第肆歌<序>
伊賀。
それはお町が生まれ、育ってきた故郷。
ただの平原と化したそこは、どんな感情があろうと、彼女にとって大切な場所だった。
今は見る形もなく、全てが焼かれ消えた。
旅の経路からは大きく外れるものの、ここに寄ったのは弔いの意味も兼ねてだ。
「……兄者…………」
一つ心残りがあるとするならば、血を分けた兄の事であった。
「なあ、忍者の里ってどんな場所だったんだ……?」
流徹は聞く。
「……ほんとなら教えられないんだけど、勾玉の剣士に隠し事は出来ないよね……」
「忍者の里はね、忍者の神……忍神を目指して、赤子の頃から日々訓練を仕込まされていた場所」
「古事記っていう書物に記された忍びの極意を学ばされて、一日の大半が訓練と体罰だったの」
それは流徹にとってもごく普通の事だった。
生まれた時から両親を妖怪によって失い、柳生の元で剣の鍛錬に明け暮れていた。
だからこそ、と言うべきか、彼は彼女に心を少しだけ重ねていた。
「お町の兄上は、きっと生きている……伊賀の忍びがそんな簡単にくたばるわけがないだろう」
「……気休めはいいよ」
「お前の術を見てそう思っただけだ」
「そ…………」
流徹は灰となった里に合掌した。
「祈ってくれるんだね、皆の為に」
「……ああ」
「生者の成すべきことは死者の志を継ぐ事だ」
それは彼自身の亡き兄上と叔父上の為でもあった。
だからこうして、今は魔人を倒すと天に誓っている。
菊三十兵衛は一人、小さな石を積み上げていた。
「何をしているでござるか」
介郎が訪ねると、菊三十兵衛は答えた。
「見てわからんのか。伊賀のガキ共の為に石を積んでるんだ!」
菊三十兵衛はそれだけ答えると、黙々と作業を再開した。
そんな様子に感化されたからか、介郎も同じく石を積み上げ始める。
お町は覚悟を決めた。盗賊の皆とは離れ、一行に着いて行くと。
理屈ではなく、それは感情のような、誰かに導かれるような感覚で……。
彼女曰く、勾玉に導かれている……との事だ。
一行は歓迎した。
勾玉の剣士はこれで四人。
残るは半分だ。
伊賀を脱した一行は三河へと着いた。
薄が広がる平原の中、一行は想像もつかないものを目にした。
それは、巨大な鋼鉄の要塞。
ガシャガシャと音を立てながら動くそれは並みの城より大きく聳え立ち、絡繰り仕掛けで三本足を動かしていた。
「……なっ……!!」
「なんじゃありゃあ!!」




