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先生! 出番です!【前編】

「お、 おーほほほほっ! 伯爵、いえ、内務卿、よくやってくれましたわ……」

ねぇ? 私、悪役っぽかった? ちゃんと悪役できてた?

最近、悪役であることに自信喪失気味の私。

というのも……。

目の前で酷薄な笑み(通称“死神の微笑み”。命名私)を浮かべながら報告書の束を置く悪の伯爵改め悪の内務卿。

めっっっっちゃくちゃ怖いんですけど----っ!?

ちなみにこの死神の微笑み。悪の伯爵が悪の内務卿になってから、今回で二回目である。

さすが悪の内務卿にバージョンアップ(?)しただけあって、すっごく悪役っぽい。なんか悪の女王の私、霞んでない? ってくらいに悪役。

それはもう、つい先日の第一回目から凄かったんだから。



先日、私の執務室(ダリウスのおかげで実質お昼寝部屋と化している)にやってきた悪の内務卿。

その時も報告書を手にしていたので。

「それは何かしら?」

と尋ねてみたら。

「内務省にて陛下に弓引かんとした者共のリストでございます」

うんうん、それはいいよ。私は悪役、正義の味方は少ない方がいいに決まっている。

しかしそのリスト。人物名の脇に、その後の処遇が載っていたのだが。

国外追加。

行方不明。

国外追加。

国外追加。

行方不明。

行方不明。

行方不明。

行方不明。

以下殆ど行方不明。

え? 行方不明って何?

いくら戸籍なんかがしっかりしていないこの世界とは言え、相手は一応内務省のお役人。

お役人と言えば、下の方でも一応何らかの爵位持ち。つまり貴族であるのだが、身分も収入も財産もある貴族がそうそう行方不明になるなんてことが……。

そう思った私は。

「な、内務卿。この行方不明というのは……?」

と尋ねたのだが、尋ねた私が愚かでございました!

そこで一回目の死神の微笑みですよ。返事は言葉ではなく、死神の微笑み!

(あ? 悪役女王だったらわかってるよな? 悪役だろ? そんくらい察しろよ。それとも何か? 実は悪役って嘘なのか? え? どうなのよ?)

そんな悪の内務卿の心の声が聞こえてきたような気がしたので、私は精一杯悪役っぽく。

「い、いえ。つまらないことを聞きましたわ。忘れてください」

といってその場を誤魔化したという経緯があった。



そして今回も行方不明者多数のリスト。しかも今回は内務省内だけではなく、様々なところから集められているようだ。

っていうか、悪の内務卿、めっちゃ働き者じゃない!?

たしか原作では、悪の女王ことイザベルが。

「私、あの方のこと、好きになれませんわ」

と囁くのだ。

そうすると、その意を汲んだ内務卿がその人物を……。という流れだったはず。

にも関わらず、この世界に来てから一度も私はこの、“や”の付く親分さん的「嫌いだとは言ったが、殺せなどと言った覚えはない。全ては部下が勝手にやったこと。自分は関係ない」作戦を使った覚えがない。

嫌いになるも何も、ダリウスのおかげで私は未だ悪役ぼっちだ。

最近は悪の内務卿がこうして悪役オーラを全開で振りまいているのだから、悪役仲間が増えてもよさそうなのに、一向に増える気配すらない。

というわけで、嫌いになるも何もそもそも側に人が寄り付かない私は、全くの無関係。

「陛下?」

私が悪の内務卿がなぜこんなにもやる気になったのかを考えていると、不意に内務卿に呼びかけられた。

「いえ、なんでもありませんわ」

うん、よくよく考えれば、やる気になってくれるのはいいことだ。

正義の味方は少なければ少ないほどいいに決まっているのだから。

「おーほほほほっ! 本当によくやってくれましたわ」

余裕を取り戻した私は、再び必殺高笑い。

すると。

「陛下、そこでご相談なのですが、近衛騎士団長の椅子が空きましてございます」

そう言って悪の内務卿は、リストのあるページを開いてみせた。

どれどれ。身を乗り出して見てみると、近衛騎士団長の名前の脇に“行方不明”と書かれてあった。

あー、はいはい。行方不明ね、行方不明。どこ行ったんだろうね、困った困った。まぁ、私は悪役オブ悪役。悪の女王だから、行き先は知ってるけどね。別に知ってるから、わざわざ言わなくていいよ? ホントだよ? すっごく遠いけど、行こうと思えば一瞬でイケるところでしょ? べ、別に怖くなんかないよ? ほ、ほら、私って悪役だし? オーラを出しながら、困った時の原作知識を思い出す。


確か原作に出てきた近衛騎士団長は、グレンヴィル・トリスタンという名前だった。

そこで改めて内務卿の持ってきたリストを見てみると、全然違う名前。

たぶん前任者だろうか?

まぁ知らない人だし、別にどうでもいっか。

それよりもトリスタン卿だ。

赤味がかった髪はその内に秘めたる炎のようである。

とは、作中でダリウスが語った言葉。

朴訥とした如何にも武士(騎士だけど)って感じなのに、内側では正義の炎を滾らすその人柄は、悪役スキーの私にも好ましく思えた。

どこか女王のやり方が間違っているとは思いながらも、最期の時まで近衛として女王を守ろうとしたトリスタン卿。

是非欲しい!

本人の性格は正義側っぽいが、役目は役目として女王を裏切ることなく戦ったのだから、実に武士っぽい。

やはり悪代官を守るのは強い剣豪。

悪代官の必殺技。

「お、おのれ小癪な! 斯くなる上は……先生! お願いします!」

これは必須だ。

言ってみれば、フレンチトーストに生クリーム。

いざ追い詰められたときにこれがあると無いとでは、大違いである。

私の行方不明を回避するためにも、このトリスタン卿は“先生”の一人に加えておかないと。

そう思った私は、悪役スマイル(無言バージョン)と共に。

「おーほほほほっ! いいことを思いつきましたわ」

そう内務卿に笑いかけた。

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