危険なお姉さん
料理が宙を舞っている。おいしそうなご飯なのに、食欲が失せる図だ。
だけれどチェリーだけはガンガンご飯を食べている。
相当お腹がすいていたのだろう。私は恐る恐る食事に手を付ける。
「ん……、あれ、おいしい」
「もちろんおいしく作らせているわ。子供たちは、いいご飯で大きく育つものよ」
「どんどん食べたくなるような、そんな味ですね」
「おかわりもあるのよ。うふ」
その言葉にショートとブルーノも恐る恐る食事に手を付ける。
スプーンを口に運んだ二人は、目を大きく見開いた。
「おいしー」
「うまいな」
「でしょう、でしょう。わたくし自慢の味なのよ。まあ、作ったのはわたくしじゃないけれどもね、うふ」
ホノカさんは満足げに上品に笑った。
デザートもたくさん用意してくれた。新鮮なイチゴがのったアイスクリームパフェは、ほっぺが落ちそうになった。ホノカさんは、時々発言が変だけれど、まあ気にしないほうがいいよね。
「何か食べたいものがあったら言ってね、うふ。わたくし、お金は有り余っているの。旦那に早く死なれてね……ずっと子供が欲しくて寂しい思いをしてきたの」
「かわいそうー」
ショートはすぐに感化される。子供だからなあ。
でも、結構悲しい話だよね。
このお屋敷も、きっと旦那さんとの思い出が詰まってるんだろうね。
だからきっと手入れもできないままなんだ……。
「あら? なぜ泣きそうなのクリス」
「ううん、ホノカさんつらかったんだなあって……」
「同情してくれるの? 優しいわね」
ホノカさんはそう言って笑った。
そしてホノカさんの上には黒猫がのっている。
にゃあ、と鳴きながらホノカさんに甘えている様子だ。
「貴方達、村人?」
「旅の村人です」
「あらまあ、子供なのに大変ね。きれいな服があるから、着替えるといいわ」
どうしてこども服があるんだろう。まあいいっか。
案内されたクローゼットにはいろいろなサイズのこども服があった。
どこかの貴族のようなものから、素朴なものまで。
男の子向けのものが多いかな? ショートはこういうのにはなれているのか平然としている。ブルーノはもともとが興味がないし、チェリーは自分のサイズに合う服を探すことを必死になっていた。
私は普通のサイズなので、のんびりドレスをえらんでいる。
普通にパーティ意外にドレスなんか着ないから、ワクワクしてきた。
真っ赤なドレスに、白いフリルだらけのワンピース。ホノカさんの趣味なのか、コスプレ衣装もある。
私は恐る恐る衣装に手を入れてみる。うーん変なにおいもしないし、いい感じ。
隅っこでこっそり着替えて、大きな鏡の前でくるりと回ってみたりもする。
「クリスちゃんかわいいー」
「ありがとうチェリー」
「オレは、入るのがこれだけ」
「……ピエロの衣装?」
「ほかにも変ない章ばっかだったし、つまんないー。ブルーノお兄ちゃんはシンプルなセットアップにしてるみたいだよ」
「ショートは?」
「真っ赤なスーツ」
「なんでまた」
「面白いからだってさ」
子供の発想はよくわからない。
私は上品なピーチピンクのドレスを選んだ。
「でももうすぐお風呂入るんじゃないのかな。だから、これは着替えにしよう」
「そーだね。着替えも盗まれちゃったもんね、オレら。下着まで……」
「下着もたくさんあるよ、新品のやつ」
「訳がわかんない屋敷だね……」
「子供をたくさん昔預かってたんじゃないかな、ホノカさんは」
「そうかもねー」
そう言いながら、気に入った服をホノカさんの場所に持っていく私達。
ホノカさんはにこにこしながらお風呂の後に着ることを許可してくれた。
「お風呂はみんな一緒に入るのよ」
「えっ」
さすがに全員が声をあげた。
ちょっとまって、それはないでしょ!?
「わたくしの手で、綺麗な体にしてアゲル」
「順番にで、いいです! さすがに男の子と一緒は……」
「見られることで女の子は美しくなるのよ」
それって何か意味が違うような……。
最年少のショートでさえ、いやいやをしている。
「わがままを言うようなら、出て行ってもらうわ。ここは森の奥深くで、今は真っ暗だけれど、かまわないかしら? うふ?」
ぞっとした、それだけは勘弁してほしい。
私達は仕方がなくみんなで一緒にお風呂に入ることにした。
**********
ホノカさんはまず、見られてはずかしいだろうからと、さきに私を湯船に入れてくれた。みんなそれぞれ身体を必死に隠しているけれど、ホノカさんはその手をどけてにっこり微笑む。
「まだまだ子供ねぇ」
それはどういう意味ですか、ホノカさん……。
「子供じゃないもん」
「ショートは、特にお子様ね、うふ」
「???」
ショートにはその意味は通じていないようだった。
「チェリーはやっぱり立派な体をしているわ、うふ。一番最初に食べちゃしたい」
「鍛えてるので……食べちゃい……?」
「気にしなくていいのよ? うふ」
「はあ……?」
膨れながら湯船につかるショートは、顔が半分隠れていた。
五人も中に入っているから、かさが増してしまっているのだ。
私達は全裸だ。すごくお互いを見るのが怖い。そのくせホノカさんはタオルをしっかり巻いている。
「ホノカさんだけタオル……」
「わたくしは別に、必要ないでしょう、おばさんだもの」
それってどういう意味?
チェリーの身体をなめるように見ている様子のホノカさん。
うー、チェリーがおびえてる気がするよ。なかなか様子を見れないけれど、胸板を触っているのがさっき見えた。
「育つ最中の身体はやっぱり極上ね」
「もっと大人になるつもりですからー」
「あらやだ、もったいない」
「えー? どういう意味です?」
「今の不安定な状態が一番おいしいのよ? うふ」
チロリと舌を出すホノカさんは、なんかいやらしい。
なんて言うか変質者のおじさんっぽい印象があるけれど、お姉さんだし、そんなはずはないよね。気のせい気のせい。
「不安定なんかじゃないですー……オレは、もうすぐ立派な大人になる」
「その心がけもかわいいわあ。でもね、わたくしは今の頑張ってるあなたが好きよ」
「? ありがとうございますー」
そんな二人の会話を、ブルーノは寝そうな顔で聞いていた。
ブルーノの身体には、ホノカさんは食いつかなかった。
「でも、なんで男の子たちの身体に石が埋まっているのかしら」
「それは、病気で」
「そうなの、クリス。かわいそうね。だから逃げ出してきたのね……」
「そうなんですそうなんです!」
よかった、ごまかせた!
ほっとしていると、チェリーと目が合った。鼻血を出してそっぽを向くチェリー。
あちゃー、完全に見られた。ホノカさんが鼻血を止めるためにタオルを外から持ってくる。
「チェリーはスケベね。こっそりクリスの裸を見るなんて」
「ふりむいちゃったら、そこにクリスちゃんがいただけだよ……」
「まだ体は反応しないのね、こんなに早熟なのに」
「? 反応?」
「わかりもしないなんて、かーわいいっ」
なんか、私にはさすがに意味が分かってきたぞ。ホノカさんって、あっちの意味で少年や少女が好きな人……? だから、私達を高く買い取ったの?
ちなみに、リルは外で待っている。
これって地味に危険なんじゃ……でも女の人だし、襲うことはないよね!?
「そろそろのぼせそうなんだけど」
ブルーノがそう言ったので、私達はお風呂から上がることになった。
それぞれさっき選んだへんてこな服を着て眠ることになる。
「わたくしは、あとから行くから二階にある寝室で眠っていてちょうだい」
「はい」
私達は素直に従った。
そして、部屋には黒猫が待っていた。
ブルーノが、声をかけてみる。すると、ブルーノの顔色が変わった。
「おい、明日の朝すぐに逃げるぞ」
「ブルーノ、どうしたの?」
「この猫が、こう言ってる。主人は子供を食べてしまうと」
「! 嘘でしょう?」
私は大きな声を出しそうになり、慌てて小さな声で言った。
でも、今までの発言を照らし合わせてみれば、それは事実だと分かってしまった。
泣き出しそうなショートに、悪寒を感じている様子のチェリー。
「オレ、食われるとこなのー? 狙われてるのー?」
「多分、初めに食われるのはお前だな、チェリー……」
「ひい」
チェリーの顔が青くなる。早熟な男の子がタイプなのかなあ……ホノカさんは。
そうこうしているうちに人の気配。ホノカさんだろう。
慌ててベッドに横になる私達。
「ホノカさん、早く寝ようー」
私はホノカさんを手招きする。
ホノカさんは笑顔で大きなベッドの真ん中に寝転んだ。
案の定彼女は、チェリーを自分の胸元にうずめた。
「ホノカさん、オレ、それはちょっと」
「いいのよ、わたくしは気にしないわ」
「……ええ」
困惑するチェリーをよそに、眠りだすブルーノとショート。
私はチェリーを見て、とりあえず眠るしかないと目で合図した。
リルはベッドの下にいる。
結局、その後しばらくして、私は眠っていった。




