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ふたりの王子


 現在私はふたりの王子に取り合われている。


「ロイ、ぼくにクリスを貸してくれないか。まだ具合が悪いから暇なんだ」

「兄上、なら寝ててくださいっ」

「ルイ王子、ロイ王子、腕を引っ張らないで……私はひとりしかいないから」


 このままだとちぎれちゃうよ……。

 リルは面白がってのんきに眺めているだけだし。

 使用人は、王子に何か言えるわけもなく。

 あれからしばらくして、ルイ王子は少し元気になった。

 で、私を暇つぶし相手に任命している。

 ブルーノ達三人には、それを伝言しておいてはくれたようだけれど。


「俺もクリスと話とかしたいし」

「……この部屋で三人で話せばいいような」

「そうかもね。ぼくの部屋でロイが風邪をひいていいなら」

「死にかけるほどの風邪をうつす気、兄上」

「そう思うなら出てけば?」

「……ぐぬぬ」


 うわあ、うまい誘導……。


「俺は体だけは丈夫だから、大丈夫。使用人たちも出てっていいよ」


 使用人たちはしぶしぶ去っていく。

 ルイ王子の体調が心配なのだろう。


「クリスを取られると思ってる? ロイ」

「なっ」

「もしかして、初恋ってやつ?」

「兄上!」


 あ、ロイ王子の顔真っ赤っかだ。

 半泣きになってるし、で、何が初恋なの?


「兄上こそ……女性経験皆無じゃないですかっ」

「病弱じゃ無ければきっと遊んでたよ」

「嘘だ、兄上は婚約者すら断ってるじゃないですか」

「ああもう、うるさいな……そりゃ、体調が不安定なのに婚約しても相手が苦しむだけだろ」

「……兄上は、なんだかんだでやっぱりお優ししい」

「気のせいだ」


 ……そうかなあ。婚約者の悲しみをすぐに想像するのは、性格悪くはないと思うけれど。もしかして、ルイ王子は素直じゃない性格?

 そうこうしているうちにルイ王子向けのご飯が運ばれてきた。

 水粥である。それに、薬がたくさん。


「クリス、食べさせろ」

「ええ!?」

「王子の命令だ」

「……はあ」


 甘えたいのかなあ……。

 ロイ王子がぽかんとしている。

 私達のご飯も、運ばれてきた。当然普通の食事だ。 

 私はため息をつきながら水粥をスプーンに掬う。


「口をあけて、ルイ王子」

「ん」

「はい」


 私はルイ王子の口に水粥を運ぶ。

 最後のほうになるまで、それを繰り返し……ルイ王子は満足そうに笑った。

 なんか、ロイ王子が呆れている気がする。


「ぼくに、服従すればいいところに連れてってあげるのに」

「いいところ?」

「ふふ、正しいものを教えてくれる人のところにさ」

「……何それ」

「ぼくだけを見ればいい、この世界で一番正しいのはぼくだから」

「違うんじゃないかなあ」

「その証拠は?」

「ないけれど」

「じゃあ、やっぱりこの世界で一番正しいのはぼくだよ」


 どこから来るんだその自信は。そういう教育されてきたんだろうなあ……。


「ねえ、ロイ」

「……そうですね、兄上」


 なんだかしょんぼりするロイ王子。


「ってわけで、ロイは撤収」

「え」

「世界で一番正しいぼくの命令」

「えええええ」

「そう認めたのはロイだよね?」

「それは流れで!」

「じゃあ、その流れに乗って撤収―」

「……わかりましたよ。出てけばいいんでしょう」

「食事も持ってってねーぼくいらないから」

「いりませんっ」


 あーあ、出てっちゃったよロイ王子……。

 で、当然のようにルイ王子とふたりっきりになってしまったわけですが。

 ルイ王子は満足げに私の肩を抱いている。


「ご飯食べたいんですけど」

「食べさせてあげようか?」

「寝ててくれない?病人様は」

「……暇なんだよ、ぼくは」

「私はおなかが減ってるんで!」


 グルルルル、とみっともないぐらい大きなおなかの音が鳴る。

 私は顔を熱くする。

 それを見て、面白げに笑うルイ王子。

 うう、恥ずかしいよお……。


「ぼくも食べたいなあ」

「元気になれば食べれるんで、寝てて」

「んー、食べたいのはクリスをだよ」

「……ふざけないで」


 なんなんだこの人は。私をおもちゃとしか思ってないよね。

 リルはすやすや夢の中に入っちゃってるし。

 誰か助けてよー!


「まあ、まだ子供すぎてダメかな。凹凸のひとつもない」

「悪かったわね!」

「大人にさせてあげようか? ぼくが」

「どうやって」

「え、聞きたい?」

「……やっぱいいです」


 頭痛い……。ご飯をゆっくり食べながら、定期定期的に私をおさわりするルイ王子の手をどかす。変態なのか、この人は。

 途中で飽きたのか読書して私が食べ終わるのを待ち始めたけれど。

 ……これが噂の怖い王子か。

 ある意味すごい怖いけれど! ぶっ飛んだ性格すぎるでしょ。


「おいしい? クリス」

「え、まあ」

「じゃあ、ずっとこの国にいればいいよ」

「それはできないわ、皆が心配するし」

「ぼくと婚約すればいいよ」

「え」

「婚約者今いないんだよね。さっき言った通り、断ってたから。でもクリスなら、僕が死んでもやってける気がするし……」

「…………」 


 思わず固まる私。そこに、聞きなれた声が聞こえた。


「クリスちゃんに手を出すなあああ」

「何黙ってるんだよクリス! 逃げろ」

「うわあああん、クリスおねーちゃんの婚約者はボクなのにっ」


 ブルーノ達だった。見慣れない服を着ているが、多分洋服をもらうなりしたのだろう。貴族っぽい格好で、すごく華麗な感じなっていた。

どうやら使用人が後ろにいるあたり、話し合いでもしたのだろう。と、思ったら横にはロイ王子がいた。なるほど、密告したわけね……。

 ルイ王子はにっこりした後、ロイ王子をにらんだ。


「ロイの仕業か」

「……さあ、どうでしょうね。兄上」

「クリスちゃんを返せ!」

「そうだよ、クリスおねーちゃんを取らないで!」

「魔法を使え、クリス!」

「……うるさいなあ、冗談に決まってるじゃないか」


 ルイ王子は耳をふさぎながら言った。

 三人が固まる。


「冗談? 冗談でクリスちゃんを口説いたの?」

「ひどーい、女の子のをおもちゃにするんだあ。ボクはダメだって知ってるのに、おにーさんはおっきーのにわかんないんだ」

「……バカか」

「ぼくがクリスなんかを本気で好きなわけないだろう、お前を味方にすれば勝てるんだから、口説いてみただけだ」


 そう言ってルイ王子は私をの背中を押した。

 私はそのまま三人のほうに歩いていく。


「とっとと部屋に帰ればいいさ。ぼくはお前らが嫌いだからね」

「僕もあんたたちが大嫌いだ」

「ちょっとケンカしないでよブルーノお兄ちゃん……帰るよ」

「クリスおねーちゃん、会いたかったよおおお」


 シッポをふりながら抱き着いてくるショートを撫でる私。

 泣いた後が目元に残っていて痛々しい。


「ありがとうロイ王子」

「別に」


 私の言葉にそっけなく返すロイ王子。

 やっぱり優しい人だなあ……。


「早く部屋に戻ったらどうだ? もうすぐエイベルって人が来るって聞いた」

「父さんか……」


 ブルーノがつぶやいた。


「帰宅の準備の馬車は出してあげるが」

「ロイ王子、助かる」

「別に、ここに居られても困るからなだけだ」

「……それでも、感謝だよ」


 ロイ王子はきまりの悪そうな顔をしていた。

 そして私達は部屋に戻った。荷造り用の道具が部屋にはおかれていて、ようやくロマンヌ国に戻れるのだと実感した。

 長い旅だったと思う。これで、私達は一時的に平和な時間を手に入れるのだ。

 



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