先生! 出番です!【中編】
「あ、暑い……ですわ」
そう、翌日私は、ダリウスと内務卿を伴い、城の裏手に設けられた屋外演習場へとやってきていた。
それにしても私の風魔法、通称扇風機も、ここまで暑いとほとんど効果がない。
風が来るには来るが、生温いを通り越して、熱風に近くなっているからだ。
これならば無い方がまだマシ。ということで使うのをやめたのだが、それはそれで暑い。
一応天蓋の下にいるとはいえ、日差しを遮る程度ではあまり変わらない。
故に私は早くも今回のことを若干後悔し始めていた。
「姉上、委細整いました」
すると、ダリウスから声がかかる。
これは何か一言話せってことか……。
天蓋の下の椅子でだらしなくなりつつあった私は、机の上に置いてあった手鏡を見る。
うん、大丈夫。汗で化粧崩れがしているなんてこともない。
それを確認した私は椅子から立ち上がり、演習場の前方中央にある演台へと向かった。
一糸乱れず整列した大勢の近衛兵に一瞬だけ気圧されかけるも、私は悪の女王。大物。だから大丈夫。むしろ望むところ!
自分にそう言い聞かせ、心を落ち着ける。
そうして演台へと昇った私は、ゆっくりと深呼吸をした。
そう、今日は。
「ではこれより、近衛騎士団長決定戦を行いますわ! おーほほほほっ!」
悪の内務卿の暗躍(?)によって空いた近衛騎士団のポストを決める武闘大会を開くことにしたのだ。
目の前に広がる光景を見るに、近衛の皆さんもやる気になっているようだ。
声にこそ出さないが、気炎が上がっていることが見て取れる。
ふとその中に、赤味がかった髪を見かけた。
トリスタン卿だ。
私は悪役スマイル(無言バージョン)を向けた。
「(期待しておりますわ)」
心の中でそう呟きながら。
さて、なぜ私がこのような方法で次の近衛騎士団長を決めようと思ったのか。
それは単純で、原作のイザベルもやっていたから。
それだけである。
うん、ぶっちゃけどうやって決めればいいかわからなかったからね。
それにほら、悪の組織って結構実力主義っぽいところがあるから。力こそ全て! 力こそ正義! 弱いのはそれだけで罪! 弱者はいらぬ!みたいな。
だからちょうどいいかなーって。
ただ、原作と違うのは、使用する武器を真剣から木刀に変えさせたこと。
原作のイザベルは血を見て喜んでたみたいだけど、今の私にはそんな趣味はない。
痛そうだし……。
それに、腐っても騎士。
弱いとは言っても、そこそこは強いはずだ。
うん、少なくとも私よりは絶対に強い。
第一、悪の組織は幹部と怪人ばかりではない。大量の下っ端戦闘員によって成り立っているのだ。
子供の頃に見た、なんとかライダーでもそうだった。
なんとかライダーの戦闘員も一般人相手には十分に強かったし、悪代官にも斬られ役となる手下は多いに越したことはない。
人海戦術で数に劣る正義の味方を押し込むのだ!
一対一では相手にならなくとも、一対十ならば勝てるかもしれない。
律儀に一騎打ちなんかせずに、十人一斉に向かっていくことで正義の味方を倒す!
私のこの完璧な作戦を実現するためにも、こんなところで死なれたら困る。
うんうん、私ってさすが悪役女王。如何にも悪の大物っぽいこと考えているわ〜。
そんなことを思っていると、隣から声がかかった。
「姉上、あの者をご存知なのですか?」
今私は再び天蓋の下へと戻り、始まった第一回戦の様子をダリウス達と観戦していた。
そして複数行われている試合のうちの一つがトリスタン卿のそれ。
私がそれを見ていることに気づいたのだろう。
ダリウスがそう尋ねてきた。
「いいえ。ただ……」
「ただ?」
「強そうな方だと思っただけですわ」
私がそう答えると、ダリウスは複雑そうな表情を浮かべた。
なるほど、原作のダリウスは最後、トリスタン卿と死闘を演じている。
まさに一進一退。
最後はトリスタン卿が悪の女王に仕えることに迷いがあった為になんとかその隙を突いて勝つことができたが、トリスタン卿が万全の状態であったらわからなかっただろう。
そんな未来(?)を知っている私には、ダリウスの気持ちがなんとなくわかった。
きっとダリウスは将来自分に立ち塞がる存在として警戒しているのだ。
うんうん、いい傾向だ。
そう私がほくそ笑んでいると、内務卿もこれまた微妙そうな表情で話しかけてきた。
「陛下はあの者に期待しておられるのですか……?」
おっ? さすがは悪の内務卿。トリスタン卿が持つ正義の心に気づき警戒している?
なにせ悪の内務卿。妹さんの病気も治り、絶好調の悪役モード。
だが安心して欲しい。トリスタン卿は正義の心を持つが故に、悪である私を裏切れないのだ。
だからそんなに心配しなくても大丈夫。
そんな気持ちを込めつつ。
「ええ、そうですわね。あの方が私の味方となってくれたら心強いですわね」
そう私が答えると、内務卿はますます微妙そうな表情を深める。
う……悪の心に目覚めた内務卿には正義に燃える心は警戒して十分ということか……。
それに私は知っているけど、内務卿はトリスタン卿の人となりを知らない。
だからこその警戒だとは思うが、私としては同じ悪役同士、仲良くやって欲しいなぁと思う。
だから。
「もちろん内務卿にも期待しておりますわ。それは今後も何ら変わるものではありませんことよ」
そう言って私は悪役スマイル(無言バージョン)を内務卿に向けた。
まっ、これからである。どちらも頼りになる“先生”。先生同士きっとこれから仲良くる機会もあるだろう。
私がそう思っていると内務卿が。
「はっ。勿体無いお言葉でございます。臣の忠誠も変わらぬものでございます」
表情を戻しそう言った。
うんうん、悪役同士みんな仲良く正義を打倒しましょう!
そうしていると、第一回戦が終わった。
トリスタン卿も無事に勝ち進んだようだ。
よかったよかった。




