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19/22

19.世界最強のお二人ですわ!

 東京ビッグサイト。


 本日、国内最大級の探索者系動画プラットフォーム『ToyTube』が主催する、年に一度の公式イベント【探索者フェス2026】が開催されていた。


 会場のメインステージには、チャンネル登録者数1000万人を誇るトップ配信者レオンと、なぜかその隣で優雅にパイプ椅子に座り、マイボトルから紅茶を啜っているフリフリエプロン姿の凛音の姿があった。


「みんなー!盛り上がってるかー!?今日はなんと、俺の専属カメラマンとしてのあるじ、華園凛音様をスペシャルゲストにお迎えしてるぜ!!」


 レオンがマイクで煽ると、会場を埋め尽くす数万人の観客から割れんばかりの歓声が巻き起こった。


 特に、ステージの最前列は異様な熱気に包まれていた。そこには「踏んで!」と書かれた手作りうちわや、『バール型の特製ペンライト』を狂ったように振る猛者たちの姿があった。


 「生お嬢様、美しすぎる……!生きててよかった……!」と感涙にむせぶのは、いつもスレを和ませる『ケーキ大好き』(オフの姿の女子大生)だ。


 「おい見ろ!今日のバール、先週の配信より打撃面の角度が鋭角に研磨されてるぞ!あれはカインズホームの新作だ!」と双眼鏡で物理法則の限界を分析する『考察班A』。


 「俺のスパチャで買った新作のフリフリエプロンだァァァ!最高だァァ!!」と野太い声で叫ぶ屈強な男『マッスル課金』。


 「ヤラセじゃなかった……本物の神は、実在したんだ……!」と、もはやカルト宗教の信者のように両手を合わせて拝み倒す元アンチの『真実を暴く者』。


 ネットで常にスレを賑わせていた古参リスナー(狂信者)たちが、ついに現実世界オフラインで集結し、生お嬢様を前に限界化していた。


「皆様、ごきげんよう。……レオン君、休日のデパ地下巡りをキャンセルしてまで連れてこられましたけれど、ここで一体何をすればよろしいのかしら?」


 凛音は熱狂する最前列の信者たちに優雅に手を振りながら、持参したホームセンターの安物バール(2480円)を膝の上に置いた。


「いやいやお嬢様!今日はエキシビションマッチ(模擬戦)が……って、おおっと!?なんだあの乱入者は!?」


 レオンが叫んだ瞬間。会場の天井のガラスが派手な音を立てて砕け散り、二つの巨大な影がステージの中央にドスンと降り立った。


「Hahaha!見つけたぞ、日本のフェイク女!!」


「ワタシ様を差し置いて、こんな茶番のフェスでチヤホヤされるなんて、許せないアルネ!!」


 土煙の中から現れたのは、筋骨隆々のアメリカのSランク『Mr.ストロング』と、深紅のチャイナドレスに身を包んだ中国のSランク『炎の魔龍』だった。


 突然のテロ行為と、Sランク特有の凄まじい威圧感に、一般の観客が悲鳴を上げて逃げ惑い始めた。関係者席で見ていたアーサーたちも「馬鹿な……本当に手ぶらで来やがった……!」と絶望して頭を抱えている。


 だが、最前列の古参リスナーたちだけは、全く逃げようとしなかった。それどころか、彼らは深い溜息をつき、手慣れた様子でカバンから『防塵ゴーグル』を取り出して装着し始めたのだ。


「あーあ。ホントに来やがったよ、あの筋肉と中華娘」


「おい!血飛沫と装甲の破片が飛んでくるぞ!最前列、ブルーシート広げろ!」


「レオン!カメラ回ってるか!?スパチャの準備はできてるぞ!!」


 逃げるどころか「被害拡大を防ぐための完全防備」に移行し、手際よくブルーシートの壁を作るリスナーたち。その異常な光景を余所に、Sランクの二人は恐るべき魔力を爆発させた。


「死ねェ!!フェイク女!私の筋肉ゴーレムスマッシュでミンチにしてやる!」


「黒焦げになるヨロシ!龍脈拳!!」


 ストロングの巨大な岩石の右腕と、炎の魔龍の灼熱のオーラが、左右から同時に凛音へと迫る。直撃すれば、東京ビッグサイトの半分が吹き飛ぶほどの神話級の必殺技。


 ――しかし。


「……あら」


 凛音はパイプ椅子から立ち上がることすらなく、優雅に紅茶のマイボトルの蓋を閉めた。


「人様のお祭り会場で、天井ガラスを割って土足で踏み入るなんて……本当に、育ちが悪くってよ」


 凛音は膝の上のバールを手に取ると、飛んでくる二人の必殺技に向かって、パイプ椅子に座ったまま、まるでハエでも追い払うかのように軽くバールを一振りした。


 ――パァァァァァァンッ!!!


 ストロングの岩石の右腕が、見えない壁に激突したかのように空中でピタリと静止し、直後に豆腐のようにグシャリとひしゃげた。炎の魔龍の灼熱のオーラが、ただのバールの風圧パリィによって一瞬で「フッ」と鎮火された。


「「……えっ?」」


 米中のトップランカーの時間が停止した。自分たちの全力の必殺技が、パイプ椅子に座ったエプロン姿の女の『座ったままの素振り』によって、完全にゼロにされたのだ。


「ゴミの分別は、しっかり行いませんとね」


 凛音は座ったまま、バールをもう一度、今度は『横』に薙ぎ払った。


 ――ドゴォォォォォォォォンッ!!


「がはぁぁぁっ!?」「あぎゃああああアルゥゥゥ!?」


 物理法則を無視した圧倒的な衝撃波が二人を包み込む。二人のSランクは、ピンボールの弾のようにバウンドし、会場の壁に綺麗に二つ並んで深くめり込んだ。開始から、わずか十秒。


 沈黙する一般客と、全世界一億人の同時視聴者を置き去りに、最前列のブルーシート軍団(古参リスナー)と、関係者席の氷室だけが、狂喜乱舞して叫んでいた。


「ふはははは!!見たか世界よ!これが我らが凛音様のお掃除だ!!」


「お掃除!お掃除!お・そ・う・じ!!」


 壁にめり込み、白目を剥いてピクピクと痙攣する米中のトップランカーたち。凛音はパイプ椅子から上品に立ち上がると、ペンライトとブルーシートが揺れる客席に向かって、最高の微笑みを向けた。


「皆様!本日も分別おそうじ、完了ですわ~!」


 直後、東京ビッグサイトは、地鳴りのような「お嬢様コール」と、全世界から叩きつけられる限界突破のスパチャの嵐に包まれたのであった。

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