13 アーロンの後悔
アーロンは後悔していた。
アリシアを守るために、アリシアの抱えているものを知りたかった。
頼ってほしかった。
話してもらうことがアリシアを苦しめるなんて、思いもよらなかった。
(ヤバい??口止めをされているのか?もしかしてアリシアは命を狙われている!?)
あのアリシアが震えている。
声を詰まらせ、逸らした目には涙が溜まっている。
(別れたくないって何だ?まさか、僕を巻き込まないために別れを選ぼうとしていたのか!?)
そんなことはさせない、認めない、と思わずアリシアを抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だからアリシア。」
不甲斐ない自分に腹が立つが、アリシアをこれ以上不安にさせてはいけない。
なるべく優しい声色を心掛け、アリシアを落ち着けるため背中をトントンと叩く。
「無理に聞き出そうとして悪かった。もういいから、話さなくていいから。」
心なしか、腕の中のアリシアの緊張が少し解けたように感じる。
良かった、今度は間違えなかったみたいだ。
「アリシア、何も聞かないけどこれだけは言わせてくれ。僕はアリシアと別れるつもりはない。何があってもそばにいる。」
アリシアがおずおずと顔を上げた。
ようやく、ちゃんと顔を見れた気がする。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな事以外は、元気そうでよかった。
「⋯⋯」
ハンカチで拭いてやりながら、アーロンは話題を変えようとして少し悩んだ。
本の話は避けた方が良さそうだ。
また街に誘いたいけど、あの日を思い出させる話も駄目だろう。
街、カフェ、カツラ(隠語)⋯
新しいカフェが出来たと聞いたから、連れて行ってやりたいけど、誘うのは今じゃないな。
鼻水を拭ってやった所で、アリシアの落ち着かない様子に気が付いた。
心なしか顔が赤い。
「アリシア?もしかしてまた熱が⋯?」
慌ててアリシアの額や首筋に手を当てて確認をする。
そこまで不自然な熱さは感じないから大丈夫だと思うが、念のため医者を呼んだ方が良いかもしれない。
メイドに伝えようと立ち上がりかけた所で、アリシアの小さな声が聞こえた。
「アーロンは⋯」
向き直ってアリシアの顔を見る。
「アーロンは私のこと、妹か何かだと思ってる…?」
涙を拭かれ鼻水まで拭われ、額や首筋への触り方も、異性に接していると言うよりは、育児か介護を連想せずにいられなかったアリシア。
アーロンへの不満が思わず口から出てしまい、アリシアは後悔した。
(仕事と私どっちが大事?くらい面倒くさいこと言っちゃった)
実際に妹としか思えない婚約者からこんな質問をされて、「そうだ」と答える人間もそうそういないだろう。
アーロンは間違いなく、そんな人間じゃない。
「アリシア⋯?」
(僕はまた何か、アリシアの気に入らない事をしてしまったのだろうか…)
考えても分からない。
分からないから聞きたいけど、先刻の今だ。
聞いて良いのか分からない。
分からない事だらけだどうしたものか、と悩んで、返事をしていない事に気付かないアーロン。
「え、もしかして妹でもない?ペット??森の野生動物???」
「ん??…何を言ってるんだアリシア?確かにきみは小動物の様に愛らしいが⋯」
微笑ましいアリシアの言葉に笑いそうになり、「ちょっと待て」と思い直す。
(はっ!もしかしてこれも何かの隠語だろうか?妹?ペット??野生動物?????)
「ペット…」と呟きながら何やら考え込むアーロンの隣、アリシアはふと1冊の本が目に入った。
(こ、これは⋯!呪いで文鳥にされた令嬢が、人間不信の王子様と結婚する話!!)
勿論それだけの物語ではないが。
呪いの解けたヒロインが他の人間の目に触れる事を疎む王子が、「また檻に閉じ込めたい」と笑っていたのがアリシアには衝撃的だった。
「檻⋯閉じ込める…⋯」
(ペットとして見てるなら、アーロンも私のこと閉じ込めたいと思うのかな…?うーん…でもあれは王子の独占欲からのセリフで、他にも⋯…あ!ダメだ思い出しちゃ!!違うこと!!違うこと考えよう!!!)




