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決闘Ⅰ

 「では、これよりアドウィックの娘シオンとアルノーの息子ハンスの決闘を主とした、武闘大会を開始する!」


 力強く天に向け掲げられた手と共に、アドウィックの力強い声がこだまする。宣言に続いて、集まった村人たちの拍手と感性の声が鳴り響いた。


 娯楽が少ない村という環境において、何かイベントごとがあれば一気にお祭り騒ぎまで発展させたがるのが村人の習性だ。


 特に、武人としてほまれ高いアドウィックの血を引く娘と、村長の孫であり騎士を父親に持つハンスとの決闘となれば強く興味がひかれるものであり、緊急の仕事がない村人はほぼ全員集まっていた。


 「この度の決闘は、共に同じ土地で腕を磨き、共に育ってきた者がその武を競い合う神聖なものである! よって、それがしは審判を任された者として……なにより一人の武人として、公平な目を持って試合を見届けることを戦いの神アードルフィートに誓おう!」


 アドウィックの宣誓の声に続いて、神官の格好をした村人達が祝辞を読み上げる。ロープで仕切られ即席で設けられたフィールドの周りでは屋台で芋や魚が焼かれ、またあるところではどちらが勝利するかトトカルチョが行われている。


 集まった観客達がやんややんやと騒ぐ中……当の主役の一人であるシオンは、人の目を避けるように木の陰に隠れていた。


 「リ、リリィ!? これ、どういうこと……!? こんなに人集まるなんて聞いてないよぉ!?」


 「わ、私も知らないわ!」


 涙目でガクガクとリリィを揺さぶり問い詰めるシオン。だが、リリィも困惑顔だ。こんな事態になるなんてリリィも聞いていなかった。


 「奥の広場で私達だけでするはずだったのに……なんかすっごい人集まってるし、参加者も増えてるし、一体どういうことよ」


 「はっはっは、どうだ、俺様のセットした舞台は。気に入ったか?」


 「……ハンス?」


 高笑いをしながらやってきたのは、今日の決闘の相手である茶髪青目の少年ハンスだ。


 その姿が見えた瞬間サッと背に隠れてしまったシオンに代わり、リリィがハンスに問いただす、


 「どういうことよ」


 「はっ、そんなの決まってるだろ。せっかくこの俺様がカッコよく勝利する晴れ舞台になるんだ。未来の村長のカッコいい姿を、たくさんの人に見てもらわないとな!」


 「ふぅん、どうだか。無様な姿を晒すだけに終わらないといいけどね」


 「なんだとー!?」


 リリィが小馬鹿にした表情で挑発すれば、ハンスはすぐにカッとなって言い返す。


 「だいたいよー、シオン! そんなビビってるようでこの俺様に勝てるわけねーだろ!」


 「ひっ……ま、負けないもん……!」


 リリィの背中に身を縮こまらせて隠れながら、ひょこっと顔だけのぞかせて言い返すシオン。いまいち説得力の無い姿だ。


 「……ま、今のうちに好きに言ってるといいわ。勝つのはうちのシオンなんだから」


 「そっちこそ、今のうちに負けたときの言い訳でも考えておくんだな」




◇◆◇




 一般参加の村の子供達による腕くらべが終わり、いよいよメインイベントである決闘の時間がやってきた。


 「では、これよりシオン陣営(・・)とハンス陣営(・・)による決闘を開始する!」


 観客の声援に負けない声量でアドウィックが宣言する。その言葉の通り、決闘の形式は陣営同士の戦いだ。


 「まずは前哨戦! シオン陣営より、グレイの娘リリィ!」


 「さ、私の出番ね!」


 ぴょん、と観客席から飛び出す小柄な姿に、群衆からは経路の違ったざわめきが広がる。


 村のお手伝いをしたり子どもたちに勉強を教えたりと、村の中でアイドル的な立ち位置のリリィは有名人だ。それだけに、一度も剣を握ってるところを見たことがない少女が戦うという事態に困惑が隠せない。


 「リリィちゃんって戦えたのか?」


 「さぁ……あんな小さいのに、大丈夫なのかしら」


 観客の中から心配する声が聞こえる。そして、心配しているのは観客だけじゃなくリリィの両親も同様だ。


 「リリィ、ほんとに大丈夫なのか? 今からでも棄権したほうが……」


 「そうよ、リリィちゃん。剣の試合なんてそんな危ないこと……」


 「大丈夫よ、お父さんお母さん。ちゃんと怪我しないで勝ってくるわ!」


 心配じて観客席から出てきた両親にひしっとハグをし、リリィはフィールドの中心へと歩み出る。


 シオン陣営の準備が終わった一方、ハンス陣営では揉め事が起こっていた。


 ハンスの取り巻き……リックとレオンのうち、どちらが出るかが決まってなかったのだ。


 「……おい、リック。お前戦えよ」


 「い、いやだよ、レオンが出ろよ」


 二人は、一ヶ月前ハンスがリリィにあっさりと転ばされたところを見ていたのだ。完全に怖気づいていた。


 お前がいけ、いやお前が。肘で互いを押し合いながらいつまでも決まらない出場者に会場が白け始める中、待ちきれなくなったリリィが全員を驚かせることとなる提案をする。


 「……ねぇ、いっそのこと二人一緒に出たら?」


 「は?」


 「へ?」


 つまり、二対一の提案だ。シーンと場が静まり返る中、審判のアドウィックが発案者たるリリィに問いかける。


 「……リリィ殿、本気か?」


 「ええ、それぐらいじゃないと張り合いが無いわ」


 ま、どのみち勝つのは私だけど──リリィは不敵な笑みで宣言する。


 完全に舐められている。そう気づいたリックとレオンは額に青筋が浮かぶ。互いに頷きあうと、木剣を持ってフィールドの中央へと飛び出た。


 「……ボッコボコにしてやるよ!」


 「おまえが言い出しんだ、あとから謝っても許してやんねーからな!」


 「では、両陣営距離をとって! ……いざ尋常に、始め!」


 掲げられた手が降ろされ試合開始が宣言されるとともに、リックとレオンがリリィに向かって走り出す。途中で二手に分かれ、左右から挟撃する形だ。


 (やっぱり、遅いわ)


 その様子をぼーっと眺めるリリィの内心は、どこまでも余裕だ。前世において勇者と文字通り命がけの戦いを繰り広げた彼女にとって、この程度止まって見えるも同然だ。


 左右から挟み撃ちに入る二人の剣が届く直前、リリィが動き始める。


 「てやっ」


 「うぐっ!?」


 最小限の動作で二人の振り下ろす剣から逃れ、小柄な体格を生かしてレオンのふところに潜り込む。みぞおち目掛けてゼロ距離で剣を突き出せば、レオンは潰れたカエルのような声を吐き出してうずくまった。


 「隙あ「甘いわ」……うわっ!?」


 背後から襲いかかるリックの横薙ぎの一撃をリリィはしゃがみこんで回避、そのまますかさず足払いをかけ転ばさせる。


 「私の剣は軽いけど、こうすれば!」


 「ぐはっ!?」


 倒れ込むリックの横腹へと、すくい上げるような剣の一撃。振るわれた剣の速度に倒れ込む自分自身の自重が重なり、見た目以上の重い衝撃が加わる。


 またたく間に二人を沈めてしまったリリィの姿に、一瞬ぽかーんとしていた観客席からやがて歓声が沸き起こる。ドヤ顔でそれに答えていたリリィは、ノロノロと起き上がってきた二人に対し木剣を突きつけて不敵に笑ってみせる。


 「どう? まだやる?」


 「くっそぉ……」


 「あたりまえだぁ!」


 挑発され、顔を真っ赤にした二人は再びリリィに襲いかかる。それをリリィは危なげなく反撃、再度うずくまる二人の姿が作り出される。


 起き上がっては襲いかかり、それを避けては反撃し……まるでリプレイのような光景が数回繰り返されれば、やがて力尽きたリックとレオンはとうとう起き上がることすらできなくなった。


 「そこまで! 勝者、リリィ殿!」


 「ま、当然の結果だわ!」


 湧き上がる歓声の中、ふんぞり返るリリィ。観客席からシオンが飛び出し、リリィに抱きついた。


 「すごい、リリィすごい! ほんとに強いんだね!」


 「ふふん! 私は世界を支配する者よ、この程度朝飯前だわ!」


 「すごいすごい!」


 リリィの勝利を、シオンはまるで我が事のように喜ぶ。配下からの心からの称賛にいい気分に浸っていたリリィは、しばらくしてそっとシオンを剥がした。


 「……さ、次はシオンの番よ」


 「あっ……」


 これからあのハンスと戦わなきゃいけないのだ。喜びに忘れていた事実を思い出し、シオンの顔がサッと青ざめる。


 恐怖に体が小刻みに震えだしたシオン。その震えを取り払うかのように、今度はリリィがシオンの体を優しく抱きしめる。


 「大丈夫よ。今の貴女なら、きっと大丈夫だわ」


 「リリィ……」


 「自分を信じなさい」


 「……うん」


 シオンは覚悟を決め、こくりと頷いた。

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