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謎の屋敷


「うふふ、ふっかふか……」

「いい加減起きたら、クリスちゃん」

「だってー、リルったら気持ちいんだもん」

「もう昼の十時だよー? 探索が進まないよ」

「えー……」

「明日もリルと寝れるんだからいいじゃん……」


 確かにチェリーの言う通りだ。

 なので私は仕方がなく起きる。料理担当は、チェリーだった。


「非常用にって、見習い騎士団は皆習うんだよ」

「へぇー、すごい。このスープおいしい」

「よかった、クリスちゃんの舌に合うみたいで」

「僕はもっとしょっぱいほうがいい」

「ブルーノお兄ちゃんはどうでもいい」


 え、ひどい。ちなみにショート王子は文句をひとつも言わずに一生懸命飲んでいる。


「王子様、王家とはやっぱ比べちゃう?」

「ボクは舌は肥えてるけれど、別にグルメじゃないからー」

「……それは褒めてるのかな」

「大丈夫、チェリーおにーちゃんは多分料理上手だと思う。一般人の中では」

「ありがとう、王子様」


 お世辞のない素直な賞賛に、チェリーは照れる。

 でも、チェリーに料理ができるって聞いた時は、量だけが多い料理かと想像してたけれど、意外と繊細でおいしい味でびっくりした。


「ボクも料理してみたいなあ」

「王子様はさすがに包丁は危ないかなあ。けがしたら大騒ぎだし」

「あのね、旅する間王子様ってのはやめてよ。すぐ正体バレるよ」


 ごもっともな意見に、悩む私達。


「じゃあ、わんこ」

「それはさすがにひどいんじゃないかな、ブルーノおにーちゃん」

「ショート君」

「はい、チェリーおにーちゃん」

「じゃあ、私はショートで」

「よし決まりだな」

「決まりじゃないよ、ブルーノおにーちゃん……」

「わんこでいいだろう」

「うわあああん」

「ブルーノ、子供をいじめないっ」

「ひどい、クリスおねーちゃんっ! ボク子供じゃないもんっ」


 そうやって拗ねるのが子供だって言うんだけれど、まあ、可愛いので今のまんまで育ってほしいなあ。四人の末っ子として、ずっとかわいくいて欲しい。


『何かの気配がする』


 リルがそう言うので、身構える私。


「何かがいるって、リルが」

「人の気配はしないけれどー? オレは」

「……きたっ……って、ええ!? 猫じゃん……」


 ドッと疲れる私。そこに、歩み寄るブルーノ。

 そして何やらぶつぶつ言っている。

 そして、顔をあげて私を見た。


「こいつ、シャロック国の猫だ」

「え、何、会話でもできるの?」

「獣人は、同じ種族の動物となら、簡単な会話はできる」

「嘘、素敵!」

「まあ、普段は使い道がない能力だけどな……まさか役に立つ日が来るとは」


 羨ましすぎるんだけれど!

 私は猫を見た。そっぽ向かれた……。


『この猫は、ブルーノが気に入ってるのだろう。いくら動物に好かれるクリスでも恋する雌猫には無理だ』


 え、この猫雌なの?

 猫はブルーノにすり寄っている。


「今人間の国は、殺気立ってるらしい。怖くて逃げる動物が増えているそうだ」

「何で殺気立ってるの?」

「お前の登場のせいだ。噂から確証に変わった以上、しばらくは様子を見ていたが、警戒しているらしい」


 そんな、私のせいなの!?


『気にするなクリス。遅かれ早かれお前の存在はバレた。どっちみち交流を持たない限り和平の道は閉ざされていただろうからな』


 って、リルは励ましてくれるけれど……なんだかすごく後ろめたい。

 チェリーもしょぼくれてる私に、ご飯のお代わりをくれた。

 なんか、励まし方が間違ってる気がするけれど……。

 私はとりあえずもぐもぐしながら頷く。


『人間と交渉するためのお前の存在だ、クリス。うまくやるように』


 そうは言ってもどうすれば……。

 猫を撫でようとすると威嚇された。つらい。もふもふしたいのに。


「シャロック国にとってお前の存在は脅威だ、クリス。どんな能力を持っているかも、わかっていないのだからな、相手は」


 実際は何もたいした能力ないんですけれどね!

 知られてないんじゃなくて、ないだけなんだけれどね!

 ブルーノは猫を面倒くさそうにあしらいながら話を聞いていく。


「あの国には、怖い王子がいるという」

「王子様かあ……」


 ふと、ショートを見る。うーん、まったく迫力ない可愛い王子だなあ。

 その思考に気が付いたのか、ショートはちょっと不満そう。

 ごめんね、きっと顔がにやけてたよね。


「とりあえず馬車を出すぞ。乗れ」

「はーい、ブルーノ」


『私は小さく戻ろう』


 リルは小さくなって、ふんわりと馬車に乗っていった。

 そして出発する馬車。それは、のんびりのんびりと進んでいった。

 猫とは別れて、私達は談笑していた。

 だからまさか、あんなことになるなんて思っていなかったんだよね。


「うわあああああああああ、山賊だ!」


 馬車の前からそんな声がした。運転手が逃げていった。

 嘘でしょ!? 呆然としていると、最前線にチェリーが出た。

 しかし、相手は十人単位。子供の騎士が一人で勝てるわけもない。

 ブルーノも魔法を使おうとしたけれど、同じく。

 あっというまに私達は山賊に捕らえられてしまった。


「うおー、馬車の中に荷物がいっぱいだ。薬草まである」

「しかも子供は美形ばかりだ。高く売れそうだ」


 よかった、金貨を身に着けておいて……

 薬も少しだけど、持ち歩いている。

 どうか、早く逃げた運転手が連絡を入れて……くれるわけないか。

 泣き出すショートを抱きしめる私。あとのふたりは悔しそうな顔をしていた。

 リルは、おとなしくしている。ここで騒ぐと逃げるチャンスもなくなっていくからだ。


「あの人に売るしかないな」

「まとめてあの人だな」


 ……よかった、かろうじてみんな一緒に動かされるみたい。

 バラバラになったら、もうどうしようもないもん。

 ごつい男たちが私達を縛り付ける。魔法を使えばブルーノだけなら逃げれるのだけれど、ブルーノはそれをしなかった。私なんか、ビビッて魔法が使えない状況にあったし……なんて無力なんだろう。


「きっと気に入ってくれるだろう、ご褒美もくれたりしてな」

「あ、あのっ」

「ん? なんだお嬢ちゃん」

「その荷物の、薬だけは一緒に持ってきてください。私、病気で」


 思い付きで、薬だけでも確保できないかと猫をかぶってみる。

 男達は顔を見合わせた。


「これか、まあ、そんな価値もなさそうな薬だしな。いいだろう、もってけ」


 やった! 人間化と瞳をごまかす薬の確保に成功!

 これで、殺されたりはしないだろう。

 ほっとする私達。


「まあ、お嬢ちゃんたち。そんな怖がるなよ、優しいやさしい綺麗なお姉さまのところに引き取られるだけなんだからよ」

「お姉さま?」

「ごちそうが出るぞー」

「ごちそう」


 片言に、つられるチェリー。でも顔は死んでいる。

 そう言えば、そろそろお昼時だもんね……。

 お腹を押さえて暗い顔をするチェリー。


「そこの犬も一緒に運んでやるよ。犬は売れないんだ」


『犬ってわたしのことか……』


 なんて失礼な言い草だ。フェンリルだっての。

 まあ、価値に気が付かないほうがいいに越したことはないんだけれどね。

 私はため息をついてされるがままになった。皆もぐったりして、あきらめている様子だった。ショートに至っては、泣き疲れて寝ていた。


**********


「ついたよ、お嬢ちゃんたち。ここが君たちの新しい家だ」


 そう言って、おろされたのは廃屋敷だった。かび臭い、バラだけがやたら目立つ怪しいレンガ造りの屋敷だ。なんだか、すごい香水のようなにおいがする。

 ふらふらしながら降りていく私達。そして、中へ投げ入れられていく。

 するとそこには、ゴスロリのような衣装を着た、紫の髪をした豊満の美女がいた。眼も、宝石のような紫で、髪の毛はウェーブを描いている。まつ毛の下だけが、なぜかピンク色をしていた。


「あら、いらっしゃい。貴女達がわたくしの新しいこどもたちね」

「きれいなおねーさん」


 ショートはぼんやりとした顔で言った。


「あらまあ、素直な子は好きよ。名前は」

「ショート」

「うふふ、小さな貴方にお似合いの名前ね」

「ちっちゃくないもんっ」


 膨れるショート。あーん、かわいいよおお。

 そこで、お腹を鳴らしてしまうのがチェリーである。


「あら、貴方おなか減ってるの?」

「はい……」

「名前は?」

「チェリー」

「あらまあ、可愛い名前。大きな体の割に、かわいらしい声ね」

「それは、声変わりがまだだから……」

「え? いくつなの?」

「十歳」

「あら、見えないわ……早熟なのね」


 ぐうううとさらにチェリーのお腹が鳴る。

 お姉さんはくすくす笑いながらポケットからマカロンを取り出した。


「とりあえず、これでも食べるといいわ」

「マカロン!」

「で、残りのお二方は? 名前は」

「僕はブルーナ。十三歳。最年長です」

「あらまあ、さっきの子のほうが最年長だとばかり……賢そうな子ね。まあ、十三歳ってのは賞味期限ぎりぎりな感じかしら……」


 賞味期限? なんの話?


「そして、お嬢さんは?」

「私はクリスタル。皆はクリスって呼びます」:

「クリス」

「はい、よろしくおねがいします」

「黒髪なんて、珍しいわねえ。うーん、そそるわ」


 何が? よくわかんないけれどお姉さん、怪しい!

 お姉さんはふふと笑うとショートを抱き上げる。


「うーん、子供の匂いがするわね」

「はなしてー!」

「わたくしはホノカ。変わった名前でしょう? よろしくおねがいするわ。これからあなたたちを快楽の園へ……」


 そしてまた鳴る、チェリーのお腹。


「……チェリーは、それよりも前にご飯が必要なようね」


 ホノカさんは笑いながらチェリーを撫でた。


「ごめんなさい、ホノカさん」

「いいのよ、沢山食べて食べごろになってちょうだい」

「? ご飯くれるんですか? オレ、沢山食べますよ」

「そんなの構わないわ。ここには幽霊の料理人がいるもの」

「幽霊!?」


 驚いたのはショートだ。


「この世に未練があるから、いくらでも作ってくれるのよ」

「怖い……」


 おびえるショート。私も怖い。

 ここっていったいどういう場所なの!?

 足が震えるけれど、のたれ死ぬよりはましだ。

 しばらく滞在させてもらって、逃げよう。

 そう決意して、私達は食卓へ向かった。



いつもこの異世界で私だけが愛されているを読んでくださりありがとうございます!

作者にとってブクマやコメント、評価はかなりやる気に繋がります!

もし気にいってくださったら、よろしければお願いします(*>ω<)(>ω<*)ネー

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