私のおおかみ王子様は…
子どもの姿では危険なため、ウィル様は狼になって王立公園の森に訪れていた。
そして、七歳のある日、ウィル様は森にひとりで佇む女の子を見つけた。
人間の姿に戻るべきか考えていると、女の子はウィル様に気がつき、駆け寄ってきたという。
『まあ!すてきなおおかみさん!なでてもいい?』
『ぐるるる』
『いいの?ありがとう!』
『がうーっ』
『ん?こわくないかって?おおかみなんてこわくないよ!わたし、おおかみだーいすき!』
『わうわう』
『ふふふ。あなたはけなみがふさふさね。わたしね、スーザンっていうの。あなたは?』
『ぐるー』
『ぐるちゃん?えへへ、いいなまえだね。』
『がうっ!』
『ああ、わたしそろそろもどらなきゃ。またね!ぐるちゃん!』
たったそれだけの邂逅だったけれど、狼を怖がらずにいてくれた女の子のことをウィル様はずっと心の支えにしていた。
そして、その女の子のことをずっと探していたのだという。
ずっと見つけられずにいたが、四ヶ月ほど前、ついに見つけることができた。
それが、私。
兄のお祝いで王都に来ていたのを、たまたま見られていたらしい。
ウィル様はすぐに私のことを調べ、男爵家の令嬢だと分かると婚約の手続きをとったという。
「王立公園で出会った時から、スーザンは私の唯一で、私はスーザン一筋です。」
そう締め括ったウィル様は、愛おしそうに私の肩を抱いた。
一方の私は、三歳のときの記憶に想いを馳せる。
たしかに、私はあのとき叔母の結婚式のために王都にきて、建物ばかりの王都に怖くなり、自然を求めて公園の森に逃げ込んだ。
そこで、黒…いや、濃紺の毛並みの動物と会ったような気がする。記憶は曖昧だ。
ただ、私の何気ない言葉がウィル様をこれまで支えてきたのだと思うと、胸が温かくなった。
「だからね、スーザンを悲しませるような奴らは許せないんだ。」
そう言ったウィル様は一瞬で狼になると、こっそり逃げ出そうとしているフェニクシュ侯爵と一気に距離を詰めた。
『ぐるるるるるっ』
「うわあ!!!」
ウィル様の威嚇に侯爵は腰を抜かしてその場にへたりこんだ。
「王妃と侯爵を捕えよ。」
国王陛下の冷たい声が謁見の間に響き、王家を十二年間苦しめた事件は幕を閉じた。
◇ ◆ ◇ ◆
それから先はあっという間だった。
王妃と侯爵の悪事は国全体へ大々的に公表され、失意のレオナルド殿下は王太子位を辞退、公爵となった。
それと同時にウィル様が王太子になることが発表され、これまでの噂も嘘だと広まり、ウィル様は悲劇の王子として国民から大人気となった。
ついでに私も、王子の心を救った心優しき乙女だとか何とかで、主に女性から憧れの目を向けられている。
そして、本日私とウィル様は、予定通りに結婚式を挙げる。
純白のドレスに身を包み、私はバージンロードを歩いている。
結婚式の会場は、溢れんばかりの人で、さらに会場の外にも人が集まっていた。
その誰もが皆、とてもいい笑顔でこちらを見つめている。
ああ、そう言えば、二番目のお兄様は王妃や侯爵を捕えるための証拠集めに貢献したとかで、近衛兵への昇進が決まった。
お父様も子爵位への陞爵を打診されたが、身に余る光栄だと言って一番目のお兄様に爵位を譲って隠居してしまった。とてもお父様らしい。
「スー、本当に美しいな。」
バージンロードの先で待っていたウィル様が目を細めて微笑んだ。
ウィル様も白いタキシードがとてもお似合いである。
「ありがとうございます、ウィル様。嬉しいです。」
私たちの様子を、お父様が最前列で見ながら号泣している。
はじめは嬉しくもない婚約だったけれど、今は本当に幸せだ。
これで、少しは親孝行ができただろうか。
「絶対に幸せにすると約束する。愛しているよ。」
透き通るような青空の下、アメジストの瞳は蕩けるように甘くて。
私のおおかみ王子は全く怖くない。とても優しくて素敵な王子様です。
終
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