第一章 使えないデシャル
王都グラン・ドールのど真ん中にある、街の酒場。
「不滅の祝杯亭」という名前の酒場は、今日も大勢の客でにぎわっている。
名前の通り、不滅の盛り上がりを見せているようだ。
そして、そのそばにあるギルド『陽光の天秤』に出入りしているパーティーのメンバーが、疲れをいやすために立ち寄る店でもある。
超高難易度と言われた最高級ランクのダンジョンをクリアして戻ってきた「暁光の騎士団」のメンバーたちも、祝い酒を飲むためにこの店を訪れていた。
店員たちや、先に店にいた客たちは、口々に彼らの偉業をたたえる。
「おぉ、暁光の騎士団様じゃねぇか。今回もまた、見事な仕事をされたんだろうなぁ。」
「見ろよ、あのすらっとしたお姿を。我々とは似ても似つかねぇ、さすがはジル様だぜ。」
「あぁ、たまらねぇ。ミラ様に、目の前で睨まれてみてぇものだぜ。」
「マーク様の魔法さえありゃぁ、どんなダンジョンだってちょちょいのちょいだろうよ。」
「いやいや、やっぱりガルド様の働きあってこそだぜ。なぁ?」
そう言って騎士団のメンバーを口々にたたえている周りの客たちとは違って、メンバーたちの間にはいつものように、おかしな空気が流れているのだ。
「なぁ、デシャル。何回言えばわかるんだよ。」
180センチをゆうに超える長身の剣士が、小柄な男の肩をつつきながら、なじるように何度も言っている。
デシャル、と呼ばれた男の服は泥だらけ、顔もすすにまみれたように黒く汚れている。ところどころ血がにじんでいる。もしかしたら重傷なのでは? と思わせるくらい、デシャルの呼吸が浅い。
デシャルは、剣士につつかれた肩をおさえて、今にも泣き出しそうな顔で見上げている。
「っ……。」
「ねー、ジルぅ。何回言ったって、わかんないってばさあ。こいつ、ほんとに役立たずなんだから。わかってるっしょ?」
長身の男(どうやら、ジル、という名前らしい)の腕にまとわりつき、甘えた声をあげている若くスタイルのよい女は、弓の名手と言われているミラだ。
暇を持て余しているのか、ジルに甘えてまとわりつく子猫のようにクネクネしながら、デシャルに向けて指先で小さな金属製の矢じりを飛ばした。
その矢じりは、デシャルの頬をかすめて地面に音を立てて落ちる。
「いっ!」
デシャルは目に涙を浮かべ、頬を押さえて2人を見つめる。
だが、まっすぐデシャルの頬をめがけて飛んできた矢じりが、わずかに角度を変え、そのために頬をかすめる程度で済んだという事実を、ミラの視力はきちんととらえていた。
(あいつの目を狙ったはずなんだけど、どうして……?)
「まあ、いいじゃない。治癒魔法を唱えるのが苦手なだけじゃなくて、彼は僕たちとの会話も苦手なんじゃないのかな?
だって、彼は、僕らみたいなSSランクとは違って、最底辺のFランクなんだからさ?」
口元に手を当て、クスクスと嘲笑うようにそう言っているのは、小柄な男と同じくらいの背丈の、魔導士のマークだ。
「ガタガタ言ってないで、さっさと報酬もらいに行こうぜ。やることはやったんだから、いいじゃねえかよ。その役立たずの取り分は俺らで分ければよ。」
見るからに脳筋な、ガタイのよい戦士のガルドがみんなに言った。身長はジルとさほど変わらないが、筋肉量の違いで、ジルよりも大きく見える。彼の筋肉は見せかけではなく、「使える」筋肉なのだ。だからかえってたちが悪い、ともいえる。
「あ、あっ、あの…何もしてないわけではなくて、あの、その。荷物も運びましたしっ。えっと……」
目を合わせただけでまた何かイチャモンをつけられるのではないか、とビビりまくって顔を伏せたまま、必死に皆に自分の存在意義を伝えようとするデシャル。
クスクス嘲笑っていたマークが、手に持っていた杖で、血まみれのデシャルの服の上から、みぞおちのあたりをグリグリと押しはじめた。
「たかだか、荷物運びをしたっていうだけで、最低ランクのお前が、SS級の僕らと同じ取り分をもらえるとでも思っているのかい?」
「そこ、いてぇんだよ……」
一瞬、マークと目を合わせたデシャルは、口をモゴモゴさせ、そうつぶやいた。
「なんだ、てめえ! 俺らの言うことに文句あんのかよ!?」
マークに続いてガルドが、デシャルの両肩をつかんでその体を前後に揺さぶる。
小柄なデシャルは、されるがままに揺れるしかない。
ただ、ほんの一瞬、デシャルの目の奥に、怪しい光が灯ったのに気づいたガルドは、心のなかでつぶやいた。
(なんだ、今の目は……?)
メンバーたちの間に流れるおかしな空気を察知したのか、先ほどまでメンバーをはやし立てていた周りの客たちは、素知らぬ顔で酒盛りを続けていた。
彼らの知らぬ存ぜぬの態度を目にしたデシャルは、いつものことだ、と分かってはいるが、大きなため息を一つ、ついた。
それがまた、4人のメンバーの怒りを増幅させることは、ある意味承知のうえで。




