EP 14
最強(最凶)のチーム編成
アルニア領の郊外に、突如として巨大なスタジアムが出現していた。
マモルのユニークスキル『マイホーム(という名の超絶土木建築能力)』と、ドワーフの技術力を結集して一晩で建造された『アルニア・ドーム(屋根なし)』である。
グラウンドには白線が引かれ、万国旗がはためき、どこからか軽快な行進曲(マモルのスマホから魔導スピーカー経由で流れる運動会の定番BGM)が響き渡っている。
「えー、あー、テステス。マイク本番入ってまーす」
放送席に座っているのは、紫色の芋ジャージを着た駄目女神、ルチアナだ。
彼女の右手にはマイク、左手にはすでにジョッキ(中身は冷えた生ビール)が握られている。
「本日は晴天なりー。第一回アルニア大運動会の実況は、ギャラとして『麦焼酎一升瓶』で買収された、私、女神ルチアナがお送りしまーす。ぷはっ、昼間から飲む酒は最高ね!」
ピーッ!
グラウンドの中央で、ジャージ姿のマモルがホイッスルを吹いた。
「実況! 酒を飲みながら喋るな! ……えー、これよりチーム分けを発表する! 今回は参加者を3つのチームに分けた。各チームの代表者は前へ!」
マモルの号令に合わせて、三つの集団がグラウンドに整列した。
しかし、その空気は「スポーツの祭典」のそれではない。完全に「最終決戦」の威圧感が漂っていた。
「まずは【赤組】! マモル邸チーム!」
ズオォォォ……ッ!!
赤組の陣地から、凄まじい「愛のオーラ(物理)」が立ち昇った。
メンバーは、フィリア、エルミナ、ヴァルキュリア。そしてマスコット枠の始祖竜アルカ(人間形態)だ。
「マモル……。待っててね。私、絶対に優勝して、あの紙(婚姻届)にハンコを押してもらうんだから……!」
純白の体操服に身を包んだフィリアが、弓の弦をギリギリと引き絞りながら呟く。
「ええ。正妻の座は力で奪い取るものですわ。邪魔する者は全て、私の『聖なる光』で浄化してさしあげます」
エルミナが木刀(強化魔法フルバフ済み)を構え、美しい笑顔で殺気を放つ。
「ふふふ……。神界の元トップエリートであるこの私に、死角はありません! 優勝商品の『なんでも言うことを聞かせる権利』で、マモル様と毎晩あんなことやこんなことを……!」
ヴァルキュリアは鼻血をツツーッと流しながら、すでに妄想の世界へ旅立っていた。
「まもるー! あるかもがんばるー!」
何も分かっていないアルカだけが、無邪気にポンポンを振っている。
マモルは胃のあたりを押さえた。
(あいつら、俺を景品扱いしてやがる……)
「つ、次は【白組】! シェアハウスチーム!」
バチバチバチッ!
赤組の愛のオーラに対抗するかのように、白組からは「強欲のオーラ」が放たれていた。
メンバーは、キャルル、ルナ、リーザの3人。
「ちょっとリーザ。あんた、ハチマキきつく締めすぎじゃない? 目が血走ってるわよ」
「当たり前よキャルル! これは私の人生がかかっているのよ!!」
リーザは頭に白ハチマキを巻き、両鼻にティッシュを詰めて(興奮のあまり鼻血が出たため)仁王立ちしていた。
「見てなさいマモル! 優勝して、アルニアの税金をゼロにする法案を通させてやるわ! そして私はステーキの海で泳ぐのよーっ!!」
「まあまあ。皆で仲良く世界樹を植えましょうね♡」
ルナが天然の笑顔で、グラウンドの隅に謎の種を蒔いている(後で大惨事になるフラグである)。
「そして最後は【黒組】! 魔王軍&SWAT合同チーム!」
ドォォォォン!!
黒組の陣地は、もはや「軍隊」だった。
元魔王サルバロス、元将軍デュラス、SWAT隊長レオパルド、そして巨漢の竜人イグニス。平均身長2メートル超え、筋肉と覇気の塊である。
「フハハハ! 見よ、この圧倒的な武力を! 余が優勝したあかつきには、マモルの家に『防音ゲーミングルーム(最高級チェア付き)』を建設させるのだ!」
「魔王様、志が低すぎますぞ! 俺は……俺はマモル殿に、競馬の軍資金を無利子で融資させる!」
「馬鹿者どもが!」
レオパルドが腕を組んで一喝した。
「我らSWATの目的はただ一つ! 部隊の『予算増額』だ! そうだろ、イグニス!」
「押忍! ボロ倉庫からの脱却! そして給料日前のカップ麺生活と決別するため、俺は鬼になるっす!!」
全チームの紹介が終わり、グラウンドには一触即発の空気が満ちていた。
互いの陣地から放たれる殺気、魔力、闘気、そして金銭欲がぶつかり合い、上空の雲が渦を巻いている。
マモルの隣で、審判員を務める宰相エドガーが、顔面蒼白で胃薬の瓶を傾けていた。
「……閣下。これ、本当にスポーツの祭典でございますか? 私には、アルニア領の滅亡の危機にしか見えないのですが……」
「大丈夫だ、エドガー。いざとなれば俺が止める。……たぶん」
マモルは額の汗を拭いながら、元・合気道部顧問としての威厳をかき集めた。
「選手宣誓! 代表、リーザ!」
「はいっ!!」
リーザが猛ダッシュで朝礼台の前に飛び出してきた。
「宣誓! 私たち選手一同は! 金と肉と己の欲望に忠実に! どんな手を使ってでも優勝をもぎ取り! マモルから全てを搾取することを誓います!!」
「スポーツマンシップの欠片もねぇ宣誓だな!!」
マモルの怒号とツッコミが青空に響き渡る。
かくして。
公平なルールなど一瞬で崩れ去るであろう、血湧き肉躍る大運動会が、絶望的な熱量と共に開幕した。
最初の種目は、人間の限界を超越した『100m走』である。




