悪徳商人来たる【前編】
お待たせしてしまいすみませんでした……。
少しづつ再開していきます。
用心棒の先生も着々と増え、るんるん気分で書類を読む仕事をしていた私。あっと監禁べ……執務室。
……何かが物足りない。
いや、悪役が真面目に仕事をしてるとかそういうことじゃない。
仕事の件はもう諦めた……。
サボると何よりダリウスが怖いし、最近は悪の内務卿が例の酷薄な笑みと共に、「(読むよな? 当然読むよな? 読まなかったらどうなるかわかるよな?)」って脳内に語りかけつつ大量の書類と共に迫ってくる。
仕方ない、仕方ないんだ……正義パワーと悪役パワーのコラボレーションで迫られては、いくら悪の女王である私でもそう簡単には太刀打ちできない……。
だから今日も今日とて面倒な書類を読んでいたのだが。
「やっぱりなにか物足りないですわね」
私はそう言ってため息をつきながら、次の書類に目を落とす。
なんだか数字がたくさん並んでいる。
そういえば数学……嫌いだったなぁ……。
「……補習……留年……」
ふと思い出したのだが、こちらの世界に突然来ることになってしまったため、数学の補習を受けられなくなってしまった。
ある意味ラッキーだが、ある意味アンラッキー。
補習を受けなければ、留年になってしまう……。
……だいたい関数が悪いんだ。一次関数すらわからない私が、二次関数なんかわかるわけが……ぬぬぬぬぬっ。
そう、私が悪いんじゃなく、関数が悪い!
そうに違いない。
奴さえいなければ私の数学ライフはもっと豊かなものになったはず。
文系でも将来使う?
先生がそんなことを言っていたが、経済を勉強しなければ…………ん? 経済?
ちょっと待てよ。
そっか! そうだよ、経済だ!
経済と言えばお金。お金と言えば商人。商人と言えば賄賂! 賄賂と言えば〜。
「悪代官!」
そう、悪代官志望の私として、お主も悪よのぅ仲間。つまり悪徳商人は外せない。
悪代官と言えば悪徳商人。悪徳商人と言えば悪代官。
二人は一人。まさに運命共同体にして一蓮托生。悪代官と悪徳商人は水魚の交わり……いや、泥ナマズの交わりで、それはもうかたいかたい絆で結ばれていると決まっているのだ。
というわけで。
「先生方! 行きますわよ!」
私は執務机から立ち上がると、部屋の前で警護しているであろう用心棒の先生こと、トリスタン卿とモブ騎士ジョンに声をかける。
目標、悪徳商人の確保! 目的、山吹色のお菓子!
執務室の扉を開けると、唖然している先生方が見えたが、今は些細なことだ。
それよりも。
私は颯爽と歩きだす。
夢の『「お主も悪よのぅ」「いえいえ、お代官様ほどではございませぬ」計画』はすぐ目前なのだ。
「おーほほほほっ!」
私は悪役必殺高笑いを響かせながら、城門へと足取り軽く歩みを進めた。
………………。
…………。
……。
五分後。
「姉上、何をしておいでですか?」
「あっ、い、いえ。す、少し、城下に……視察……?」
「まさかその格好で、ですか?」
「えっ? あ、いや、今から着替えて……」
「……姉上のお部屋からはだいぶ遠いようですが?」
「……お、おーほほほほっ!」
「笑ったからといって誤魔化せるものではありません!」
「た、只今着替えてまいります、はいっ!」
こうして私の『「お主も悪よのぅ」「いえいえ、お代官様ほどではございませぬ」計画』は頓挫を……迎えるわけがあってたまるかっ!
悪徳商人を仲間に加えるべくまわれ右。
急がば回れ。急いてはことを仕損じる。
ダリウスの正義パワーを押し返すためにも、悪徳商人の確保は必須なのだ。
だが今は情勢が怪しい。
一旦着替えて体制の立て直し、そののち再び相見えん! ダリウスよ。
その時が貴様の……あ、すみませんすみません。調子に乗りました。は、はい。止まってないですぐに着替えてきます。ホントすみません。
だから……そのぉ……そんなに睨まないでくれませんか……?
ホ、ホントです。すぐ着替えて……。
え!? そもそも外出がダメ……?
え? い、いや、これはそのぉ……私が悪役女王になるために必要なことでして……。
す、すぐ戻りますし、用心棒の先生方も一緒に……。
え? ダ、ダリウスも行く?
い、いやそれは不味いというかなんと言うか……。
乙女の秘密、的な?
そこに男の子が来るのはちょっとあのぉ……ゆ、許されないっていうか……。
え? そうじゃなきゃ行っちゃダメ?
うーん、いや、うーん、いやいやでも、うーん。
でもまぁ、そういうことならまぁ。
「おーほほほほっ!」
悪役女王たるもの寛大で……あっ、すみません、笑ってないですぐ着替えて準備します!
行きます行きます!
ホントすぐ準備して来るので……。
こうして私の『「お主も……長い! 言うのめんどくさい!
ダリウスが付いて来るという誤算はあったものの、通称おぬワル計画は幕を開けたのだった。




