八日目~みんなで分け合えばいいじゃない~
遅くなりました……。
あと、作者は頭が悪いです。あまり期待しないでください。
朝が来た。
地下シェルターで寝ていたのになんでわかったかって?
答えは簡単。俺は今、外に出ているからだ。
「あのアホども、想像以上に使えないんだが……」
『マスター、恐らく彼らはラブコメイベントを発動中なのですよ! すごいですね、現実でそんなことが起こっているなんて……』
らぶこめいべんと? などのわけのわからんことが起こっていたとして、それが俺の腹を満たすわけでもない。
「フォン、テンションうざい。ついでに存在もうざい。耳が外気に触れなくて辛い。それなのに聴覚が全く鈍っていない高性能さがウザイ」
『マスター、イライラしているのですか?』
イライラしているか、だと……?
当たり前だろうが!
俺はいま絶賛腹減り中なのだ。空腹なのだ。ひもじいのだ。ひだるいのだ。ペコペコなのだ!
食料調達を頼んだアホ二人はずっと帰ってきていない。
つまりは俺は昨日から空気以外何も口にしていない状態である。
「限界だ。もういい。自分で探してこよう」
というわけで、俺はまたまた森へ行くことにした。
無駄に広いので何か食料のようなものもあるだろうという判断だ。
ちなみに街へは行かない。
金がないからだ。意味ない行動はしない。
それと、もし勇者がいたら怖いし。
あぁ、でもそういえば結局依頼の報酬もらってないや……。
勇者で必死だったからなぁ。
あーあ、マジで無様だなぁ、俺。
『元気出してくださいマスター』
「…………」
うっさいわ。
俺はトボトボと森へと歩きだしたのだった。
「もうこの緑とか匂いとか飽きたんだけどなぁ」
だが腹は減っているのだ。
何とかして獲物を狩るなり採るなりしなければ俺は死ぬ。
勇者ではなく空腹に殺される魔王なんて嫌すぎる。
『まさに歴史に名を残す異業ですね』
うっせーばか。
「この草、食えないかな……」
『コワレリグサですね。食べると壊れます。精神的なナニカが。ただし、味は美味です』
ふーん。
…………ダメだ!
あ、危なかったぜ。もう少しで口に運んじまうとこだった。
早く何かを探さなければマジでヤバイ。
「でもとりあえずこれは持っていこう」
『マスター……』
だいじょうぶ、さいしゅーしゅだんだ。
あぁ、もしかするといまがそのときなのかもしれない……
ガササッ ガォウ!
「は? え、ちょっとま……うぉおおお!!?」
ドサッ!
ガチン!!
少し何処かへトリップしていた俺に犬っころが襲いかかってきた。
普通に押し倒されたがなんとか首への噛みつきは回避できたようだ。つーか、動物に殺されかける魔王って……。
『オカミルですね。基本的に単独行動を主体とした狩りを行います。狩りのベテランのような存在で猟師なども度々狩られて食べられることが多いそうです。ちなみにオカミルの肉は食べれません』
フォンがどうでもいい講釈をたれる。マジでどうでもいい。
グルルルル!!
「ちょ、この! あぶね! どけよコラ! っ! くっそ!」
オカミルと揉み合う俺。
ぶっちゃけ、腕力差で首を押しやるぐらいしかできない。
爪が肩に食い込んだり、髪を引っ掛けたりして痛い。
元々ボロかったワンピースもさらにボロボロだ。泣きたい。
『少女、いえ幼女が獣に押し倒されている姿はなんというか、マニアックですね……。恐らく一部の人が見れば鼻血を噴いて倒れるか即座に激写するでしょう。もちろん私は後者ですが』
フォンがグダグダとうるさい。
涎が顔に垂れてくる。手はもうベタベタだ。
イライラする。
すごくイライラする。
空腹だからだ。
オカミルの首がもう抑えられない。
元々抑えられていたことが奇跡だった。
俺の力が一般人以下だからだ。
「っなせってのが! 聞こえねーのか畜生がぁあああ!!」
俺はオカミルの腹部辺りに片手を押し当て、魔法を発動した。
「生命魔法【生命散華】」
ゴパンッ!
という音が辺りに鳴り響く。
内部から生命力を暴走、爆散させてやった。
だけど、まぁ、うん。
「さいっあくだ。ベトベトだし、臭いし、紅いし、臭いし、汚いし」
『あの程度の存在に生命魔法なんて使わなくても……。どう見てもオーバーキルですよ』
うっさい。
ムシャクシャしてやった。今は後悔している。
なにせ至近距離で爆散したのだ。
当然の結果のごとく俺はオカミルの血やら臓物やらをひっかぶることとなってしまった。
「もうこの服もヤバイなぁ。ショックだ……」
ワンピースも見事に滅茶苦茶である。
『そんなに気に入っていたのですかマスター。かなり粗悪品っぽいのですが……』
「まぁ、普通に見た通りの粗悪品だけどな。だって勇者の目を誤魔化さなきゃいけなかったし。それと、別にこの服を気に入っていたわけじゃないぞ? ただ、これがなくなったら全裸しかなくなるしな。それはもう魔王とか以前に社会的に終わりだろう。後で魔法的な処置を施そうとは思ってたんだが、勇者とか勇者とか勇者とかでそれどころじゃなかったし、今は腹減って本格的に死にそうだし。ま、帰ったらなんとかするさ」
今は我慢して水魔法で最低限清潔にして着ていることにする。
それに結局無駄な体力を使ってしまっただけだし、空腹で脳がそろそろコワレリグサを食えと命令しそうな感じだ。
急いでまともな食料を探さなければ……。
「あの頃に帰りたい……」
俺はつい一週間と少し前までの贅沢な暮らしを思い出して泣きたくなった。
というか、泣いた。
空腹を通り越して腹痛が襲ってきた。
痛い、死ぬ。
「なんで、こんなに食べれるものがないんだ……」
『わかりません。ただ、超絶的に運が悪いとしか言いようがありませんが』
「魔法、全開にすれば……」
もう何度目かの欲求に駆られる。
そもそも俺が本気を出せばこんな問題一瞬で片がつくはずなのだ。
街を襲って終了、という解決策で。
「勇者さえ、いなければ」
今頃、以前より無駄に増えた魔力でなんやかんやとできたのに……。
そんなことを何度も考えながら歩いていると、ついに俺にもツキがまわってきたようだ。
「行商人、はっけーん……」
どうやら行商人は秘境の里から出てきたようで街の方へ向かっている。
やっとだ。やっと食料が手に入る。行商人ならいくらなんでも食べ物ぐらい持ってるだろう。
馬車だって引いてるし。
商品が食料系なら貰っていこう。
『マスター、完全に盗賊の考え方です。それと……』
フォンがなにやらうるさいがほぼ聞こえない。もう俺にはあまり理性が残っていなかった。
勇者がいるので派手な魔法が使えないということだけが制約として残ってるだけだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『……ですからですねマスター、マスター? あの、その姿でその息遣いは少しアウトだと思うのですが……』
よし、もう少しで飛び出そう、位置的に真横から出て行く形だが、関係ないか。
さぁ、あと三秒だ。
あと二秒。
一秒。
ゴー!!!
ザッ! バッ! ストッ!
「今すぐ食べ物を引き渡せ!!」「おっと、ここから先に行きたきゃ商品を置いてきな!!」「止まれ! 貴様を連行する!!」
「へ? えっえ? え?」
『ですからマスター、あの者を狙っている存在が何人かいると申告していましたのに……』
「「「………………」」」
俺、盗賊たち、憲兵の三つの勢力は行商人を取り囲んで一瞬沈黙するのだった。
さて、状況把握と行こう。
今、獲物である行商人を中心に三つの狩人が存在する。
1つは俺だ。
天才的な魔力と器用さを合わせ持つ最強的な存在。
2つ目は盗賊たち。
大体8人かそこらで獣人やら人間やらが混じってる。皮肉にも悪人に種族は関係ないらしい。
そして3つ目は憲兵。
一人きりで必死に行商人を追いかけてきたらしく、かすかに息切れしている。
それぞれ行商人の真横、前、後ろと上手くバラけている。
さて、どうするか……。
『マスター、あの』
フォン、少し黙っててくれない?
えっと、む?
盗賊の連中が俺を見てニヤニヤしている。
なぜだ……。
「おい、俺たちゃツいてるぜ? 獲物が増えやがった!」
「ははは! ちげぇねぇや! 憲兵だって一人しかいねぇしな!」
なるほど、つまり、三つの勢力と考えていたのは俺だけで、盗賊連中は獲物、獲物、ゴミとしか思ってないわけか……。
まぁ、確かに、俺の見た目はアレだから仕方ないが。
普通に全員消し飛ばしたり、操ったりしてもいいが、広域魔法は目立って勇者に見つかる可能性がある。
よって、一人ずつヤるしかないのだが……。
とりあえず、現在の立ち位置を弱者から対等へ持っていくか。
「舐めるなクズども」
「あ?」
こういう輩に最も効果的なのは、武力の提示だ。
「俺がその気になれば貴様らを瞬殺することぐらい容易いのだぞ?」
「はぁ? ……っく、はははははは!! なんだ嬢ちゃん? くふふ、それは是非ともやってみて欲しいもんだぜ!」
俺は即刻、究極のパチンコを取り出して笑い出した盗賊の真横の木に向け放つ。
シュォッ!!
と音がして木にキレイな穴が空く。
「な、このガキ、魔道具を……」
「理解したか? それとそこの憲兵! お前も動くな!」
「ちぇ、バレたか。まぁ、仕方ないな」
行商人にコソコソ忍び寄っていた憲兵が足を止める。
憲兵の動きに注意していなかったのか盗賊たちは初めて警戒心を抱き始めた。
さて、これでいい。
始めるか。
「さて、ここで一つ、提案がある」
「あぁ?」
「なに?」
盗賊、憲兵は聞き返してきた。
よし、話を聞く気はあるな。
「まず、俺たちはそれぞれ均衡した状態になっている。これは理解してるか?」
「……意味がわからねぇな。お前が魔道具を持っててこっちも危ねぇのはわかったが、憲兵一人がなんで同じ立場にあるんだ?」
「…………」
「あぁ、そうだな。わかりやすく言えば、俺たちはそれぞれ武力、数、存在で釣り合ってる。俺は単純にこの場にいる誰でも瞬殺できる力を持ってるが、数の多いお前ら盗賊を敵に回すのは面倒だし、憲兵に手を出すともっと面倒になってくる」
「あぁ?」
理解の遅い奴らだな。
勇者がいなけりゃお前らなんて……。
「憲兵に手を出せば調査隊や討伐隊が組まれることになるだろう?」
「……よくおわかりで」
「チッ。なるほどなァ。そいつァ面倒だ……」
「そこでだ、提案があるんだ。まず、俺たち共通の目的、獲物はあの行商人でいいか?」
「そうだな」
「まぁ、そうかな」
よしよし。
「俺たちは今、対等な立場だ。じゃあ、三等分に分けないか?」
「はぁ?」
「は?」
「まず、俺は行商人の食料が欲しい。盗賊のお前らは商品を持っていけばいい。憲兵のお前は行商人の身柄を持っていけ」
俺の提案を聞いて逃げようとした行商人の足を撃つ。
悲鳴をあげて転びまわってるが、どうでもいい。
「……ガキが生意気言ってんじゃねぇ! と言いたいトコだが、なるほどなぁ、悪かねぇ……」
少し考えて盗賊の長っぽいやつが賛成を示してくる。
「……こっちはちょ~っと問題ある、かなぁ」
憲兵は難色を示してきた。
まぁ、盗賊を見逃すなんて行為はさすがに無理か……。
「なら、こうしよう。俺たちはそれぞれここで会わなかった」
「どういうことだい?」
「ようは順番だ。まず、俺が行商人を発見して足を射撃し、食料を奪った。そして盗賊連中が行商人を見つけて商品を奪い、最後に憲兵のお前が身柄を確保した……ということにすればいい」
これなら任は果たしているだろう。
こういうのはポーズの問題だし。
「なかなか魅力的な提案ではあるんだけど、それも無理かな」
……なぜだ?
「君はさ、その商品がなにか知っているかい?」
「……知らない」
「違法奴隷、なんだよね」
違法奴隷?
この商人、奴隷商か!
「一応、違法の奴隷商を捕まえたら違法奴隷は解放しなきゃならないってわけ。だからさ、」
憲兵の奴、正義感野郎か?
なら俺の計画は……
「商品も半分こっちがもらっていいかな?」
大丈夫だった。
コイツ、下衆野郎だ。
さて、と。
どうするか……。
憲兵に商品を半分渡せば盗賊どもが絶対反抗してくる。
別に皆殺しにするのはいいが、魔法が制限された状態で各個撃破し、一人も逃がさないのは失敗する可能性がある。
そうすると、もしすると、いや、本当にもしもの馬鹿げた話だが、俺の情報が勇者に漏れるかもしれない。
そうなってくると俺は今度こそ仕留められる。
というわけで、少しでも危険の少ない選択をしたいわけだが……。
…………うーむ。
気は進まない、が、この方がまだマシ、かもしれない。
「よし!」
少し俺が大きな声を上げると注目が集まる。
「あぁ、なんか思いついたのかぁ? 変なもんつけた魔女さんよぉ」
変なものつけた魔女? え? 何その不名誉な称号。
変なものってフォンか? フォンのことか?
俺だってつけたくてつけてるわけじゃないよ!!
「……あー、盗賊ども、お前ら、商品の半分と俺のこの【究極のパチンコ】で交換しないか?」
『マスター、なんですかそのあるてぃめっとなんちゃらとは』
俺が三秒で考えて付けた。
いい名前だろ?
『…………』
「あー? その魔道具と、商品の半分ねぇ。……ふむ。まず、それはどういったものなんだ?」
まぁ、当然の疑問だよな。
「一言で言うなら、兵器だ。回避不能の速度と防御不可の貫通力がある。弾はそこらへんの石で充分使えるぞ」
結構自慢の作品なのだ。
「へぇ、そいつァいいな。高く売れそうだ」
そうだろうそうだろう。
実際、お前らの想像を超えたスペックを持ってるしな。
あ、でも、
「だが、武器として使って、売ることは無しにしてくれないか?」
盗賊の頭が訝しげな目を向けてきた。
なんだその目は?
「なら却下だ。強力すぎる武器なんざいらねぇよ」
「そ、そうか……」
おい。
おいフォン。
こいつ、盗賊のくせに賢くね?
『マスター、偏見です』
「……他には何かねェのか?」
お?
まだ交渉の余地はありか……。
うーむ、そうだな。
武器類はダメ、となると…………。
あ、あれの実験とかちょうどいいかもしれん。
「なら、もっと直接的な力をくれてやろう」
「……なんだと?」
「お前は俺を魔女といった。それはあまり外れたことじゃないのさ。ようは、お前ら全員の身体能力を十倍まで上げてやろうってことだ」
これならどうだ?
商品半分を譲れば全員が全員、圧倒的とまではいかないがかなりの力が手に入る。
そうすれば盗賊の本分である略奪などが容易になるだろう。
賢いのならこの価値がわからんはずがない。
「………………」
「お、お頭! ここは交渉に乗ったほうがいいんじゃないですかい? 十倍ですぜ?」
「うるせェ。だァってろ」
盗賊たちは話し合っているようだ。
まぁ、主に考え込む頭に対して部下が賛成を勧めているだけだが。
しばらく考え込んだ後、盗賊の頭は口を開いた。
「……条件付きで交渉をのむ」
「なんだ?」
「一つ、教えろ。お前、一体何者だ?」
む、その質問は予想できなかった。
いや、確かに盗賊と憲兵相手に交渉する変な物付けた幼女がいたらそれは気になるか……?
しかし、困った。
何と言うべきか……。
「ただの、物知りな魔女だ」
まぁ、誤魔化すんだけどな。
嘘でも自分が雌と認めるのが辛いぜ……。
「さて、これで問題解決だろ? 憲兵さん」
「うん、そうだね。見事に解決したよ小さな魔女さん」
小さい言うな。
「というより、マジでそんなことできるんだろうな?」
どうやら盗賊連中はまだ俺を疑っているらしい。
心外な。
俺に不可能はほぼないぞ。
『え?』
え?
『……なんでもありません。すみませんでしたマスター』
いや、いいけど?
とりあえず、盗賊連中に答えを返す。
「当たり前だ。そのぐらい出来ずにどうする? あの魔道具も俺が作り出したものだぞ?」
「へぇ……」
「そーかい。なら、先払いで頼むぜ。自分で確かめてーからな」
さっさと力を寄越せってわけか。
まぁ、いいけどさ。
「わかった。あぁ、あと、この取引は無かったことだからな? つまり、お前らは元から強かったってことになるから」
「あぁ、わぁったよ」
さて、じゃ、やるか。
魔法陣は……ふむ。
どうやら魔力が以前より増したことで必要なくなってるな。
「じゃ、一人ずつこっちに来てくれ」
言うと、盗賊の頭が俺の方にやってきた。
そして俺はその盗賊の頭の体に触れながら魔法を発動させる。
「生命魔法【生命昇華】・開始」
すると、盗賊の頭の身体を灰色の光、俺の魔力が包み込み始めた。
順調である。
完全に灰色の光に包まれたようなので、盗賊の頭の生命力を操り、加速させていく。
「っぐ!? がァアあああああああ!!?」
どうやら激痛が伴うらしい。
「我慢しろ。すぐに終わる」
……よし、こんなもんか。
「終了っと」
魔法を停止させると盗賊の頭を包んでいた灰色の光が消える。
「っが、っはっはぁ……はぁ」
一応、成功してるはずだが……。
「気分はどうだ?」
「……世界が、いつもより遅ぇ。なるほど。悪かねぇな。確かに身体能力、その他色々と上がってやがる……」
「そうか。まぁ、ステータスで言えば全体的に最低50は上がってるだろうさ」
さて、残りも早く済ませよう。
「はい、じゃ、次の奴、来い」
盗賊たちは一瞬、呆けた顔おして
「あ、あぁ……」
ゆっくりと近づいてきた。
『マスター』
なんだフォン?
『この魔法、寿命が縮んでいますよね』
そうだけどなにか?
『いえ、その……』
代償なしで力が手に入るはずがないだろう。
そんなことぐらい少し考えればわからないはずがない。
この魔法は生命力の流れを大きく、速くして生物にあるリミッターを外すことが出来る。
そんなことをすれば普通、ニンゲンでは肉体が耐え切れず崩壊してしまうが、それと並行して肉体の耐久度を上げているので問題なく扱える。
しかし、この魔法は言わば現在を強く激しく生きていくようなものなので寿命がおよそ半分ほどになる。
ニンゲンの寿命は大体100年なので50歳までには確実に死ぬだろう。
『……まさに、悪魔の契約ですね』
どこがだ?
『いえ、説明もなしに寿命を半分にするなど……』
いや、だってコイツら盗賊だぜ?
盗賊なんて稼業やってれば寿命で死ぬことなんてないだろう?
必ず何かに殺されちまうような盗賊の奴らに必要なのは今を生き抜く力なんだよ。
俺からすれば理解できないが。
まったく、そんな刹那的に生きて何が楽しいのかねニンゲンは。
俺としてはあまり使わない魔法の実験台としてなかなかイイ思いができたわけだけどさ。
『そう、ですか……』
っと、コイツで最後の一人か……。
『マスターは、やっぱり魔王なのですね』
は? 何当たり前のこと言ってんだよ?
『いえ、なんでもないです』
おかしなやつだな……。
元からだが。
「じゃぁ、俺らは貰うもん貰ったし、行くぞ」
「はいはい」
「うーん、憲兵として盗賊を見送るなんて不思議な気分だな」
盗賊たちは18人いた奴隷のうち9人を連れて去っていった。
奴隷達はこちらを恨めしそうな目で見ていたが、どうでもいい。
捕まる奴が悪いのだ。
「さて、じゃあ、俺も食料貰ってサッサと失せるぞ」
途中、考え事や実験で忘れていた空腹が蘇ってきた。
蘇りすぎて前より辛くなってきているのでいつ倒れてもおかしくない。
『マスターは集中すると周りが気にならなくなるタイプなのですね』
集中力があると言え、集中力があると。
馬車を覗き、食料の入っている袋を漁る。
「お、おぉ……!!」
干し肉を見つけた。
即座に喰らう。
「そんなに空腹だったのかい?」
「あぐ、うむ、そうだが? というよりまだいたんだなお前。さっさとそこで痛みのあまり失神しているニンゲンと残りの奴隷を連れて国に帰れ」
憲兵はどうやら俺のことが気になっているらしい。
まぁ、状況からしてわからんでもないが、さっきの盗賊を見習えばいいのに。
触らぬ神に祟りなし、というように去っていったぞ。
「まぁ、そうしたいのはやまやまなんだけどね……」
「なんだキサマ? まさかロリコンか? ロリコンなのか?」
「相談があるんだよね」
無視か……。
まぁいいか。
今の俺は気分がいい。
馬車にはそれなりの食料が入っていたので、俺は食の楽しみに夢中なのだ。
「むぐ、ん、ふぅ。相談か、なんだ?」
『マスター、食べながらの会話は……』
いけないとでも言うのか?
馬鹿め、俺は魔王……
『萌えますので続けてください。特に口元についた食べかすが、あぁ……』
………………。
「あれ? 食事は中止なのかい? お腹が空いていたんだろう? 食べながらでも構わないよ」
「いや、いい。やっぱり、食べながら喋るのは良くない。……で、なんだよ?」
「そう? じゃ、単刀直入に言って、そのなんて言ったか、アルティメットなんとかを譲ってくれないか? もちろん、売りに出したりしないと誓うよ」
……ほぉ。
「なんでタダでやらないといけないんだ? 俺に得することは何もないだろう」
「あぁ、うん。そうだろうね。だから、俺をあげるよ」
は?
「意味が、わからないんだが……」
「あぁ、そうだね、つまり、そちらの陣営に移ると言っているのさ」
「……俺に何の得が? ニンゲン一人が仲間になっても」
「うーん、情報とか、ね」
情報か。
『マスター、どうするのですか? 正直、あまり割のいい話でもありませんが……』
そうだな。
情報と言ってもニンゲンの国内部のことを教えてもらっても興味ないし……。
「あとは、今回のことを上へ報告しないということもあるよ」
…………こ・い・つ。
『やられましたね、マスター』
「さっきの取り引き、前提を覆す気か? ここで殺してやろうか?」
勇者一行に感知されない程度に魔力を巡らせる。
「死ぬのは嫌だけど、ここで君と繋がりを持つべきだと俺の本能が語りかけてくるんだ。まぁ、威勢良く啖呵切ったはいいけど、その馬鹿げた魔力で既に前言撤回しそうだよ」
ホント、なんなんだコイツは?
『面白い人間ですね。どうでしょうか? 勇者についての情報なども得られますし、手を組むというのは?』
お前、さっきの自分の発言思い出してみ?
まぁ、俺もちょっとその気になってきたけどさ。
「聞きたいことがある」
「なんだい?」
「お前、なんで【究極のパチンコ】が欲しいんだ?」
「生きたいから」
……………………。
「俺はね、自分の実力の底を知られないように生きてきた。だって、死ぬ確率が上がるからね。でも俺は憲兵なんて職についてる。成れる仕事がそれしかなかったのもあるけどさ、この仕事、結構生存率低いんだよ。今回だって、あの盗賊たちの実力を見ると、やり合えば、きっと俺は死んでた。幸い君が上手く収めてくれたから大丈夫だったけど、次は死ぬかもしれない。それは嫌だ。俺は何を犠牲にしようとも全力で生きて生きて生き抜かなきゃならない。そのためには、やっぱり、力がいる。でも、出来るだけ長生きもしなきゃいけない。あの魔法を見るに、人体に絶対悪影響出てるよね? なら、どうしよう、そうだ、あの強力な武器をもらおう、と、こういうわけさ」
……へぇ、これは、面白いな。
『マスターに少し似ていますね。ただ、少し強迫観念がありますが』
そうだな……。
「なぜ、そんなに生きたいんだ?」
「ん? くだらない、本当にくだらないけど、それなりに大事な約束だからさ」
やっぱり、ニンゲンは理解できないな。
でも、あぁ、でも、だ。
少し、興味は湧いた。
『マスター?』
「く、ふふ。はは、ははははははははは!!! いいぞ、いいだろう、ニンゲン。キサマの、俺に脅しをするほどに、くだらない約束とやらのために力をやる。だが、まぁ、この武器はやらん。お前、見たところ剣士だろう? 遠距離兵器を持っていても扱いづらいかもしれないしな」
憲兵は突然笑い出した俺に驚いているようだ。
『私も驚きましたマスター』
うるさいな、今、いいトコなんだ。黙ってろ。
さてさて、勇者が来る前に研究していた魔法を使おう。
丁度いいだろう、副作用で寿命が伸びることはあっても減ることはないだろうし。
「あー、ま、魔女さん? なんというか、その」
「そう不安がるな。俺が開発した、神ですら使えない魔法を使い、貴様を強化してやろうというのだ」
光栄だろう、ニンゲン。
「あ、えっとぉ~、取り引きは、成立、なのかな?」
「あぁ、そうだ。しかももっと強力な力をプレゼントしてやる」
とりあえず
「そこで、じっとしていろ」
憲兵に現在の場所から動かないように命じる。
「……俺は、とんでもないことをしてしまったのではないか?」
何を今更。
「あぁ、そうだ。名前を教えろ。偽名なんざ使うなよ? コレは契約が必要なんだからな」
「あ、俺は、ハンリ。ハンリ・イヒタートだ」
「わかった、これからよろしく、ハンリ・イヒタート。そして、力を与えてやろう」
さぁ、始めるか。
生命魔法よりさらに禁忌。
俺が創り出した、究極の魔法。
「世界魔法」
生命の神秘に触れる魔法ではなく、世界の神秘に手を出した魔法。
ニンゲンの器に納まるか?
まぁ、失敗しても、面白いだろうし、どうとでもなる。
だが、同じ目的を持つ者として、応援してやらんでもないぞ。
日が暮れたが、俺はまだ森の中にいた。
「はぁ、腹は満たせたし、面白い奴にも会えた。もっと言うなら勇者の情報も定期的に手に入る。なかなかの収穫じゃないか」
『…………』
「どうしたフォン?」
『マスターは、本当に凄かったのですね』
急にどうしたんだコイツ?
『ですが、そのマスターでも勇者には勝てないとは……どれだけの存在なんですか』
「馬鹿め。むしろ勝てる方がおかしいぞ? おそらく奴の力を一番感じることができるのは俺だ。あぁ、あのニンゲン、ハンリもおそらく理解できるようになってるだろうな」
というより、【勇者】という存在に勝ってはいけないとも言える。
「ま、どうでもいいか」
フォンと他愛ない話をしながら、あの地下へ帰る。
どうやら、あの二人は既に、というよりやっと帰ってきたようだ。
少し自分達の立場ってのを教えてやるか。
そう決めて中へ跳ぶと
「あ、博士。こっちのはあんまりですよ?」
「そうか? どれ……」
「え、あ、ちょ、」
「うん。美味いではないか助手よ。? どうした?」
「あ、え、かんせつ……なんでもないです」
「おかしな奴だな」
「気にしないでください……」
アホ二人が変な空間を形成していた。
『むぅ。甘酸っぱい桃色空間ですね。今時珍しい希少種ですよ』
……知るか。つか、なんだ?この惨めな気持ち?
俺は無言で外へ出ると出入り口を固定して【空間跳躍】もできないように空間を阻害してやる。
「朽ち果てるまで、そこで二人で暮らすがいい」
『マスター……』
なぜだ、泣きたくなってきた……。
結局、その日は改めてあの空間へ乗り込み、奴らの食べていたアイス、とやらを食べて寝た。
最初は滅してやることも考えていたが、アイスのあまりの美味さにどうでも良くなってしまった。
『口の周りを汚していないか気にするマスターは憤死するほど可愛いです』
という訳で、魔王様のチートたる力の片鱗です。
あ、あと、今回の取引とか頭悪くて済みません。
作者の限界です。
次回は、ハンリさん視点の魔王様。
少し抜いたのは魔王様が魔法を使うシーンを違う視点で書きたかったからです。
どんなにすごくても本人からすると書きづらいですし。
盗賊さんたち?
気が向いたら書くかもです。
次回は速く書けるといいなぁ、とは思ってますが、期待しないでください。