第二章 ギルドへ
祝杯を挙げていたパーティーメンバー4人とデシャルは、報酬をもらうためにギルドへ向かう。
「不滅の祝杯亭」での酒宴を終え、パーティーの一行はギルドに移動した。
酒場から、ギルド「陽光の天秤」までは、大した距離ではないとはいえ、すべての装備を小柄なデシャル一人で担いで移動するのはなかなかの苦行だ。
普通に考えたらとんでもなく重労働だとわかりそうなものだが、ジル、ミラ、マーク、ガルドの4人は、誰一人としてデシャルを手伝おうとか、気遣う素振りすら見せない。
それどころか、デシャルの歩みが遅すぎると文句を言い出す始末だ。
「ねぇ、デシャル。」
ジルたちがギルドの受付で今回のダンジョンでの話をしている。
マークとガルドは、その場にいた受付の担当や、ほかのパーティーたち、はては一般人から口々に賞賛の言葉を浴びていた。
それを横目で見ながら、重い荷物をやっとのことで床におろし、大きく息を吐き出しているデシャルに、ミラが声をかけていた。
「はい……。な、なんでしょうか。」
また、何か理不尽なことを言いつけられるのだろう、そう思い込んでいるデシャルは、目を合わせようともせずに、ミラに対して小声で答えた。
「あんた、もしかして、ここまでくるの、わざとゆっくり歩いたんじゃない?」
(さっきの祝杯亭でのあれ。こいつ、絶対あたしの矢じりを避けたよね。でも……。そんなわけないか。だって、この程度の荷物も一人で運べない役立たずなんだもんね。)
問いかけはしたものの、自分の中で結論を出し、デシャルに抱いた違和感をさっと打ち消したミラは、デシャルの予想通りの言葉を投げつけた。
「はぁぁ。情けないったらありゃしない。うちらのようなSSランクの『暁光の騎士団』に、あんたみたいな使えない、まさに最低Fランクのお荷物がいるなんてさ。ねぇ、ジル。もう、こいつ、いらなくない?」
「お荷物……。そんな……。」
ミラに投げつけられた言葉を振り払う力もなく、ただがっくりとうなだれるデシャル。
その姿を見て、周りにいる者たちはひそひそと話している。もしかしたら、ついにこの場でデシャルがパーティーから追放されるのではないかと。
以前から、この騎士団のメンバーとしてただ一人ふさわしくない(ほかのメンバーに見劣りするどころか、何の役にも立っていない)デシャルが、いつかパーティーから追放されるだろうという噂は絶えずあったからだ。
「なぁ、デシャル。お前、今日は身分証出さなくていいぞ?」
ミラが腕組みをしてニコニコ笑いかけているジルは、相変わらず見下すような目つきで冷たくそう言った。
「え? 出さなくていいって、どういう……?」
「これだからFランクは困るんだよねぇ。何も難しいこと言ってないだろう、ジルは? 疲れているだろうから、お前の手間を省いてやると言っているんじゃないか。そうだよね、ジル?」
マークは、口元に手をやり、相変わらずの嘲笑を浮かべてそう言った。
マークに聞かれたジルは、黙って頷く。
「で、ですが、身分証を出さないと報酬がもらえない……。」
そう言って慌てて身分証を出そうとするデシャルの手首をつかんで捻り上げようとしているのはガルドだった。
「痛いっ! 痛いです、ガルドさん……。」
ガルドに手首をつかまれているデシャルは、一瞬ガルドを見、そのあとすぐに視線をそらし、宙を見た。まるで何かのタイミングを計っているかのように。
(もうすぐだ。あと少しで……。)
ガルドはほんの一瞬、デシャルが自分を見たことに気が付いたが、そのことについては触れなかった。
「荷物運びしかしなかった奴が、一人前の報酬をもらう気か?」
ガルドがそういうと、それに続けてジルも畳みかけるようにこういった。
「お前みたいな役立たずのクズ治癒師は、今日でクビな。」
「えっ?」
突然そう言われ、意味が分からずぽかんとしているのはデシャルだけ。
パーティーのメンバーはジルの言葉にうなずいているし、周りでそのやり取りを見ている者たちも、ついにこの時が来たか、という反応を見せている。
そこにふらりと通りがかったのが、このギルド一、軽薄者で通っているトット―だった。
「おやおやぁ、どうしたんです、騎士団の皆さん~? って、めっちゃテンション下がっちゃってるのは、デシャルさんじゃないですか。」
面倒くさいやつが声をかけてきた、と言わんばかりの表情で、マークがトット―を遠ざけようとする。
「いいから、こっち来んなって。大事な話をしてるところなんだよ。」
犬を追い払うように手でしっしっとやるマークを見据えて、トット―は真面目な顔で続けた。
ギルド一の軽薄男は、ポケットから銀縁の丸眼鏡を取り出し、そっとかける。
ずり落ちそうになる眼鏡を人差し指で喰い、と押し上げて、
「いいんですかぁ、そんなこと言っちゃってぇ。せっかくこのトット―様が今回のダンジョン攻略についてのより深いお話をしようと思っていたのにぃ。」
と、相変わらずの軽い口調でそう言ったが、眼鏡越しにデシャルを見た時に、彼が口をつぐみ、なぜだか急に汗を拭きだしたことにはジルたちは気づいていなかった。
(おいおい。なんだよこの数値は……。嘘だろ、あのFランク男が? 数値の桁がレンズに収まり切れない? あいつ、体の中に何を閉じ込めてるんだ? もしかして何かで無理やり圧縮してるのか?)
ギルドいち、軽薄男とうわさされているトット―の眼鏡の秘密とは……?




