第肆歌<急>
青々とした竹が生い茂る。
真昼の光も差し込まず、薄暗い空間を作り出した。
出入り口も見えない奥に入った所、徐々に方向感覚を失っていく。
一行の希望が消えゆく頃、勾玉が光を放った。
それは、奥へ、奥へと続く。
流徹達はその光の指し示す方向へと向かった。
流徹はその先で金色の竹が群生する集落を見た。
「本当にあったのか!」
その集落はあらゆるものが金でできており、眩しく美しく豪華絢爛の言葉以外出てこない。
一行に対し、体中に金細工を身に着けた男がやってきた。
「初めまして。私、棋歩と申す者です」
「ちょうどいい頃合いでした。貴方がたが来るのと同時に本を読み終えましたよ」
「計算通り、か?」
金箔の装丁が施された本を閉じて彼は続ける。
「はい」
「して、あなた方が勾玉の剣士一行ですね」
「要件はおおよそ理解しています」
「では話が早い。端的に申す。魔人退治に協力してくれ!」
とんとん拍子に進む会話。
だが……。
「断り申し上げます」
一行はぽかんと口を開けた。
「は!?」
そんな一行を尻目に、棋歩は続ける。
「私は強い者と戦いたいわけではありませぬ。善い対局を指したいのです」
「この世は盤上の事。全ては遊戯です。それを力による突破など。無粋も無粋」
「…………魔人退治には興味がないのです」
それは事実上の交渉の失敗を意味していた。
否、はなっから交渉など無意味。
「だが、現に天下の治平が……」
「それにも興味がありません。戦なき世はつまらぬでしょう」
彼は穏やかな物腰ながら、どこまでも戦を求める好戦的な人柄であった。
「では帰らせていただこう。時間の無駄だったな」
流徹は荷物を整え、即座に出ようとする。
「これ、待ちなされ」
流徹は足を止める。
「まだ何かあるのか?」
「魔人退治に興味はないと申したが、なにも私は要塞攻略に興味がないと申したわけではございませぬ」
「して、要塞の話はどこまで存じ上げて?」
「――かくかくしかじか」
「なるほど……」
「地の利、天の利、そしてお互いの戦力を理解することが重要でございます」
「かつての斉国の兵法にはこんな言葉があります。彼を知り己を知れば百戦殆からず」
「現在の戦力分析では勝ち目はありませぬ」
端的な分析であった。
それは正確。
否、流徹や尾張藩の者も同じ結論を出していた。
だが、彼はそこに続ける。
「――ですが、兵は詭道なり」
「戦の基本は騙し合いです。正面から撃ち合っても勝てない相手に勝つには唯一だまし討ちのみが有効なのです。ですが、連中もそれは承知の上、それに……彼の長はこの陣取りからしてかなりの奸物。これは戦い甲斐がありますな」
「よろしい、力を貸しましょう」
棋歩を連れて尾張に戻る途中、歩きながら作戦会議をしていた。
「では、まずは敢えて相手に直接攻撃の情報を漏らすのです」
「敢えて?」
「さすれば相手は周囲の防御を固めるはず」
「それは何を意味するか、要塞内部は手薄になるのです」
「ですが、奴もそれは考えに至るはず。最低限の守りは内部に残すでしょう」
「そこで現状の最大戦力である貴方がたを内部にぶつけるのです」
彼は簡単に書いた簡素な要塞の図を指さして説明する。
「頃合いは矢作川に追い詰めた時です」
「水路か!? ですが……それでは以前の水口城攻略と同じでは……」
「チッチッチ。ここからが重要でございます」
「連中は水口城での作戦を知っております。ですから、水路からくると予想しましょう」
「相手の戦力はそこで川側に展開されると思われます」
「では平原から……」
「いえ……それは裏の裏をかいた調略にて封殺されるでしょう」
「では……」
「それは後で説明しましょう」
「内部の図は構造の考察からある程度把握しております。構造がおおよそわかれば戦力分布も自ずと導けましょう」
そう言って、彼は丸めた構造・戦力分布図を手渡した。
「だが……時間稼ぎにしても限度はある……」
そう言い淀んだ時、あらぬ方向から声がした。
「儂の鉄砲衆を出そう」
「殿!?」
一行は驚きの声を上げた。
「話はあらかじめつけておきました。彼の名高い鉄砲衆の腕があれば一刻程は稼げましょう」
「ハッハッハ、それは光栄だ、彼の名高い金行の一族にそう認められるとはな」
鉄砲衆の中でも最も優れていた九人の組織、織田九選。
彼らは長篠の戦いで織田信長の元に活躍し、その血が脈々と受け継がれている。
現在の織田九選は沢木北下、京籐稲作、端舟千登世、三滝、幾多、町川田幡、篤樹泰吉、多田真末、葦乃空の九人。
「ではまず、沢木、多田、三滝の部隊がここに……」
棋歩は簡素な地図に部隊配置を記していく。
「しかし、色々作戦を練る割には、最後は俺達任せなのか。それこそ無謀じゃないのか?」
「いえいえ、これは貴方がたを信頼しているからです。無謀と信頼は違います。信頼とは戦において最も重要な要素になりまするぞ」




