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【完結】婚約者の王子に浮気されていた聖女です。王子の罪を告発したら婚約破棄をされたので、外で薬師として自由に生きます  作者: ゆうき
最終章 多くの民を救うために

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第九十七話 悲惨な現状

「こ、これは……」


 王都に到着した私達の前に広がっていたのは、酷い光景だった。


 かつてあった活気は完全に失われ、あちこちの建物は壊れている。ゴミも散乱して異臭が酷いし、力なく倒れている人も大勢いる。


 それと、なんていうか……この町全体が異様な雰囲気に包まれている。胸の奥を燃やすような感情……これは、怒り? ちがう、怒りなんて生易しいものじゃない……ドス黒いなにかといっても差し支えないくらいの……激しい感情を感じる。


「今は気にしてる場合じゃなわよね……と、とにかく倒れている人を見て回りましょう!」


 私は一番近くで倒れていた女性の元に向かう。女性は体中を赤くしながら、息を荒くして横たわっていた。


「うぅ……かゆい……苦しい……」

「しっかりしてください!」

「あ、あなたは……?」

「私は薬師です! あなた達を助けるために来ました! 薬を作ってきたので、飲んでください!」


 たくさん持ってきた薬の一部を彼女に手渡すと、少し苦しそうではあったけど、何とか飲んでくれた。それから、かゆみに効く塗り薬も塗ってあげると、少しだけ表情が和らいだ。


「あ、ありがとうございます……少し楽になりました……」

「それはなにより。話す余裕があればでいいんですが、この町で一体何があったか教えてもらえませんか?」

「はい……あなた達も、流行している病はご存じですよね?」


 女性の質問に、小さく頷いて見せると、女性は更に言葉を続ける。


「病がどんどん広がり、国民は恐怖に支配されました。なのに、国は私達になにもしないどころか、国から逃げられなくしました。噂では、優秀な医療関係者は、軒並み城に連れていかれたそうです。結果……国民は恐怖し、暴動が起きました。それに便乗して略奪をする人間も現れて……この町は、あっという間に荒れ果ててしまいました」


 なんて酷いことを……こういう時こそ、手を取り合って問題を解決しないといけないのに、どうしてそんな悪いことが出来るの!?


「そうでしたか……しかし、本来なら民を守らなければいけない王家がその体たらくとは、なんて情けない」

「カーティス様なら、やりかねないですからね……」


 私はカーティス様の真の顔を知っている。だから、自分のために民なんてどうでもいいと言わんばかりの行動を聞いても、あまり驚かない。


 とは言っても、国王様になったんだから、もっと国民のために行動をしてほしいと思うけどね。


「事情はわかりました。ここではしっかりとして治療は出来なさそうですね……この近くに病院はありますか?」

「中央広場の近くに、大きな病院があります……」


 中央広場ね。そこなら場所はわかる。アンデルクにいる時は、軟禁状態だったとはいえ、王都の地理くらいはわかるように勉強していたからね。


「わかりました。では、俺が運びましょう。さあ、背中に乗ってください」

「え、でも……」

「遠慮は不要です。困っている人を助けるのは、当然ですから」


 ……こういう時にサラッとカッコいいことを言えるオーウェン様……あまりにもさすがすぎる。無意識にカッコいいと言ってしまうところだったわ……危ない危ない。


「あ、あそこが中央広場じゃありませんか?」

「そのようだな。なにやらテントがたくさん張られているな……」

「中央広場は……私の様に家を失った人が集まる避難所になっているんです……」


 大きな噴水と、近くに建つ時計塔が良く目立っている広場には、オーウェン様の言う通り、多くのテントが張られていた。


 これだけ多くのテントが必要なほど、家を失ってしまった人がいるのね……それほど暴動は激しいものだったということね……。


「病院は、どの建物なんですか?」

「あ、あれです……時計塔の隣に立っている、大きな建物……」


 女性の指差す方には、大きな建物が建っていた。あれだけ大きければ、多くの患者を診ることが出来そうだわ。


「む……? あなた方は?」

「私達は、クロルーツェの薬屋アトレというものです。私は代表のアトレ、こちらはオーウェンです。今回の騒動を聞いてやってきました」

「おお、それはありがたい! 私は医療団のメンバーである、メーディンと申します。我々医療団だけでは、全く手が足りていなくて!」


 私達は、ボサボサな髪と無精髭、そして白衣が特徴的な男性と、握手を交わした。


 お、思った以上に元気一杯な方なのね。見た目的に、もっと大人しいか、暗い人だと思ってた……見た目で判断しちゃいけないわね。反省。


「オーウェンです。メーディン殿、よろしくお願いします」

「お願いします! 一応確認なのですが、承認証はありますか?」

「ギルドでもらったものなら」

「……はい、確かに。ようこそ、我らが医療団へ! 歓迎しますよ!」


 メーディンと名乗った彼に案内されて、病室の一つに入らせてもらった。そこには、何人もの人達が石化病に苦しむ姿があった。


「とりあえず、その女性をここに寝かせましょう」

「わかりました。ゆっくりおろしますよ」

「はい……」


 オーウェン様は、ここまでおんぶしてきた女性をベッドに寝かした。


 ここに来るまでに、症状が悪化しているということはないみたいだけど、改善しているわけでもない。このまま放っておいたら、危険なことに変わりはない。


「石化病の情報は何かありますか?」

「石化病? この病は、石化病というのですか?」

「あ、いえ……私達が勝手にそう呼んでいるだけです」

「そうでしたか。では私も、そう呼ばせていただきます。石化病に関しては、わからないことだらけで……これが患者を調べた結果をまとめた資料です」


 彼から受け取った資料には、患者のことについて書かれていた。


 事前に聞いていた通り、症状は全身のかゆみに高熱、肌の硬質化みたいだ。その他にも、人によっては頭痛やめまいといった風邪に似た症状に加えて、幻覚まで見えると書いてある。


 患者の体も既に調べているみたいだが、これといった原因は何も発見できず、病原体の類も見つかっていないみたいだ。


 原因も無くて、細菌も見つかっていないとなると、一体どうやってこの病気を発症するのだろうか?


「今も患者は増え続けています。医療団の人間も、何人も病に倒れてしまいました」

「発症しないように、何か対策はされていたのですか?」

「はい、もちろん我々にも、健康な人達にもしています。ですが、それを嘲笑うように、病気は広がり続けています」


 ……対策しているのに発症するということは、風邪のような未知の菌が原因じゃないということね。


「我々の知識を持ち合わせて、色々な薬を試しているのですが、ほとんど成果が得られず……ただ黙って患者が苦しむ姿を見せられているのが現状です」

「あの、私も来る前に薬を作ってきたので、試してみても良いですか? 先程の女性にも飲んでもらっていて、少しだけ良くなったので……」

「なんと!? ぜ、ぜひお願いします!」

「はいっ!」


 私は病室の中で一番症状が重そうな、小さな男の子の前に立った。


 男の子はかなりの高熱で、肌も全体の三割くらいは石化してしまっている。このままだと、石化よりも高熱の方で耐えきれなくなってしまうだろう。


「オーウェン様、この子の体を少し起こしてくれますか?」

「お安い御用だ」


 意識が朦朧としている男の子に、実家で作ってきた飲み薬を飲ませ、全身に塗り薬をしっかりと塗り込むと、先程までつらそうにしていた男の子の症状が、少しだけ落ち着いた。


「な、なんと……何をしても効果が出なかったのに、わずかとはいえ効果があった!? そ、その薬……少しでいいから分けてもらえないか!? それと、作り方を教えてもらいたい!」

「それは構わないんですけど……」


 教えたいのは山々だが、私の薬には聖女の力が宿っている以上、同じ様に作っても、効果はかなり変わってくるだろう。


 ……どうしよう、素直に話したら……悪いことに利用する人が出てくるかもしれないし、私のことを知った城の人達に、連れていかれてしまうかもしれない。そうしたら、ここの人達の治療が出来ない。


「オーウェン様は、ちゃんと話した方が良いと思いますか?」

「俺としては、話した方がいい。その方が、医療団の方々に信用してもらえるだろうからな」

「でも、もし情報が洩れたら……」

「大丈夫だ。なにがあっても、俺が君を守るから」


 私の手を力強く握りながら、オーウェン様は頷いてみせた。


 オーウェン様の言っていることは、重々理解している。変に薬と力のことを隠したら、彼らに私のことを怪しまれてしまうかもしれないもの。


 ……多くの民の命がかかっているんだから……背に腹は代えられないわね。


「あの、私達にも色々事情があって……これから話すことを誰にも公言しないと約束してもらえるなら、皆さんに薬のことをお話します」

「それで患者たちが治るなら、喜んで! 医療団の仲間にも、ちゃんとそのように伝えます!」

「ありがとうございます」

「では、この建物の五階にある、医療本部に向かいましょう! 私が案内します!」


 メーディン様に連れられて、私は病室を後にした。


 ……城を出てから、今まで自分の力のことを話すのは、信用できると思った人だけだった。でも、今回はあまり知らない人に話さなければならない。


 それが、思った以上に緊張してしまい……体が小刻みに震えていた。


 別に緊張する必要なんて無いのかもしれないが、基本的に聖女の力は表には出さないようにしていたから……どうしても、ね……。


「大丈夫だ。俺がついている」

「オーウェン様……」

「もし悪い連中が君を利用しようとも、城の連中が連れ戻しに来ても、俺が必ず守る」

「ありがとうございます……!」


 いつでも頼もしく、そして優しいオーウェン様に、胸がキュンとなって、思わずキスしたくなってしまったが、なんとか衝動を食い止めた。


 ただでさえ、病院でいい雰囲気になっているのもおかしいのに、そこでキスなんてしたら、メーディン様に確実に怒られちゃうわ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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