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はじめてのチュウ

 今日はチェリーに呼ばれている。 

 また、見習い騎士団がらみらしい。

 どうも馬に乗れるようになったのを見せたいという話。


「みてみてー、クリスちゃーん」

「はいはい、はしゃぐと落ちるよ」


 ああ、いいなあ。お馬さんのしっぽ。触りたいなあ。

 でも、我慢我慢。


『よだれが出ているぞ』


(うっ、ついつい……)


『クリスも乗せてもらえばいいだろう』


(乗馬は難しいんだよぉ)


『聖女はな、動物に愛される能力があるんだ』


(そうなの!? そう言えば神様も言ってたかも。なんで教えてくれなかったの!?)


『知ったら、むやみやたらにもふもふするだろうから、忘れてるのをいいことに言わなかったんだが』


 うっ、否定できない。だって、動物大好きなんだもん。

 触りたいに決まってるじゃん!


『それにお前は聖女だから、誰も断れないだろう。いわゆるパワハラだ』


(うううう……)


 もふもふハラスメントですね、わかります……。

 チェリーは優雅に馬に乗っている。チェリーって結構品のある顔だから、若干貴族っぽい。何よりうさ耳は紳士感アップするよね!? 気のせいじゃないよね!?


「クリスちゃんも乗ろうよー」

「うん、乗るー」

「とりあえずオレに捕まっててねー」

「はあい」


 私はもうすでに体ががっしりし始めているチェリーの方に抱き着く。

 チェリーの耳が赤いけれど、気のせいだろう。


「いくよー」

「わー」


 風を切る音が気持ちいい。馬が、そこらじゅうを走る。

 たまにゆっくり歩いたり、とても楽しい。

 ほかの見習い達は不満そうだけれど、やっぱり何も言われないのは私が聖女だからなんだろうなあ……ごめんなさいっ。

 しばらく馬の上を堪能した後、私はゆっくり馬から降りた。

 そして、チェリーも降りようとしたとき、チェリーが滑って……。


「!?」


 私と唇を軽く重ねてしまった。歯はぶつからなかったけれど……これって私のファーストキス!? 顔を熱くする私に、呆然とするチェリー。


「事故だから、気にしないでチェリー……」

「でも、これ、オレのはじめて……」

「わ、私も初めてだよっ」


 そう言うと、さらに恥ずかしくなってくる。

 どうしよう、事故で初めてを失うなんて……聖女であるからにして、結構大問題なのでは!?


「これは、ふたりだけの秘密にしようね、チェリー」

「うん……バレると気まずいしね」


 私達は心にそう決めて、頷きあった。


**********


 それから私達はぎこちない日々を送っている。

 チェリーもなるべくいつも通りを演じているけれど、私に触れようとしない。

 すぐ顔を赤くする。私はどうしても意識しちゃって、声が上ずっちゃう。


「何かあったの? チェリーおにーちゃんとクリスおねーちゃん」

「別に何もないよ、王子様」

「そうそう、なんでもないの」

「なんかロボットみたいだよー?」


 うう、的確な表現だ……だって、恥ずかしいんだもんっ。


「何かあっただろう」

「ないってば、ブルーノ」

「お前もチェリー坊も顔に出やすいタイプだ」

「あはは、そんな事ないよ。オレ嘘は得意だよ」


 いや、多分それはないんじゃないかな……。


 「まあ、言いたくないなら言わなくていい。無理に口割らせるようなことは僕はしない。僕達は指輪の四人だから、重大な秘密は作らないに決まってる」

「うううううう」


 そう言われると胃が痛いよ……。

 でも、これだけはやっぱり隠し通さなきゃ……大騒ぎになっちゃう。

 ケンカにもなるかもしれないし、怖いよ。

 エイベルがお茶を煎れてくれたので、それをゆっくり飲む。

 羊羹をつまみながら、泣きそうな気分。


「まあ、秘密もあっておかしくない年頃だよ。皆」

「賢者様……」

「いざとなれば自白剤もあるしね」

「怖いよ賢者様」

「そういうのも、自分の仕事だからね。クリス」


 にっこり笑うエイベルが、正直怖いです。

 私はお茶を飲みながらチェリーを見る。明らかにしょぼくれたチェリーを見ていると可哀想になる。だって、これってチェリーも被害者だよね。

 好きでもない私とファーストキスだもん。

 チェリーなら、モテるし相手も選び放題なのに……。


「何なら相談に乗るよ? クリス」

「んー……」

「まあ、何もないならいいんだけれどね」

「ボク、秘密とか大嫌いだなあ。なんか寂しいもん」

「そうだよねぇ、王子様。仲間外れは悲しいよねえ」


 思わず顔を見合わせる私とチェリー。

 どうしたらいいんだろう。


「もしかして、今ボク仲間外れにされてる?」


 こてん、と首をかしげるショート王子に……私達はやられてしまった。


「そ、そんなことないよっ」


 早口でアワアワするチェリーは立ち上がり手をばたつかせる。

 私も羊羹を口に押し込んでうんうん頷いた。


「よかったあ……」

「実は言い出しにくいんだけど……私達」

「うん? クリスおねーちゃんとチェリーおにーちゃんが?」

「事故で……」

「事故で? 怪我しちゃった?」

「……キスしちゃったの」

「!?」


 全身の毛を逆立たせて、ビックリするショート王子。まあ、こうなるよね。

 ブルーノはお茶を噴出してむせている。エイベルは、よそが付いていたのかのんびりしている。


「この前馬に一緒に乗ったときね、ちょっとすべっちゃって……私とチェリーの唇が重なっちゃったの。お

互いファーストキスなの……で、すごく気まずくて……どうしたらいいかわかんなくて……」

「オレも、目を合わせるのも苦しいし……思わぬ抜け駆けで、ふたりに申し訳なくて、すごく胃が痛くて……」

「なんで!? ずるいよふたりともっ」


 案の定怒り出すショート王子。なぜかブルーノは目をそらして無言。

 ショート王子は頬を膨らませて不満を訴え続ける。


「ボクもキスしたい!」

「ショート王子……」

「子供だからダメとか言わないでね! 事故でもキスはキスだから、ボクにも権利あると思うんだ」

「まあまあ、王子様。落ち着いて」

「賢者様、だって、ずるいよー! ねー! ブルーノお兄ちゃん」

「……ん? ああ……」


 あれ? ブルーノは心ここにあらずって感じ?

 なんかそわそわして落ち着きないし、後ろめたいことがあるかのようにしている。

 訳が分からないままブルーノを見て首をかしげる私。


「ブルーノおにーちゃんも、クリスおねーちゃんとキスしよっ」

「……は?」

「そしたらみんな平等だよっ、対等だよ!」

「……拒否する。そういう問題じゃないだろう」

「どうしてっ、ずるいじゃんっ」

「クリスの意思は尊重しないのか、わんこ王子」

「……それはっ」


 悔しそうな顔をするショート王子。グルル、と唸る。

 そこにエイベルが口を挟む。


「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」

「落ち着いてられないもんっ、ボク」

「キスはまあ、したらいいんじゃない。事故ってことは触れるだけでしょ」

「そんな気軽に!?」


 思わず私は言った。


「じゃないといつまでたっても王子様は納得しないよ」


 確かに、そんな気はするけれど。


「それとも、王子様は嫌い?」

「そんな事はないけれど……」

「じゃあ、付き合ってあげなよ」

「うん……」


 私はしぶしぶ目をつぶる。ショートが一生懸命背伸びしている声が聞こえた。

 なので空気を読んでしゃがむ。


「いくよっ」


 すると、しばらくして何かが唇をかすめた。

 あれ? こんなレベルでいいの?

 目を開くと、真っ赤な顔をしたショート王子がそこにいた。

 鼻を押さえているあたり、鼻血が出そうなのかもしれない。


「クリスおねーちゃんの唇、ふわふわしてる……」


 あんな一瞬でわかったのだろうかとちょっと感心してしまった。

 小さなころ感じた、子供の匂いが、ショート王子からは消えていた。


「もう唇洗わない」

「あらって、ショート王子」

「えー、やだやだっ」

「汚い人は嫌いです」

「うううう、わかったもん、ボクちゃんと洗う……」

「いい子いい子」

「えへへ……」


 やっぱりショート王子はまだまだ幼いなあ。そこがすごく可愛んだけれど。


「おっきくなったら、背伸びしなくてもキスができるんだろうなあ」


 うっとりしているショート王子。

 そこでふと、ショート王子は何かに気が付いたらしい。


「ブルーノお兄ちゃんはキスしなくていいの?」

「!」


 ブルーノがぴくんと耳を震わせる。

 エイベルが苦笑いしている。


「僕は、いいっ」

「どうして?」

「どうしてもっ」

「皆対等じゃないとボクはやだよー」

「僕はいいっ」


 駄々をこねるショート王子。別に本人がいいならいいんじゃないかな、と思っていると。


「ブルーノはいいんだよ、王子様」

「そうなの? 賢者様」

「もう、クリスとキスしてるからね」

「えっ」


 ブルーノ、またお茶を噴出した。

 え、嘘!? 私キスなんかしてないよっ!?

 どんなに記憶をめぐっても、チェリーとが初めてのはずなんだけれど。

 でも、ブルーノ顔真っ赤だし……事実なのかなあ。


「ブルーノはね、赤ちゃんのクリスが寝ているときに、キスをしているからね」

「父さん!」

「秘密はなし、なんだろう? ブルーノ」

「くっ」


 嘘!? つまりは私のファーストキスはブルーノって事!?

 てか何してるの!? ブルーノ!


「ブルーノお兄ちゃん何してんの!? 抜け駆けずるい!」

「赤子の唇に興味があっただけだっ」

「変態!」

「変態じゃないっ、好奇心だっ」

「ブルーノおにーちゃんってロリコン?」

「ロリコンでもないっ」


 からかわれまくるブルーノだった。

 私は思わず自分の唇に触れた。

 ……まさか、赤ちゃんのうちにファーストキスが奪われているとは。怒る気すらわかない。だって、赤ちゃんにキスしたくなる気持ちは何となくわかるし。


「ブルーノお兄ちゃんのお菓子は一か月僕とチェリーおにーちゃんがもらうからね」

「……好きにしろ」

「やったあ、お菓子―」

「チェリーおにーちゃん、お菓子でコロリと態度変わるのもどうかと思うよ」

「だって、もう過ぎたことでしょー。どうにもならないじゃん」

「それはそうだけれど……本当にのんきだね」

「のんきなほうが生きてて楽だよー」

「…………」


 ショート王子は呆れてものが言えなくなっている。

 私のファーストキス事件では、こんな感じで幕を閉じた。

 その後実は、エイベルもブルーノの前に赤ちゃんの私にキスをしていたという衝撃の事実を知らされたのだけれど。



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