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【番外編】猫耳の鞄

 それは、あるお客様の何気ない一言がきっかけだった。


「ねえ、この鞄、兎耳じゃなくて猫耳付きのものも作れない?」

「はい?」


 アルカナが首を傾げて問いかけると、そのお客様はこう言った。


「いや、Sランク冒険者のウェイクさんって知ってる? ハーフ獣人で猫耳が生えているんだけど、孤高の冒険者でかっこよくてね……! 女子冒険者の間で人気があるのよ。だから、あなたをイメージした兎耳の鞄があるなら、猫耳の鞄があってもいいんじゃないかって」

「なるほど」


 お客様の話を聞いたアルカナは納得した。

 知っているも何も、ウェイクはこの店のスタッフの一人である。

 別に彼は客前に出て接客などしないので店にいることを知っているのは、紹介してくれたギルドマスターくらいなのであろう。

 お客様は手を組み、頬を赤らめて恍惚とした表情で語った。


「ウェイクさんに似た耳付きの鞄を背負っていれば、もっと冒険頑張れる気がするのよねー!」


 アルカナは長年やむをえずダンジョンに潜り続けていた経験から、知っていた。

 モチベーションというのは非常に重要だ。

 やる気があれば時に、格上の魔物相手にも勝ててしまうのが冒険者という人間。

 だから鞄一つでやる気が出るなら、それは非常に良いことであろう。

 アルカナは頷き、目の前のお客さまに言った。


「わかりました。この鞄、猫耳付きに改良します!」

「本当!? ありがとう!」


 何より金貨五百枚も支払って買うのだから、そのくらいのサービスはするべきだとアルカナは思った。

 


+++


 ダンジョンにひと潜りしていたウェイクが久々に店に戻ってきた。

 なぜだか彼は、額に青筋を浮かべている。

 ウェイクは閉店した店の中でくつろぐアルカナとモーガンにズンズン近づくと、カウンターに手をついて詰め寄った。


「……おい、アルカナ、モーガン。ギルドに行ったら、猫耳付きの鞄を背負っている冒険者がいたんだが一体どうなってるんだ」

「あぁ、それアルカナに頼まれて作ったんだよ」

「はあ? なんでそんなもの頼んだ」


 視線だけで殺せそうなほど鋭い目つきでアルカナを睨みつつ、ウェイクが言う。

 アルカナはSランク冒険者の放つ殺気に充てられ、しどろもどろになりながら答えた。


「いや……お客さまに、欲しいって言われたから……ほら、うさぎ耳付きの鞄があるなら、猫耳付きも欲しいって! ウェイクさん、女性冒険者さんの間で人気あるんですね! 知らなかったー!」

「やめろ! 今すぐ販売中止にしろ!」

「でも、もう結構な受注を承っていますし。ほら」


 アルカナの差し出したリストには、十名ほどの猫耳鞄をご所望のお客の名前が書いてあった。


「ていうか兎耳の鞄も羞恥を偲んで売っているんだから、ウェイクさんもそのくらいの泥は被りましょうよ」

「ぐ……だがな……!!」

「ホラァ。お金のためだと思って!!」

「……!…………!!」


 孤児院に寄付しているウェイクは、お金をできるだけ稼ぎたいと思っている。

 拳を握りしめ、自身の尊厳と葛藤していたウェイクは、観念したように息を吐き出して言った。


「……次からは俺の許可をとれよ」

「はぁい!」


 なんだかんだ許すウェイク。

 同じ穴の(むじな)である。

 かくして魔法の鞄屋さんには、兎耳だけでなく黒い猫耳付きの鞄がラインナップに加わったのであった。


お読みいただきましてありがとうございます。

ぜひ、広告↓の☆☆☆☆☆より評価をお願いいたします!


なお、別作品の和風ファンタジー連載中ですので、よろしければご覧ください。

皇帝陛下の御料理番〜田舎娘は宮中を料理の腕で無双して成り上がる〜

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― 新着の感想 ―
[一言]  (*´∀`*)ノ犬耳版(鞄)を、下さい…!
[良い点] おもしろかったです。 まさかの王女様との出会いや デザイナーデビューになるとは。 孤児院で使いきれないほどの寄付金になりそう。 [気になる点] お店の3人や王女様や 冒険者のアルカナ好き…
[一言] とても可愛らしいお話。 私は大好き!
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