第九十八話 本格始動
メーディン様の案内の元、五階にある対策本部にやってきた私は、オーウェン様と一緒に他の人達が集まるのを待っていた。
それから二十分程で、多くの医療関係者の人が部屋に集まってくれた。
「みなさん、お集まりいただいてありがとうございます。私は薬師アトレという店を経営している、エリンと申します。みなさんと協力するべく、こうして馳せ参じました」
「挨拶はいらん。呼び出した要件を言え」
「アタクシたちも、暇じゃありませんのよ!」
随分と態度が体格が大きい男性と、イライラしているのか、唇を強く噛んでいる美しい女性に一瞬怯んでしまったが、私は何とか話を続ける。
「私が作った薬は、完治とまではいきませんが、患者の容体を良くする効果があります」
「な、なにい!?」
「こんな小娘に可能なんですの!? 信じられませんわ!」
こ、小娘って……流石に初対面の人が相手の時は、もう少しだけいい表現があると思うのだけど……。
「ただ、この作り方は特殊なもので……これから話す内容を、今後絶対に公言しないと約束してください。そうじゃないと、私はここにいられなくなります」
「よくわかりませんが、私は彼女を支持します」
「ふんっ、まあメーディンがそう言うなら、ワシもとりあえず了承してやろう」
「仕方ありませんわね。治す目途が立つ可能性があるなら、いくらでも聞いてさしあげますわ!」
「ありがとうございます」
先程の二人以外の人達全員からも、公言しない約束をしてもらえた。
口約束程度に、どれほど効果があるのかはわからないが……とりあえず、話せる環境にはなったはずだ。
「まず単刀直入にお伝えすると、この薬は私しか作れません。その理由ですが……私が聖女だからです」
「せ、聖女ですって!?」
「はい。私の聖女の力を使った薬なので、他の方が同じ様に作っても、効果がかなり変わってしまいます。そこで、お願いがあります」
私は荷物に入っていた薬を全て出すと、テーブルの上に並べて見せた。
「ここに来る前に、薬を作りました。ですが、これでは足りる気配がありませんし、この薬で症状を抑えられますが、治すことは出来ません。ですので皆さんの協力が必要なんです」
「我々は一体何を?」
「私と彼……オーウェンが、症状を抑える薬と、病気を治す薬の製作だけに集中します。なので、みなさんには手分けをして、素材を集める人、患者の容体の確認と報告、および薬の投与や非常事態に対応などをしてもらいたいんです」
こうすれば、しっかり役割分担が出来て無駄が無いだろう。この状況では、一秒の無駄が、致命的になりかねないだろうからね。
「私は賛成です。患者の命を一つでも救うには、全員の力を合わせる必要があります!」
「あまり信用できないし、貴様のような若輩者の下につくのは癪だが、今は状況が状況だ。いいだろう、私も協力しよう」
「っ……し、仕方ありませんわね。皆で協力して、事態を収束させますわよ!」
最初は私に対してあまり良くない態度を取っていた二人だったが、多くの人を助けたいという想いは同じの様だった。他の人も同様で、次々と了承してくれた。
よかった、みんな協力してくれて……! 沢山の人達が協力すれば、病気なんかに負けはしない!
「……まさか、こんな所で聖女……それも、アタクシの前任に出会えるなんて……思いがけない場所でカーティスに恩が売れるし、復讐も出来ますわ……ふふふ、頃合いを見て行動いたしましょう……うふふふ……アタクシの薬師人生を台無しにしたあなたは、絶対に許しませんわ……!」
****
薬を作り始めてから一週間後。病院の一室を借りた私は、ほとんど休憩無しで、症状を抑える薬を沢山の作りながら、治すための薬の製作を続けていた。
未だに石化病を治す薬は作れていないけど、何個も薬を作ってきた中で得た仮説を元に、少しずつではあるけど、効果が高い薬を作れるようになってきたの。
「エリン、薬草を切り終わったぞ」
「ありがとうございます」
「……そろそろ休憩して食事にしたらどうだ? 今日は何も口にしていないだろう?」
「え、そんなこと……」
……そうね、言われてみれば日付が変わってから何も口にしていないし、眠ってもいないわね。もうそろそろお昼だし、少し休憩してもいいかもしれない。
「わかりました。五分ほど休憩します」
「それは休憩と言わないだろう」
「で、でも今は非常事態ですし……城にいた頃は、これくらいの仕事量は当たり前でしたし」
「いくら経験しているからといって、無理をして倒れたらそれこそ大変なことになるだろう?」
それはそうかもしれないけど……いや、いつも私のことを見てきたオーウェン様が言うのだから、素直にしたがった方が良いだろう。
そう判断した私は、素直に頷いてみせた。
「それじゃあ、食事の準備をしてくるから、少し休憩していてくれ」
「いいんですか?」
「もちろんだ。俺だって役に立ちたいからな。それじゃあ、また後で」
「あっ……」
私は無意識に、部屋を出て行こうとするオーウェン様の裾を軽くつまんでしまった。
わ、私ってば何をしているの? これじゃあオーウェン様がごはんの準備に行けないというのに……私の意志に反して、指に力が入り続けてしまう。
「どうかしたのか?」
「い、いえ……自分でもよくわからないんですけど、咄嗟に手が出てしまって……」
「……そうか」
オーウェン様は私の方を向くと、私の顎をクイっと持ち上げる。そして、そのまま唇を奪われた。
「んっ……んむっ……ぷはぁ」
「大丈夫、すぐに戻ってくるから。だからゆっくり待っていてくれ。できるか?」
「は、はい……」
軽く触れるだけの優しいキスだったとはいえ、不意打ちに近いキスは、疲れた私にはあまりにも刺激が強すぎた。
その結果、私はオーウェン様が部屋を出て行った後も、その場でボーっと突っ立って、ほわぁ……と間抜けな声を出すことしか出来なかった。
「失礼します……エリンさん、どうしてそんな所に立っているのですか?」
「ほわぁ……」
「エリンさん!」
「ひゃい!?」
突然大声で呼ばれて我に返ると、そこにはメーディン様が心配そうな顔で立っていた。
や、やだ……今の私ってば、絶対に人に見せられないような顔をしていた……! 恥ずかしすぎて、お嫁にいけない……!
「ボーっとしてましたけど、大丈夫ですか? もうずっと休まれてないみたいですし……」
「い、いえ! 大丈夫です! あはは……それで、どうかしましたか?」
「定時連絡をしに来ました。エリンさんの薬のおかげで、重症化や亡くなる人の数は減少傾向にありますが、完治したという報告は上がっていません」
「そうですか……」
「患者もどんどん増えていっていますし、最近は暴動や略奪も激増しており、それによる怪我人も増えています。そちらの方は、我々でもある程度は対処できますが、このままでは……」
メーディン様は、そこまで言って言葉を詰まらせた。
彼の言いたいことはわかる。このままでは、私の薬の供給が追い付かないうえに、怪我人まで増えてしまい、どんどんと犠牲者が出てしまうと言いたいのだろう。
「怪我人は皆さんにお任せますので、薬は任せてください!」
「わかりました。そうだ、こちらのデータが、私達が石化病に類似した病気、および治療薬を調べたものがまとまっています。何かのご参考になれば幸いです」
「わぁ、ありがとうございます。とっても見やすい……!」
あくまで石化病に似ている病気やその薬のまとめだから、石化病の直接的な治療には利用できないけど、こういうところからヒントを得られる可能性はある。薬の製作の合間に確認させてもらおう。
「あ、私の方からもこれを。今まで石化病の薬を作ってきた中で得た仮説と、作り方をまとめたものです。これがあれば、聖女の力がない分効果は落ちると思いますが、似たような効果は得られると思います!」
「おお、ありがとうございます! これは皆に共有させてもらいます! では、私は持ち場に戻ります。あまり無理はされないでくださいね」
「えっ?」
「顔色、よろしくありませんよ。私達に何か言ってくださればやりますので、少しは頼ってくださいね。では」
メーディン様は、ぺこりと頭を下げてから部屋を出て行った。
やっぱりメーディン様にもわかっちゃうくらい、休まなさすぎて表情に出ちゃってるのね……。
……たかが一週間程度で、こんなに疲労が溜まっちゃうなんて情けない。もっともっと頑張らないと……沢山の人が犠牲になってしまう。
そんなの、絶対にさせてたまるもんですか。絶対に私がなんとかするんだ!
「お母さん、私は絶対にやってみせるよ。だから……私を見守っててね……あっ」
意気込んで立ち上がろうとすると、急に頭を強く揺らされたような、強い眩暈に襲われた。
な、なんだろう今の……初めての経験だったわ。それに、少し体が熱いような……ま、まさか……。
「……私も、発症した……?」
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