第27話 合鍵
いくつかの会計を済ませ、レジを打つカタリナさんの美貌に骨抜きにされてしまった俺は短いため息をつく。
いつ見ても彼女は美しい。
今からカメラでも購入して、彼女の写真を撮ろうか。
いつでもカタリナさんの美しさを見られるようにしたい。
「……幸村さん? どうかしましたか?」
「あ、いいえ! なんでもないんですなんでもただ……」
呆けていたのがバレた!
と思ったが、カタリナさんはのんきに笑顔を浮かべている。
どうやらバレてはいなかったようだ。
だがどう誤魔化すか……俺はふと思いついた言葉を口にする。
「カタリナさん……どこで生活をしてるのかなって……そう思いまして」
頭をかきながら俺はカタリナさんにそう聞いた。
話の内容はない。
しかし、実際カタリナさんがどこで寝食をしているのかは気になる。
「私は……ここで生活をしていますよ」
「え?」
「言ったじゃないですか。私は幸村さんの専属店員だって。この家電量販店が私の働く場所で、住む場所で、存在意義なんです」
「…………」
絶句。
言葉が出てこなかった。
まさか、ここで生活をしていただなんて……
いや、あらゆる物が揃っているから、生活はできるのだろうけど。
快適な生活もできるのだろうけど。
生きていくのに必要な物は揃っているのだろうけど。
だけど……ここが全てだなんて、あんまりだ。
俺だったら発狂する。
「あの、外に出たりしないんですか?」
「あはは……出れないんですよ、私。ここから。どこにも行けないんです」
振り返り、出口の方を確認してみる。
そこは俺が入って来た場所で、俺が開いた空間と繋がっているのみ。
そうか。
俺が帰った後は、そこに何もないんだ。
俺は背筋を震わせ、そして怒りを覚え始めていた。
カタリナさんのような美しい人をここに閉じ込めて……カタリナさんみたいに美しくなくても同じだけれど。
俺のために働かせてくれているのは本当にありがたい。
でもこんな出口の無い牢獄みたいな場所……生き地獄じゃないか。
「……カタリナさん。鍵って売ってますか?」
「鍵ですか? はい。勿論ありますよ」
俺の小さな声にカタリナさんは頷き、鍵が売っている空間を引き出す。
現れた空間の中……レジの斜め後ろに鍵のコーナーがある。
「形も色々ありますけど……どれが必要ですか?」
「どれだっていいですよ。カタリナさんが選んでください」
「はぁ……」
カタリナさんは首を傾げながら鍵を選択する。
彼女が選んだのはL字のような形をした鍵。
古い倉庫などに使用していそうな、現在の日本などでは使用していない形の物だった。
値段は1000ポイント。
安い物だ。
この鍵が、俺の望む効果を発揮してくれたとしたら、安すぎるぐらいだ。
レジを通した鍵を俺は受け取り、鍵に【家電魔術】を施す。
この【家電魔術】というのは、なんとなくではあるが、俺の願いを叶えてくれているような気がした。
家中を掃除してくれる機械や、お湯が瞬時に現れてほしい。
そんな願いを叶えてくれて、その結果、ああいう道具が誕生したように思える。
だからこの鍵も……俺の願いが叶う道具になるはず。
と言うか、絶対になれ。
「……カタリナさん。これ、あげます」
「え……? 私にですか?」
「はい。この鍵を使えば、入り口から俺の小屋に行けるはずです」
「え……そんなこと……できるんですか?」
「試してみてください」
カタリナさんと一緒に店の入り口まで移動する。
俺は先に店を出て、空間を閉じた。
「…………」
フレアはどこかに出かけているのか、小屋は俺一人だけ。
俺は静かな小屋の中で、固唾を飲んで木造の壁を眺めていた。
「あ」
すると、壁に空間が生じ、中からカタリナさんが美しい顔を見せた。
「……本当に繋がりましたね」
カタリナさんは恐る恐る小屋に足を踏み入れる。
「…………」
周囲を見渡すカタリナさん。
まるでお金持ちの家に来た貧乏人のよう。
何もかもが新鮮に感じ、そして住む世界が違うかのように部屋中を見ている。
だがここは何も無い小屋の中。
そんな反応されても困るんですけど。
「その鍵はカタリナさんが持っていてください。言わば、合鍵みたいなものです」
「あ……あああ……合鍵ですかぁ!?」
仰天するカタリナさん。
鍵を握り締めて口をポカンと開けている。
「はい。いつでもこの家に来てください。と言うか、一緒に住みませんか?」
「いいいいいいいいいいい、一緒に住むぅうううううう!?」
あんな所で一人きりなんて寂しすぎる。
この小屋は改装が入る予定。
不思議なことも多いから、もしかしたらもう改装されているのかもしれない。
そして、フレア一人に地下を使わせるのは勿体ない。
二人で地下を使用しても、十分なスペースはあるだろう。
まだ見ていないが、恐らく大丈夫なはずだ。
「で、でも……えっと……若い男女が一つ屋根の下で暮らすだなんて……」
「大丈夫です! カタリナさんにはここに住んでほしいんです! 周囲になんと言われようと、俺はそうしてほしいです!」
「は、はぁ……えええっ!?」
顔を真っ赤にするカタリナさん。
可愛い。真っ赤なカタリナさんもまた可愛いぞ。
何故赤くなっているのかは理解できないが、だがこの勢いでいけば、彼女はここに住んでくれるはず。
一人で生活するよりは、誰かと一緒に暮らしている方が幸せなはず。
だって人は、一人じゃ生きていけないのだから。
誰かが傍にいてくれるだけで、心は救われるものだから。
「どうでしょう、カタリナさん。俺と一緒に生活してくれますか?」
「あの……幸村さんは私のことを……その、そういうつもりだと考えてもいいんですね?」
そういうつもり……
なるほど、カタリナさんは俺が彼女を救いたいと考えていることを理解してくれているんだな。
俺は納得し、そして俺はその言葉を全力で肯定した。
「もちろんです」
「……で、では、よ、よろしくお願いします」
カタリナさんは溶岩のように顔を赤く、そして頭を沸騰させ、声をうわずらせていた。
そんなに喜んでもらえるとは……誘ってよかったな。
俺は満面の笑みを浮かべ、依然として慌てているカタリナさんの表情を眺めていた。




