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悪徳商人来たる【中編】

石畳の道が切れ、土の道へと変わった。

せわしなく人々が行き交い、もうもうと土ぼこりが舞っている。

天気は快晴。しかし人々が巻き上げる土ぼこりのせいで私の視界は悪い。

そして!

「ごほっ……えほっ……げほっ……」

いくら悪役とは言え、乙女が出しちゃいけないような音を出す私。

それもこれも、この土ぼこりが全て悪いのだ!

さっきから喉に入って咳が止まらないじゃないっ。

くぅ〜、誰よ、ここの責任者!

ゆ、許すまじ。メインストリートだけ石畳で、あとは土! ひたすら土!

だいたいメインストリートなんて、さっき通ったら、ガラガラに空いてたじゃない!

え? 貴族が登城する為に中央は空けておく決まりになっている?

何言ってるの? 貴族っていう奴は四六時中登城してるの?

そんなわけあるかっ!

最近私が会った貴族と言えば、悪の内務卿と用心棒の先生方……あとは毎朝来てくれる典医さんくらい?

他の貴族なんてまっっっっったく見ていない。

こうなったら私が責任者に直談判してここを全て石畳に……えっ? 責任者は私?

あ、あら、そ、そうでしたわね。おほほほほ。私としたことがすっかり忘れておりましたわ。おーほほほほっ!

……あっ、だからそんなに残念なものを見るような目で私を……。

って、だったら話は早い。帰ったら速石畳化。

なんか重そうな荷物も通ってるから、超頑丈なやつ。

そうする。ぜっったいにそうする!

私の持てる悪役パワーで無理押しす……ごほっ! げへっ!

くっ、忌まわしき土め……。

しかし私は女王! しかも、とびっきりの悪役っ!

女王が道を整備させたのは自らの咳をとめさせる為という全く身勝手なものであった的な、私の悪役女王っぷりを示す素敵エピソードの礎となるがいい。

「おーほほほほっ!」

悪の前には全て風の前の塵に同じ、なのだ! 土ぼこりだけになっ!

さすが私! 悪の化身! 悪役万歳!

「おーほほほ……げほっげほっげほっ」

……高笑いをしたら思いっきり喉に土が入った……。



さて、そうして土と格闘する私の後ろには、助さん格さ……じゃなかった、商家の手代に変装したトリスタン卿とモブ騎士ジョンが付き従い、横には余計な存在、うっかりダリウスもいる。

みんなそれぞれコスプ……じゃなかった、変装して街へとやって来たわけだが。

コンセプトは、裕福な商家の娘と、それに付き合わされる弟と手代2人。

なんだか越後のちりめん問屋の御隠居一行っぽいけど気にしてはいけない。

本当は悪代官御用達の紫の顔を覆う頭巾みたいなのがよかったのだが、全力でダリウスに止められ、

「それはお止めになった方がよろしいかと……」

と言うトリスタン卿の後ろでモブ騎士ジョンに笑われ。

おい、お前。いくら声を抑えても見えてるからな?

こら、腹を押さえるな!

モブの癖に、私を笑うなー!

というやり取りのせいで諦めることになった紫頭巾は、今も私の部屋で眠っている。


そんなことを思い返していると。

「お嬢様、御下がりください」

とっさに前へと出てきたトリスタン卿から声がかかった。

同時にダリウスから袖を引かれる。

モブ騎士ジョンも真剣な表情で腰に佩いた剣に手をかけるのが見えた。

なになに? 何事!?

理解の追いつかずにいる私が周囲に目を凝らすと。

「おい! その汚い手をどけな!」

ガラの悪そうな男数人が運ぶ荷車を止めようと、正義っぽい感じの優男が止めようとして逆に食ってかかられている場面だった。

なんてこった……。

まさかそんな……。

……こんなに素晴らしい場面に出逢えるなんてっ!

そう、これよこれよっ!

私はこういうシチュエーションを待っていたのだ!

今こそ悪代官伝家の宝刀、「先生! お願いします!」を抜くべきとき!

なんと行っても、私は悪役女王。

今回の目的も、悪代官の永遠の相方とも言える悪徳商人獲得のため。

すなわちここでゴロツキっぽい人達を助ける。

からの、悪徳商人に紹介される。

悪徳商人、私の正体を知り、山吹色のお菓子を差し出す。

私、悪徳商人ゲット。

「おぬわる」「いえおだ」ルート待ったなし!

この黄金の方程式が見えてきたのだ。

昔からゴロツキっぽい人達は悪徳商人の手下と相場が決まっている。

つまりいま目の前にいるゴロツキっぽい人達の主人は悪徳商人確定。

そしてなんと言っても、悪徳商人の主人は悪代官。

悪代官を目指す私が彼らを助けるのはまさに必然!

未来部下の部下もまた部下なのだ!

「助さん! 格さん!」

……じゃなかった、危ない危ない。これでは逆になっていまう。危うく今のシチュエーションに流されてしまうところだった。

……気を取り直して。

「先生! お願いします!」

私はいよいよ伝家の宝刀を抜いた。

悪代官渾身の掛け声と共に飛び出す先生二号ことモブ騎士ジョン。

あ、先生一号ことトリスタン卿は私の護衛に残るのね。

あの程度の輩、俺が出るまでもないってことかしら?

さすが頼れる先生!

これで私の安全も……っておいモブ!

そっちじゃないっ!

そっちの正義っぽい方を助けるんじゃなく逆っ!

悪徳商人の手下っぽいゴロツキっぽい方を助けるのっ!

勢いよく駆け出したモブ騎士ジョンに私は慌てて声をかける。

「あー、その。逆、ですわ」

そう言って私は、正義っぽい方を指でちょんちょんっと指す。

ああ、うん。そうだよね。

モブ騎士ジョンもモブながら正義っぽいもんね。

そういう表情になるよね。

わかるよ、うん、わかってた。

でもね、私はほら、普通に悪役だから。

悪の側を助けるんだ。

だからね、うん、ごめんね、なんか。

……というか、なんで悪役オブ悪役。悪の女王たる私が正義のモブに配慮しなきゃいけないの?

いやいやいや、それはおかしいでしょ?

正義すらも利用してこそ悪の主役。悪のボスオブボス。

……って、あれ?

もしかして今の私、悪のボスっぽい?

モブとは言え正義の力を利用して悪を助ける。

おおっ! まさに悪役! 悪のボスっ!

私、もしかして……今めっさ輝いてる!?

輝いちゃってます!?

私がそんなことを考えているうちに、バッタバッタと斬り伏せるモブ騎士ジョン。

あ、嘘。

本当は抜剣することもなく、リーダーっぽい正義の優男の腕を左手で掴んで軽くひねると、

「どうする、やる?」

右手をひらひらさせ、利き手は空いてますよアピールをしながら隙なく残った周囲をひと睨み。

気づいたら終わってました。

モブのクセにトリスタン卿並みに強いモブ騎士ジョンが、正義っぽい優男を軽くあしらってました。

お前、モブのくせにやるな。

「おーほほほほっ!」

正義は滅びるのだっ!

モブ騎士ジョンが正義っぽい優男達を蹴散らしたことに気をよくした私は勝利の高笑いをしつつ、ゴロツキっぽい男達に近づく。

「姉上!」

「お嬢様!」

私がのこのことゴロツキ達に寄っていったからだろう。ダリウスとトリスタン卿が同時に叫ぶ。

しかし私は悪役。

悪役スマイル(無言バージョン)を浮かべつつ、ほら、私は敵じゃないですよ、同じ悪役仲間ですよアピールをして、さらに近づいた。

そして。

「あなた方が悪徳商人の部下の皆様かしら? 私はイザ……」

おっと、危ない危ない。せっかく変装しているのに本名を名乗るところだった。

「こほん、私はベラ。ちりめん問屋の娘ですわ」

いや、この世界にちりめん問屋があるかどうかなんて知らないけど……なんとなく雰囲気、ってやつで。

そう言うと、剣呑な視線がいくつも私に刺さる。

ま、当然だよね。

悪徳商人なんて言われたら、いい気はしないわよね。

でも安心してください。私も皆さんと同じ悪役仲間なんですよ、大丈夫なんですよ、ということを示すべく、さらに練習を重ねて磨きをかけた悪役スマイル(無言バージョン)を深め、

「今日は皆さんの主人と取り引きにまいりましたの。皆さんの主人のところに案内してくださるかしら?」

そう言った。

さっきのモブ騎士ジョンの活躍もあったのだろう、彼らは顔を見合わせると、静かに頷きあい、

「お嬢ちゃん、案内してもいいが妙な真似はするなよ?」

そう言って私達ご老こ……じゃなかった、悪代官一行を案内し始めた。

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