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Ep4: 第1クエスト『マッドボアを討伐せよ』

上京してきたブレンとライラは、所属予定の能力者ギルド『韋駄天』のギルドマスターのニグネルと隊員のドーラに出会い、ギルド本部へ案内される。

そこで同期の新人3人と顔合わせし、翌日に凶暴な魔猪40体の討伐という初任務があることを告げられた。

その後、負傷していたブレンは医療室へ連れて行かれるが、覗き見していたライラはアレクがブレンに銃口を向ける場面を目撃する。

咄嗟にブレンを突き飛ばして弾丸を回避させ、アレクへの警戒を高めていた。








「この人たち…敵だ。」



「ちょ、待って待って!」



ドーラが慌てて両手を広げた。



「落ち着いて!アレクさんは治療しようとしてただけなんだよ!」



「嘘言わないで!!拳銃でブレンのこと撃ち抜こうとしたくせに!!」



「だから違くて!


アレクさんのアビリティ、怪我を治せるんだよ!


銃で撃つのはそのためであって、別に殺そうとしてたわけじゃないから!」



ドーラの必死の弁明で、一瞬だけ冷静さを取り戻してライラはアレクの方の様子を伺った。


すると、微笑みながら手の中の銃をライラに見せている。


「いや〜、驚かせてすまない!


これは俺のアビリティ、『ユニオンスローガン』だ。


本来は撃った箇所の身体能力を強化する能力なんだが、その応用でちょっとした怪我なら治癒することが出来るんだ。


とはいえ、普通に見れば銃殺しようとしてるように見えるよな。


攻撃するつもりは一切ないから安心して欲しい。」


「…じゃあ、本当に治療を…?」


「もちろん!」


そうすると、なだめるようにブレンがライラの腕をポンポンと叩いた。


ライラがゆっくりとブレンを見ると、突き飛ばされた勢いで机にぶつけた頭を抑えながら、苦笑いを浮かべていた。


「はは、早とちりだったみたいだな」


「…ごめん。私咄嗟のことで…」


「ううん、助けようとしてくれてありがとな。


流石ライラ、頼りになるぜ。へへへ。」


「でも、余計な怪我させちゃった…。頭痛む?」


「へーきへーき!全然大丈夫だって。」


「…嘘つき、さっきから痛そうに押さえてるじゃない。」


「まぁ…ちょっとだけな。


それよりライラ、重い。」


「な…!」


ライラは床に押し倒す形でブレンに乗っかっており、重いと言われてブレンの腹をポカポカと軽く殴りつけた。


ドーラはその様子を少々悪い顔をしながら眺めている。


「イチャイチャしちゃってまぁ〜。


ちなみにそっちにベッドもあるよ?


使っちゃう?使っちゃう!?」


「つ、使いません!!!」


ライラは顔を真っ赤にして飛び起きた。

アレクは倒れていたブレンの手を取って起き上がらせ、丁寧に椅子に座らせる。


「それじゃ、改めてだな。」


アレクはブレンの前に立ち、今度は銃を見えるように提示した。


「こいつで怪我したところを撃って治療する。


少しチクっとするが、すぐ楽になるからな。」


「はい、よろしくお願いします!」


(アレクさん、楽になるだとマジ殺しちゃうみたいになっちゃうよ…)


「ハハハ!


もう目閉じなくても大丈夫だぞ!アビリティのことバラしてしまったしな!


それじゃ、ほい!」


銃口がブレンの額に向けられる。今度はライラも、その場で静かに見守っていた。


乾いた発射音が鳴り、弾丸がブレンの額に触れた瞬間、温かい光が広がっていく。


頭のズキズキした痛みがすっと消えていった。



「すごい…。」


「ふふ〜、でしょでしょ。」


同じように右腕にも銃弾が当たると、じんじんしていた痛みが消え、動かすと滑らかに動く。


軽くジャブを振ってみるが、痛みによる違和感などは一切感じなかった。


「すっげぇ、全然痛くねぇ!ありがとうございます!」


「ハハハ、そいつは良かった!」


「あの…アレクさん。」


「ん?」


「…さっきはその…本当にすみませんでした。

ドーラ先輩にも、大きな声で怒鳴っちゃって…ごめんなさい。」


ライラはドーラを見て謝った後、アレクの方に深々と頭を下げた。


少し間を空けて、ドーラはライラの肩をゆっくり持ち上げて体を起こすと、アレクの方を見るように目配せをする。


アレクは優しい表情で、申し訳なさそうにしているライラに微笑みかけていた。


「ライラ。


咄嗟に仲間を庇った君の判断は素晴らしい。


実際の任務でもお互いを守り合うことは重要だからな。


ギルドの仕事をやってると、危険な目や理不尽な目に遭うことも珍しくない。


だからこそ、いざという時は仲間同士で支え合うことが大事だ。迷いなく仲間を庇えるその優しさを、大切にな。」


「…はい!」


ライラの返事に頷いた後、治療を終えたアレクは銃をしまって立ち上がった。


「2人とも!明日の任務も、他のメンバーと協力して頑張ってくれ!」


「「はい!」」


「うむ!帰り道、気をつけてな。」


そして、アレクの言葉を思い返しながら帰路へついた。


「いや〜、さっきのアレクさんの言葉響いたよな。『韋駄天』、おっちゃんが勧めてくれただけあって良いギルドだぜ。」


「そうだね!


今日は同期の子たちとの初めての仕事だし、仲良く出来たらいいな。」










そして翌日。

2人が会議室に入ると、テルマとラセンが真反対の席に座って剣幕で睨み合っていた。


シノは真ん中の1つ後ろに座っており、ビクビクしながら肩身狭そうにしている。


「えぇ…っとぉ…。お、おはよー…。」


「ライラちゃん!おはよう!


おぉ…今日の髪型もよく似合っているね!」


「あはは、ありがとう〜…」


「チッ…」


ライラが挨拶をすると、ラセンは険しい顔から急に上機嫌になり、満面の笑みで返事をする。

一方テルマはそんなラセンの態度が気に入らないのか、そっぽを向いて机に足を叩きつけるように置いた。


「ヒッ…!」


「わ、私なんか怒らせちゃったかな?」


「放っておきたまえよ。あんなの気にするだけ時間の無駄だ。」


「んだと?」


「なんだい?」


「おいおい…」


「お、みんな揃ってるな!」


一触即発の雰囲気の中、見計らったようなタイミングでアレクが会議室に入ってきた。


「お疲れ様です!」


「…っす」


そして、大柄なアレクの後ろから小さく可愛らしい耳がぴょこぴょこと覗いていた。

尻尾をご機嫌良く振り、その少女は勢いよく前に躍り出た。


「ニャッホー!2人ともお疲れ様!」


「「ユミ先輩!?」」


現れたのは、ブレンとライラと共に『インベイダー』の襲撃に巻き込まれ、大怪我を負って入院しているはずのユミだった。


脇腹に砲弾を掠めて大量出血していたが、それを忘れさせるほど生き生きとしている。


「そうか、ブレンとライラはもう会っていたものな!


3人にも紹介しよう!我がギルドの運び屋、ユミ・ナナシキだ!」


「よろしくね!ラセンにシノ、ご機嫌斜めそうなのがテルマかな?


あたしギルドの色んな人を現場に『送る』から、君たちとも関わることは多いと思うわ。


バンバン頼っちゃっていいからね!」


(((耳すっごいぴょこぴょこしてる…可愛い)))


無い胸を張って盛大に先輩風を吹かせているユミだったが、アレクという巨漢と並んでいるせいか威張っている女児にしか見えなかった。


「あとユミ先輩、下のドーラ先輩一体…?」


ユミの足元を見ると、ドーラが号泣しながら腰にしがみついていた。


「ユ〜〜〜〜〜ミィィ〜〜〜〜〜〜!!

治っで良がっだぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!」


「もう分かったから!いい加減離れニャさいって〜!おーもーいー!」


「そうだ、あんな大怪我してたのに大丈夫なんですか?」


「うちの顧問医師は腕良いからな!1日あればこんなもんだ!


それじゃ挨拶も済んだし、早速行くか。ユミ、頼む。」


「ラジャ!」


ユミが会議室の入口に手を向けると、その先に虹色の扉が現れた。

錠前のダイヤルに位置情報を入力すると、ファンファーレのような音が鳴って扉が輝く。


「繋がったよ!はいはい、入った入った!」
















虹色の扉を抜けた先には、都市部の喧騒が嘘のように静まり返った森の入口が広がっていた。


『テサーリア大森林』

リサーラの西側に広がる仮想世界最大の森林地帯。旧世界のアマゾンと同等の広さがあると言われており、未開拓地が半数以上を占めている危険地帯でもある。


ブレンたちが送られた地域は開拓済みの小さな村の近くであったが、青々とした木々が視界いっぱいに広がり、遠くからは鳥の鳴き声が聞こえてくる。


山育ちのブレンとライラにとっては懐かしく感じるはずだが、異様な気配が周囲に漂っていた。


辺りを見渡すと、緩やかな丘の麓に大きな道が出来ていた。地面には大きな足跡が無数に広がっており、抉り踏み潰された木々が散乱している。


(もし人が住んでるところを通ってたら…考えたくもないな。)


ブレンたちに一気に緊張が張り詰める。


「この時期はマッドボアの繁殖期でな。


毎年被害が出ているんだが、今回のはかなり規模がデカい。まだ人的被害が出ていないのが信じられん程だ。


早速始めよう。装備を支給してから作戦開始とする。一応チームで動いてもらうから、リーダーを決めといてくれ!」


「リーダーかぁ。やりたい人いる?」


ドーラからナイフと拳銃を受け取りながらブレンが問いかけると、食い気味にラセンが反応した。


「それならば僕に任せておきたまえ!

この麗しのラセン・ファンデンベルクが、卓越した采配で皆を勝利へ誘おうじゃないか☆」


「はぁ?ふざけんな!なんでスカしたエルフの言うこと聞かなきゃならねぇんだよ。」


受け取った武器を叩きつけんばかりに、地を這うような声で吐き捨てたのはテルマだった。鬼人族特有の鋭い瞳が、不快感を露わにラセンを射抜く。


「また君か…ワガママも大概にしたまえよ、ここは託児所じゃないんだ。


森での任務は優れた索敵能力を持つ天人族に従った方が効率的だと思うけど?」


「俺より弱ぇ奴に指図されるのは一番虫酸が走るんだよ。


その薄ら寒いポーズ、次やったらその指へし折るぞ。」


「……あぁ、君とは本当に話すだけ時間の無駄だな。


アレクさん、こんなやつギルドに入れる価値あるんですか?」


ラセンの額に青筋が浮かぶ。普段の余裕が剥がれ落ち、声のトーンが一段低くなった。


「あ、あの… 喧嘩はダメでござるよぉ……!」


間に割って入ったのは、ガタガタと震えながら木刀を抱きしめたシノだった。眼鏡の奥の瞳は涙目になっている。


「シノちゃん、怖がらせてすまないね。


でも、こんな輪を乱すような輩がいたら任務にならない。1人の勝手な行動がチーム全員を危険に晒すことだってある。


足手まといは予め排除しておいた方が効率的だ。」


「上等だスカシ野郎…!」


「ひぅ……! あ、あの、テルマ殿、ラセン殿も……メンバー内で喧嘩してる場合じゃ……!」


シノが恐る恐るテルマの袖を引く。だが、逆上したテルマはその手を無造作に振り払った。


「うるせぇ! 弱ぇ奴は黙ってろ!!」


「っ……!」


袖を引いていたシノの腕を掴みあげ、強引に引き剥がした。それを見ていたライラも目に余ったのか、テルマに注意する。


「ちょっと!止めようとしてくれてる女の子に手を出すのは違うでしょ!

仲良くしなさいよ!」


「…あ?女、お前まで俺に説教かよ。どいつもこいつも……!」


一触即発の火花が散り、もはや「教育係」のアレクですら苦笑いするしかないほどの険悪な空気が充満していた。


「まぁまぁ、せっかくチームで動いていいってことなんだから協力しようぜ。


ラセンなら標的を見つけるのも早いだろうし、今回の任務のリーダーにピッタリじゃんか!


頼んだぜ、リーダー。」


「え、あ、あぁ。」


「てめぇなに勝手に-」


「それによ、そんな仕切られるのが嫌なら、結果出して上の立場になりゃいい。


実績ないやつが何言おうとただの戯言だ。

それに、仲間割れしてる余裕もなさそうだぜ。」


ブモォォォォォォォォォォォォォ…!!!!


ブレンが話し終えるのと同時に響いてきたのは、大地を揺らすような地鳴りと、獣たちの狂気的な咆哮だった。


人間には音のトーンから相手の危険度を察知する能力が備わっており、低い音を「脅威」と認識する。


憎たらしい相手への怒りは、自信を害しうる脅威への警戒心へと切り替わる。


「…まぁいい。


そのマッドボアとかいう豚どもを全部ぶち殺して、誰も逆らえねぇようにしてやるよ。


覚悟しとけ、クソども。」


「おう、よろしくな!」


「出来るだけ仲良くするんだぞ。

それでは任務開始だ!頑張れよ!」


「最悪骨は拾ったげるから思いっきりやってきなー!」


「ドーラ、あんまり激励になってニャイから。みんな、くれぐれも気をつけなさいよ!」


「はい!そんじゃ行ってきます!」


アレク達と別れた5人は、マッドボアの通り道から魔猪の足跡を追っていく。


道中は特に会話もなく、険悪な雰囲気のまま20分ほど過ぎた。声が聞こえた方向に真っ直ぐ向かったはずだが、酷い有様になっている山道が続くばかりである。


先程聞こえた鳴き声もしなくなり、辺りは不気味なほど静まっている。


「……おい、いつまで歩かせるつもりだ耳長。散々イキっといてまだ見つけらんねぇのか。」


静寂を破ったのは、苛立ちを隠そうともしないテルマの声だった。前を歩くブレンやライラにまで伝わるほどの威圧感がある。


木の上から周囲の気配を探っていたラセンは、位置関係もあるが見下した態度で返答する。


「いきがっているのはどっちなんだか……君が馬鹿面で歩いている間に見つけたよ。


8時の方向、距離は200mくらいかな。」


ラセンが伝えた瞬間に、全員が茂みに隠れて息を殺す。


音に集中していると、ゆっくりと、しかし巨大な足跡が束になって聞こえてきた。

わずかだが、水が流れる音も混じっている。


少し先に巨大な黒い物体が群がっているのが見えた。マッドボアの群れである。


「水分補給でもしてるんでござろうか…?」


「そんなとこだろうな…リーダー、どうする?」


「そうだね…まずは-」


「あばよ、カス共。」


ラセンが言い終わらないうちに、テルマが茂みから飛び出してマッドボアの群れに突撃していく。


「ちょ、え、テルマ殿…!」


「…はぁ〜……。

呆れて言葉も出ないね。もういい。せいぜいいい囮にさせてもらおう。」


「ラセン君まで何言ってるのよ…!

チームで動いてもらうってアレクさんが言ってたでしょ、何とか連携を-」


「ライラちゃん。すまないが、彼が他人と協力して何か成せるとは到底思えない。


何が気に入らないのか知らないが、無意味に突っかかってチームの輪を乱して、挙句に考えなしに敵に突っ込んでいくような奴だ。


仮にギルドに入れたとしてもトラブルの火種にしかならないだろう。今のうちに消しておいた方が今後のためさ。


中途半端な連携は全滅に繋がりかねないし、あんなチンピラ1人の犠牲で周りの村が助かるなら安いものだ。


安心してくれ、無駄死にはさせない。


ブレンって言ったっけ?レディ2人を守っていてくれ。僕が全て終わらせる。」


そう言うと、木の上を伝ってマッドボアの群れに向かっていった。


ライラは溜め息をつき、ブレンに目配せをする。


「もう〜!結局こうなるのかぁ。

ねえブレン、これホントに大丈夫?イノシシ倒すとかそれ以前の問題でしょ。」


「うーん。なぁシノ、昨日俺らが会議室出た後なんかなかった?」


「じ、実は…」


チームがバラバラのまま始まってしまった初任務。彼らはマッドボアを打ち倒すことが出来るのか。





次回

マッドボアとの大激戦。イノシシ舐めずに殴って砕け。

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