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とある地方の男爵家の一室。一人娘であるアリシアは、隣に座る婚約者アーロンの日課になりつつある説教を受けていた。


「アリシアにゃんの自由ニャ発想が駄目だとは言わニャい、だが、時と場合は考えるべきニャ」


TPO云々を語る人間の話し方とは、到底思えないそれに対してアリシアは

(うーん、イマイチかなー。もっとニャンニャン言うかと思ったのに)


残念そうな表情を見せたあと、誰にも聞こえない小さな声で『オネエ言葉』とつぶやく。

心ここに在らずといった風のアリシアを見たアーロンは、眉間にシワを寄せながら


「ちょっと〜ちゃんと聞いてるぅアリシア?まぁた空想に浸ってるでしょお!アタシの目は誤魔化せないわよ」


アーロンの名誉のために言っておくと彼は猫でもなければオネエでもない。クソがつく真面目と評判の、隣の領地の男爵令息である。

幼馴染であり婚約者であるアリシアの事を本気で心配して、真面目に真面目に苦言を呈している最中だ。

現に、そばに控えるメイド達はそろって同情的な視線をアーロンに向け、アーロンの言葉の一言一句に深く頷いている。


そう、アーロンの言葉はアリシア以外には「普通の」話し言葉に聞こえているのだ。




アリシアが自分のスキルに気付いたのは8歳の時、家庭教師から国の成り立ちに関する話を聞いている最中だった。


ひっつめ髪に黒縁眼鏡と言うテンプレな見た目ほど厳しくはないが、熱心な家庭教師ベス。

「我が国の女神信仰は建国時代に遡りうんぬんかんぬん、かつて世界が荒涼とした大地であった頃うんぬんかんぬん、秩序のない混沌うんぬんかんぬん」

(いや、分からんて)

「女神の落涙がうんぬんかんぬん、肥沃な大地がうんぬんかんぬん、緑の息吹がうんぬんかんぬん、」

(何言ってんの?何これ、何語?宇宙語?そもそも言葉なの?記号とかじゃなくて?暗号?スパイ?暗殺者?私をどうしようとしてるの???)


「分かりましたか、アリシアさん?ここまでの所で質問は⋯」


「いやもう全部です!全部分かりません!何にも分かってません!ちゃんと私に分かるように言ってください」

涙目でアリシアが訴えたその時、


キイィィン


「わ、分かりました、もう一度最初からいきましょう」

勢いにおされたベスだったが、コホンと咳払いを1つすると、流石のベテランの落ち着きを取り戻し授業を再開させた。

「頭の残念な子供でも分かるように」と心掛けながら。

「残念な頭の子供、残念な頭、残念な…」実際には、心掛けてはみるものの話す内容はさほど変わらず、話す速度がゆっくり丁寧に、間をたっぷり取るだけの変化に過ぎない。


ところがアリシアの耳には「頭の残念な子供でも分かるような」言葉で聞こえてくる。

他の人が聞いたら馬鹿にしてるんじゃないかと怒り出しそうなほど、砕きに砕いた表現で、これでもかと説明を重ねて耳に入ってくる。

感動したし困惑した。同時に転生時のやり取りが蘇ってきた。


そう、アリシアは日本で生まれ育った転生者だった。


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