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ルイ王子、暴走する

 目が覚めた。するとなぜか目の前にルイ王子がいた。

 ひらひらなシャツを着て、黒いズボンをはいていかにも王子様って感じだ。

 伏し目がちの瞳がどこか色っぽさを宿している。


「きゃあああっ」

「……おはようクリス」

「何でいるの!?」

「人肌求めて?」

「……変態」

「嘘嘘、寝ぼけて部屋間違えたみたい。ぼくの部屋は三階のここらへんだから」


 そう言えばそうだっけ。本当、迷惑な間違いだなあ。


「ドキドキした?」

「…………」

「答えないって事はしたんだ?」

「うるさいっ」


 ルイ王子、何気にはだけてるし。

 白い肌だけれど、それなりに筋肉はついているらしい。

 そう言えば噂では病弱だけどそれなりに色々できるんだっけ?

 しかも、ロイ王子よりも優秀だとか。

 正直そうは見えないけれど。ただ、活躍できる時間はやっぱり短いらしい。


「まあ、お子様だらけのこの状況じゃ、ぼくだけが魅力的だろうね」

「ブルーノだって十八歳だし」

「でも、恋愛経験はないだろうね、彼は」

「ルイ王子はあるの?」

「あるよ」

「えっ……」

「小説の中の相手だけどね」

「……なんだあ。びっくりした」

「幼いぼくは本気だったんだ」

 確かに子供にとっては、そうかもしれない。

「獣人と愛し合った、あのお姫様の、お姫様に恋をした」

「え」

「だからこそ、獣人が憎い」

「…………」

「それにあの人が……ってうわああああ」


 ルイ王子が突然抱き着いてきた。

 何事かと思えば、雷の音が聞こえる。


「怖いの? 雷」


 私はルイ王子を引きはがしながら、たずねた。


「怖いに決まってるだろ」

「ブルーノ達はみんな平気だよ」

「ロイも平気だな……ぼくは、大きな音が苦手なんだ。泣きじゃくる母上を思い出す」

「お母様?」

「ぼくが病弱すぎて、いつも泣いていた」


 なんて切ない事実なんだろう。


「いつも癇癪起こして、ロイに当たるんだ。でもぼくは怖くて、止めることもできない。自分に火の粉が飛ぶのが怖い、ダメな兄だから」

「…………」

「呆れた?」

「……怖い気持ちはわかるよ。助けたくても助ける勇気が出ないのも、なんとなく」

「人間は自分が一番かわいいんだ。ロイはバカだから、獣人と仲良くしようとするし、それを隠しもしないんだ」


 そう語るルイ王子の目は、せつなげだった。

 ロイ王子は素直なところがあるから……そんなロイ王子の事を、どういう目で見てきたのだろう。きっとルイ王子は、親の期待に応えようと努力してきた。

 病弱ゆえに、無理ではあっても、周りが期待するような人物であろうとした。

 その結果、街人に怖い王子だと言われても。


「自分をよく見せる方法を、あいつは知らないから」

「ロイ王子が?」

「いつも人の事ばかり考えてる」

「それは、ロイ王子のいいところだよ」

「……けれどそれが……ってうわああ」


 また雷が鳴る。私に再度抱き着くルイ王子。

 今度は私は呆れながらも引きはがさない。

 優しく赤子をあやすように、私は撫でた。


「本当は弟想いなお兄さんなのね、貴方」

「気のせいだ」


 拗ねるように、ルイ王子が言った。

 私はくすくすと笑う。

 今までのルイ王子のイメージが少し覆された気がする。


「雷が病むまでは、ずっとそばにいてくれ……」

「かまわないわよ、ルイ王子。その代り話をたくさん聞かせて」

「……弱みを握ったつもりか?」

「そんなんじゃないわよ。貴方を少しでも理解したいの」

「そして、シャロック国を落としたいのか」

「勘ぐり過ぎよ……」


 私ははあ、とため息をつく。

 何で純粋な意味捕らえてくれないのかなあ。


「まあ、お前がこっち側に来てくれればぼくが交渉しなくもない」

「それはないかな」

「というか、ロイお前出てこい」

「え?」

「途中から、あけようとしてずっと見てただろう」


 そう言われてドアから顔出すロイ王子。

 すごく申し訳なさそうな顔をしている。


「兄上すみません、タイミングがわからず……」

「大声出せばいいだろう? 別に後ろめたいことがないなら」

「そうですね、兄上」


 ロイ王子はもじもじしている。まあ、自分を話題に出されていたら、顔も出しにくいよねえ。ルイ王子ははだけた胸元を直して立ち上がる。


「じゃあ、ぼくは部屋で着替えるかな……さすがに部屋着はちょっと」

「え、これパジャマなの?」

「それ以外の何に見える?」

「……普段着?」

「前会った時はもっと豪華な服着てたはずなんだけど記憶にない?」


 人の服装にあまり興味がないからなあ。言われてみれば、金糸をふんだんに使い宝石も使ったゴージャスなものだった気がする。ロイ王子も、ひらひらとした似たような系統の服を着ているし……ショートは基本王子! な感じの服だけど短いパンツに冬場は白いタイツを履いている。本人は子供っぽくていやらしいけれど、お妃さまの趣味らしい。まあ、アンナ可愛い息子だったら、子供らしい格好をさせたくなるよね。


「何頷いてるんだ、クリス」

「ロイ王子……いや、色々勝手に納得しててね」

「兄上は部屋着にこだわりがあるからな。何せ大体の時間を部屋で過ごしてきている。いつ来客が来てもいいようにこだわってるらしい。俺は普通にもっと楽な格好だ。まあ……クリスほどではないが」

「私?」


 私は冷静に自分の服を見る。ピンクのネグリジェを着ていた私は悲鳴を上げた。

 王様の趣味で、パジャマじゃなくネグリジェを渡され、素直に着たのだ。

 レースがふんだんに使われていて、小さなリボンがいっぱいついている。

 少女趣味なそれに、今は春だからとルームシューズもふわふわだ。


「クリス……」

「やだあ、見ないで……」

「着替えろ」

「っていうかルイ王子は?」


 気が付けばいないんだけれど、どこ行ったの?


「部屋に戻った」

「なるほど、ロイ王子は戻らないの?」

「少しクリスと話したいから、着替えるのを待つ」

「わかった……」


 そう言えば使用人は何でいないんだろう。

 着替えって言えば騒いで持ってきそうなものなのに、やっぱり他国の王族がいるから遠慮してるのかなあ。使用人がいればルイ王子の侵入を阻止できたと思うんだけれど。肝心な時にいないんだから、もうっ。

 私は白いワンピースに着替えた。さっぱりとしているけれど、やっぱりフリフリが付いている。おおいきなリボンが胸元についていて、どこか幼い感じ。

 そして着替えると、ロイ王子の元へと扉を開けて向かう。

 ロイ王子は、ぼんやりとした顔で廊下に立っていた。


「クリス……」

「おまたせ。で、話って何?」

「……忘れた」

「ええっ」

「悪い……」

「まあ、いいんだけれどね。たいしたことじゃないんでしょ?」

「多分な」


 なんかそわそわしてるロイ王子に、私は思わず笑う。


「でも、ルイ王子ってそんな悪い人じゃないのかもね」

「兄上は、色々不器用だ」

「うん、多分そう」

「獣人を早く好きになってほしいと思う」

「うん、そうだね」

「けどな、一つ兄上は嘘をついた」

「え? 嘘?」


 何それ、気になるんだけれど。

 私が目をぱちぱちしていると、ロイ王子はため息をついた。

「雷が怖いのは俺だ、兄上は平気どころか、怖がる俺をバカにしている」


「……ルイ王子―!」


 私は当然ルイ王子を、探して追っかけまわした。


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