第参歌<急>
勾玉を持つ四人の前に、大広間の大半を占める図体の大百足が立ちはだかる。
後ろの襖から松平長慶が顔を出し、城中に号令をかけた。
「曲者じゃー! 出会えい、出会えい!」
しかし、目の前の化け物を目にした武士はその様相に戸惑う。
「曲者……何奴が曲者なんだ……!?」
「…………よもや、松平殿が妖怪使いであったとは……」
「ええい、拙者は最後までお仕えする身だ!」
「とんら……混乱してきたよ」
その様子を見た介郎は一つの考えを吐露した。
「おそらく、この事件には巨大な何かが裏で糸を引いている可能性があるでござろう」
大百足の無数の手が伸び、城の一角が崩落する。
空中に投げ出された一行はなんとか崩落した城の残骸にしがみつく。
外から事態を把握した菊三十兵衛と球磨は急いで城の方へと駆け寄る。
菊三十兵衛はその時、青空の元に露わになった廊下を走る女性の姿を見る。
「アレは……きっと美人さんだ! 美人さんに違いない!」
「邪術・精神衝撃!」
長慶は手をかざし、呪詛を唱える。
その瞬間、介郎の精神が打ち砕かれた。
「介郎!」
流徹の心配をよそに、大百足がその巨体を使って圧し掛かってくる。
その巨体を刀で食い止める。流徹の持つ勾玉が強く光るも、それでも徐々に後ろへと下がっていった。
忍者刀で連撃を浴びせるお町、斧で大百足の足を寸断する角信。
その中で介郎は頭を抱えてうずくまっていた。
だが、そんな時、菊三十兵衛が武士の群れを切り開きながら進む。
「何を腑抜けていやがるクソジジイ!」
「先ほど、いい女が走っていったのを見たぞ!」
「しわくちゃのおっさんと良い女、どっちが好きだ?」
その言葉に介郎は自分の心の声を聞いた。
答えは一つだ。
「聞くまでも、なかろうよ!」
介郎は雄叫びを上げながら大百足の方へと槍を構え、大きく飛びあがる。
真っ赤な頭部に狙いをつけ、急降下と共に槍を突きつける。
大百足は耳をつんざくような悲鳴を上げてのたうつ。
徐々に動きは鈍り、緑色の体液を吐きだしながらその場に倒れこんだ。
そして、甲殻が溶けだし、絡繰りの構造が露わになった。
「ば、馬鹿な……。永遠の命を貰うはずだったのに……この……忌々しき柳生の剣士風情が!!」
長慶が必死に呪詛を唱え、氷の弾丸を放つ。
攪乱させた後に、道楽で飼っていた二匹の生物を解き放った。
「いけ、火鼠! 大蜥蜴!」
炎を纏う鼠があちこちに火を付けながら壁や天井を這いまわり、人間大の爬虫類が地面を揺らす。
大百足の瓦礫から流徹が飛び出し、火鼠を一刀の元に斬り伏せる。
大蜥蜴は毒液を吐きだすも、それを瞬時に回避、目くらましの毒霧を放つも、流徹は目ではなく心で場所を捉える。
「取った!」
大蜥蜴も切り裂き、必死に氷の弾丸を放つ長慶の喉を切っ先が捉えた。
「ひいいいいいっ!!」
首が飛び、城内に血が染み込む。
この流血を境に、一件は収束した。
「そうだ、美人さん! どこでござるか!」
「おい、クソジジイ! 抜け駆けする気か!?」
介郎と菊三十兵衛は慌てて残った廊下に向かう。
そこへ、美しい着物に身を包み、赤く艶やかな唇、鋭い目をしている……。
筋骨隆々の姿があった。
「アンタたち、とって~も強いのねん」
「ま、まさか……」
「あーら、アタシは、村市坂野日仁よ」
「んまぁ、アタシの事を探してたみたいだけど、うれしいわぁん」
そして、彼は誰よりも素早い身のこなしで介郎と菊三十兵衛の二人を捕まえる。
「がっ!? なんて強さと速さ!」
彼の唇の跡が飽きる程つけられた二人は、精魂搾り取られたかのように地面に伏す。
心なしかより肌つやを増したような日仁は残りの者に報告した。
「この一件の謀事には、八剣士の一人、窪真応が噛んでいるって話よん。これは彼本人から聞いたわぁん」
「窪真応……」
新たなる敵の名前に、一行は武者震いする。




