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第8話

「ここが体育館よ、一階はトレーニング室とかがあって二階は普通に体育館」


 体育館の重い扉を開けて案内する。

 聡里を先頭に靴を脱いで体育館内に入り、部活をしている生徒の邪魔にならないよう、端を三人で歩く。


「勝手に入っちゃっていいのかな」


 今は朝練で使っている最中であり、主にバレー部とバスケ部が使用している。

 朝練中は入館禁止、などというルールは存在しないため、勝手に入ろうが怒る人はいない。


「聡里、今日は朝練なかったんだな」

「男バスが使う日だからね、女子は今日朝練ないの」


 体育館の中に入る必要があったのか、聡里はどんどん奥に入っていく。


「おい聡里、態々入らなくてもいいんじゃないのか」

「折角だしちょっと使っていこうかと思ってね」


 そう言うと男バスの一人に話をしに行った。

 残された二人は部活動を行う生徒の掛け声を聞きながら、聡里が戻ってくるのを待つ。


「皆、すごいね。この学校は強豪校なの?」

「いや、普通だよ。運動部は何も有名じゃないな。あ、でも茶道部が有名かな。詳しくは知らないけど、県外にも色々行ってるみたいだし」

「へえ、そうなんだ。校風とかは調べたんだけど、部活は調べなかったから…」

「意外。城之内さん真面目そうだからこの学校の色んなこと調べてそうなのに」

「うふふ、部活は入る予定なかったから。いいかな、と思って」


幸雄は意外な一面を見つけた。

興味ないことは調べないんだなと、親近感を覚えた。

男バスの生徒と話が終わったようで、聡里が速足で二人の元へ駆けよった。


「朱里ちゃん、バスケはできる?」

「ルールは曖昧だけど、ボールをとって投げるくらいなら...」


できる?と聞かれて「できる」と答える人間はバスケ部だったかよほどバスケをしたことがある人間になる。

 「できない」という人間は運動音痴かバスケをあまりやったことのない人だ。

 できるできないの基準は人それぞれであり、聡里の言う「できる人」は自分と同じくらいの技術を持つ人間を指す。朱里の「できる」と聡里の「できる」の認識の違いは大きい。

 朱里もそう思い、「とって投げる」レベルだと言ったのだろう。


「じゃあ、あたしとやってみない?」

「えっ、でも今部活で使ってるよ」

「大丈夫、話はつけてきたから。さ、コートに入って」


 聡里はそれだけ言ってさっさとコートに行った。

 背を向ける聡里に幸雄は声を投げる。


「いやいやいや、待てって。何言ってんだよ聡里」

「ちょっとしたゲームよ。バスケの良さも知ってほしいし、時間はあるし、暇つぶしになるかと思って」

「ふうん。城之内さん、バスケやったことあるの?」

「体育で少しあったけど、体が弱かったからよく休んでて…」


 朱里の言葉に幸雄はそうだろうなと思った。


「朱里ちゃん、早く」


 聡里はコートから急かすように呼ぶ。

 朱里はチラッと不安そうに幸雄を見た後、聡里の元へ駆けて行った。


「シュートを五回ずつ、多く入った方が勝ちね」


 朱里を嫌いなことは聞いているが、しかしこんなことをしてどうするというのだ。

 幸雄は、はらはらとコートの外から様子をうかがう。


「じゃあ、あたしからやるわね」


 シュパッシュパッと聡里はシュートが綺麗に決まっていく。

 朱里はなかなかシュートが決まらない。

 幸雄には聡里が決まっていくので焦っているようにも見えた。


「城之内さんー!焦らずゆっくりだよ!」


 ついつい応援の声を上げてしまう。

 聡里にはきつく睨まれたが。お前はバスケ部だし勝負をふっかけた側だから応援なんてしてやらねえ、と目で訴える。

 朱里を応援すると彼女は真剣な顔で頷いた。

 バスケはよく分からないが、聡里はバスケ部なだけあって素人目で見てもフォームが綺麗で、朱里は至って普通に見える。運動音痴な投げ方でもないし、手慣れた感じでもない。


 最後、朱里は五本目になった。

 聡里は五本とも入れたが、朱里はまだ一本も成功していない。


 もう勝負は見えているのだが、これは勝負というより遊びのようだし、周囲の生徒も部活動をしながら微笑ましく見学している。

 ボールは綺麗な弧を描き、網を掠める音をたてて床に落ちた。


「......入った?」


 入った瞬間、男バスの皆が拍手をし、歓声をあげた。ノリの良い彼等は朱里にハイタッチを求めていた。


「城之内さん!」


 男バスとのハイタッチが終わると幸雄も走って、両手を差し出した。

 満面の笑顔で小さな手を合わせてくれた。


「っしゃ!」

「白井くん、さっき応援してくれてありがとう」

「い、いいって!城之内さん体育休みがちだったって言ってたし、ちょっと心配したんだよ」


 心配する自分に酔う。

 そんな姿を見て朱里は微笑んで「ありがとう」と言った。



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