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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
1章 うららちゃんはゲームをやらない
26/75

戦って、戦って、そしてよく寝る (1)

イザボー・ボフェティが神殿に勤めて、もう10年以上が経つ。


その日は5年に一度、灯台の修理が入る予定の前日だった。


この街にはモンスター避けの『柵』が未だに設置されていない。


灯台の修理の時にモンスターが暴れだすのは毎回のこと。


街にモンスターに襲われないよう、多くの者が集められ、灯台の修理中に街を守ることが恒例となっていた。

戦い前の大騒ぎ、それが5年に一度の祭りの正体だ。


柵が設置されていなかったのには理由がある。


灯台があるこの街は、他の街にある柵の影響や灯台の素材となる聖石の影響で、もともと大地の魔力が不安定だった。

……そんな場所で柵の設置というのは、とてつもなく難しい作業になる。

それをできるだけの有力な魔法使いが最近居なかったのだ。


ところが今回、国から遣わされた賢者が、やっと柵を設置してくれるという。

ただ、柵を設置するときに強力な『吹きだまり』が発生するらしい。

近隣の街や村にも軍隊や他の賢者が遣わされ、この街にはたくさんの腕に覚えのある者がかき集められた。


イザボー・ボフェティもその一人だ。

彼女は戦えない。しかし医療の知識と技術があった。


戦う者、

魔力を扱える者、

治療専用員、

杭を打つ者。

かき集められた人員は4つのグループに分けられた。


その日は薄曇り。暑くも寒くもなく、前日は風が強かったが、その風も今は収まっている。

美しい青年が、台の上に立って計画を簡単に説明した。

彼が賢者、レリオ。

随分若いとイザボーは感じた。

いや、若い分体力があるのかもしれない。


「……これには魔力を大量に消費する。魔力を扱えるものは俺に魔力の供給をお願いします」


そして、正午の鐘を合図に作戦が始まった。


地面に描かれた紋様に魔力を扱えるものたちが並ぶ。魔法陣の辺りが白く発光した。


杭打ち係は横に並び、一斉に杭を地面に立て始める。

彼らは杭を打ち込み次第、魔力供給組、戦闘班に参加することになっている。


「モンスターが現れたぞ!」


ボウッ、ボウッ、と大量のモンスターが姿を見せ始め、誰からともなく雄叫びをあげて武器を持ったものたちが突っ込んでいく。


賢者が片手を天に掲げる。

杭の外側の大地が薄く光り、モンスターはそこに集められた。


なんて強力な魔法なんだろう、とイザボーは包帯を握りしめた。


イザボーは治療要員である。

今は見守るしかない。

賢者の額に汗が浮かんでいるのが見えた。


××××××××


うららから預かっている、純白の鞘に軽く触れた。


『柵』はモンスターを排除する。

そのしわ寄せになってできたのが『吹きだまり』だ。

新しく柵を設置すれば、水面に小石を投げ込んだ時のようにモンスター達の波長が荒れる。


柵を隣の村と繋げて荒れまくった魔気を鎮める。


言葉で言うだけなら、なんて簡単なんだろう。


特別なインクで描かれた魔法陣の上に立って、辺り一帯に薄く広く俺の魔力を広げていく。

勿論こんな広範囲、いくらなんでも俺だけの魔力じゃ足りない。


この魔法陣を使って、協力してくれてる魔法使い達の魔力を吸い上げ、俺の魔力として使わせてもらってる。


うららは、どこだろう。

うららは戦闘班に参加した。この人数だ。目で探す事は難しい。

……ブレンダンもいるんだ。あいつを信じるしかない。


俺次第で戦闘は短く終わるんだ。


××××××××


イザボーの所に、怪我人が運ばれはじめた。

治癒魔法が使えるものは、賢者の支援に回ってしまっている。

ここでは消毒や止血、痛み止めなどしか出来ない。それでも、先代の『巫女』の能力が宿る聖水を一樽持ってくる事が出来たので、大いに治療ははかどっている。


『異世界より渡りし巫女』は不思議な存在で、非常に聖水を好む。

そして、巫女が触れた聖水は、巫女以外の存在に対して強力に作用するのだ。


「ねぇ、怪我もしてないのに抜けちゃって平気なの?」


「今のうちに休まないと。……後で休むのは難しいだろうからな」


一瞬手が空いた時、そんな会話が天幕の外から聞こえてきた。

イザボーはつい、そちらを見てしまう。

それから戦場を確認した。


たくさんの戦士が戦っている。

皆が必死に戦っている中で堂々と休憩を取る。

あのふたりの行動は、イザボーにはサボっているとしか思えなかった。

視線を戻せば、女の子が聖水が入った樽のうちのひとつを覗き込んでいるところだった。


……別に、飲み水ではないし、あれは巫女様の力が宿る聖水ではないので、彼女をとがめる必要などないのだが。真面目にやれと言いたい。


「ボフェティさん、こっち来てください!」


酷い怪我人が来たようで、イザボーは彼女に声をかけることができなかった。


××××××××


どのくらい、時間がたったんだろう。

チラッと横目で見るかぎり、杭はとっくに打ち終わってる。

まだ、終わらないの?


見上げるくらいにおっきな亀は顔が何故か馬。

馬で亀なのに、犬歯がとがってて、素早く動いてアタシに噛みついてこようとする。


懐に飛び込んで、甲羅の無いところを狙って切りつける。

いったん離れたあと、高くたかくジャンプして、空から甲羅の弱いところにアタシの剣、ミナモを突き立てた。


パシャァ……ン!


亀っぽいのが消えた。


「ハナチラシミナモは、あんなに固い甲羅にも刺さるのか?」


ブレンダンも何かのモンスターを倒したあとみたいだった。

モンスターが消えて数十秒は、その場所に次のモンスターは出てこない。

その間に休憩することを戦いながら覚えた。


もちろん、モンスターがこっちに移動してくることはあるけど、そんなことは少ない。

ブレンダンは言いながら剣を横に振って、狼型のモンスターも消してた。


「今、レリオの魔力が広がってるから」


アタシは柵の向こう、銀色の模様の中心にいるレリオを指差した。


「そのせいかな?お陰でアタシもパワーアップしてる気がする」


でも、いくらレリオの魔力がこんなにあるといってもさすがに疲れてきた。

アタシにも擦り傷くらいは出来ちゃってる。


ブレンダンを見たら、腕を血がつたってた。

最初はうじゃうじゃいた戦闘班も、今は20人ちょっとしかいない。治療施設もあったから、戻れる人はもう戻って来ててもいいはずなのに。

あー、でもさっき見た聖水、レリオの造ったやつよりも純度が低かった。

あんなんじゃ、治療に時間かかるだろうし体力だってちょっとしか回復しないだろうなぁ……。


アタシは腰のポーチを確認した。聖水が入った小瓶はあとみっつ入ってる。ふたつ、取り出した。

1個をブレンダンに渡す。


「これ飲んでみて、元気が出るよ!」


今、アタシたちがへばってる場合じゃなさそうなんだから。



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