

 デュラスは周囲を見渡した。

 そして、赤組の応援席で「ふれー!ふれー!」とポンポンを振っている、始祖竜アルカ(6歳の姿)を発見した。

「おお、丁度良い。おいアルカ殿! すまぬが少し一緒に来て……」

 デュラスがアルカの腕を掴もうと手を伸ばした、その時である。

「むー? あるか、いまおうえんのダンスちゅう! じゃましないでー!」

 アルカはぷくっと頬を膨らませ、デュラスに向かって「ふーっ」と息を吹きかけた。

 ただの子供の息。……ではない。

 彼女は『始祖竜』である。

 カッ……!!!

 アルカの小さな口から放たれた『クロノス・ブレス』。

 それは水爆クラスの破壊エネルギーを超圧縮した、時空すら消し飛ばす光の奔流だった。

「なっ――!?」

 ドゴォォォォォォォォォン!!!

 光の柱が天を貫き、アルニア・ドームの防壁魔法が悲鳴を上げて砕け散る。

 煙が晴れた後。

 そこには、全身が炭化し、アフロヘアになったデュラスが、口からポロッと白い煙を吐いて立ち尽くしていた。

「……可愛い、幼女……」

 パタッ。

 元魔王軍将軍、ワンパンで轟沈。

「幼児に気安く触るからだアホ将軍! 黒組、リタイア!」

 マモルがメガホンで叫ぶ中、レースは続く。

 続いてお題の紙を拾い上げたのは、白組のリーザだ。

 彼女は紙を開き、目を丸くした。

「……お題、『一番価値のあるもの』」

 ピクッ。

 リーザのハイエナ・アンテナがビンビンに反応した。

 一番価値のあるもの。それは愛でも友情でもない。現金、あるいはそれに準ずるものだ。

 彼女の目(人魚の動体視力)が、スタジアム中の「金目」のものをスキャンする。

 そして、見つけた。

 救護テントの横で胃薬を飲んでいる、宰相エドガーの腰元。

 そこにぶら下がっている、黄金に輝く重厚な鍵束を。

(あれは……! アルニア公爵領の『大金庫』のマスターキー!!)

 リーザは無駄のないフォームで駆け出した。

 パチンコ屋で培った「落ちている銀玉を拾う」超絶スライディング技術を応用し、エドガーの横をすり抜ける瞬間に、腰の鍵束を引ったくった。

「借ります!!」

「えっ? ……ああっ!? か、鍵が!! 国家予算の鍵がぁぁぁ!!」

 エドガーが血相を変えて絶叫した。

 それを見たSWATのレオパルド騎士団長とイグニスが、競技中であることを完全に忘れ、本気の武器マグナ・バズーカを構えて飛び出した。

「泥棒だ! 止まれリーザ! それは競技の範疇を超えているぞ!」

「パイセン! ガチ犯罪っす! 止まらないと撃つっすよ!!」

「嫌ぁぁぁ! これは私がゴールに持っていくのよ!! あわよくばそのまま換金するのよぉぉぉ!!」

 リーザは鍵束を胸に抱きしめ、SWAT部隊の銃撃(ゴム弾)をジグザグ走行で避けながら、ゴールとは逆方向(場外)へ逃走を始めた。

「待てルパーン! ……じゃなかった、リーザ! 白組、窃盗により失格!!」

 カオス極まるグラウンド。

 残るは、赤組のフィリアただ一人である。

「私の……私のお題は……」

 フィリアは紙を開き、その文字を見た瞬間、ボンッ! と音を立てて顔を真っ赤にした。

 そこには、**『好きな人』**と書かれていたのだ。

「す、すきな、ひと……!」

 純情乙女のフィリアにとって、これほど恥ずかしく、しかし「合法的にアピールできる」お題はない。

 彼女は潤んだ瞳で、一直線に走った。

 向かった先は――。

「え? おいフィリア、何して……」

 審判をしているマモルの前だった。

 フィリアはギュッとマモルの手を両手で握りしめ、顔を林檎のように赤くして見上げた。

「マモル……! 一緒に、来て……!」

「お、おい! 俺は審判だぞ!?」

「だ、だって! これがお題だもの! マモルじゃなきゃ、ダメなの……っ!」

 有無を言わさぬ力(聖女特有のバカ力)で、マモルはズルズルと引きずられていく。

 そして、見事に二人でゴールテープを切った。

「ゴ、ゴールでーす! いやー、大胆な告白ですねー。青春だねぇ、ヒック」

 ルチアナが冷やかすように実況する。

「お、おいフィリア。お題は何だったんだ?」

 マモルが照れ隠しに尋ねた、その直後だった。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

 背後から、魔王の再来かと思うほどの、恐ろしい殺気が膨れ上がった。

 赤組の陣地。

 そこには、完全に目が据わったヴァルキュリアとエルミナが立っていた。

「フィリアちゃん……? 『好きな人』のお題で、マモル様を……?」

 エルミナの手にする木刀が、バキバキと音を立てて軋む。

「抜け駆け……。この私を差し置いて、衆人環視の中で正妻アピール……。万死に値しますわ」

 ヴァルキュリアの背中から、黒い堕天使の羽(怒りのあまり変質)がバサァッと広がった。

「ひぃっ!?」

 フィリアがマモルの背中に隠れる。

「や、やめろお前ら! これは競技だ! ただの競技の一環だ!」

 マモルが必死に両手を振って弁明するが、修羅場と化した嫁候補たちに教師の言葉は届かない。

「マモル様は下がっていてください。……少し、生意気な小娘に『神罰』を下してきますわ」

 嫁候補たちの嫉妬の炎が、アルニア・ドームの気温を5度は引き上げた。

 窃盗犯リーザを追うSWATの銃声、黒焦げのデュラス、そして嫁候補のドロドロの愛憎劇。

「……なんで俺、運動会なんて企画したんだろ」

 マモルは額を押さえ、胃薬を求めてエドガーを探したが、エドガーはまだリーザを追いかけて地平線の彼方へと消えていた。

 絶望の第二種目は、赤組の勝利(と凄まじい遺恨)を残して終了したのだった。

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