縁と怒るきっかけと
ブレンダンに一緒に泳ごうってさそわれた。けどそんな気分になれるわけない。
だって、浜辺に降りたらまたあのでっかいクラゲみたいなのがいるかもしれないじゃん?
さっきは剣を持ってるレリオがいたから良かったけどさ……。
えっと……すらいむ、だっけ?
あれ、なんか、怖いんだよね。
レリオは灯台の修復に行っちゃったし。
ブレンダンはまだちょっとお酒臭いし。
そんなわけで、お祭り会場をひとりでぶらぶらしてる。
朝から夜中までお祭り騒ぎって、みんないつ寝てるんだろう。
お祭りだから、そんなもんなのかな。
昼間のお祭りは夜の時とはちょっと違って見えた。
手品をしてる人を見たり、踊ってる人を見たり、遠くの街から来たみたいな人が変わった模様の小物なんかを売ってたりするのを見ながら、やっぱりスモック被ってるのは変だよ、と思う。
「あれ、うららさんじゃないですか!?」
人の流れの向こうから野太い声がした。
「ジェフロワさん!?」
前に馬車に乗っけてくれたフランツさんのところで護衛をしてた、ジェフロワさんとリュリュさんがいた。
「どうしたんですか?こんなところで会うなんてびっくりです!」
確か、フランツさん達は神殿のお祭りに行ったんじゃなかったんだっけ。
「俺達、この村が故郷なんです。神殿の祭りが終わったからみんなでこっちに来たんですよ」
ジェフロワさんに敬語を使われるのはすごく違和感がある。
前に馬車に乗ってた時はそうじゃなかった気がするんだけどな……?
もともとあんまり話をしたことがないから、よく覚えてないだけかも。
「レリオは、どうしてます?一緒に旅するのはやめたんですか?」
ジェフロワさんとリュリュさんは、休憩中だったんだって。
二人ともその辺で買ったらしい焼き鳥みたいな料理と、ダーと、昨日レリオたちが飲んでたお酒を持ってた。
飲食スペースなのか、お祭りの休憩所なのか、誰でも座って大丈夫っぽい感じの、テーブルと椅子が用意してあるところ。そこに空いてる場所がちょうどあって、ふたりはそこに座った。
「レリオは今は灯台の修理のお仕事をしてるの。
もう一人、一緒に旅してる人もいるんだけど……その人が二日酔いみたいだから」
せっかくだからフランツさんの馬車、探してみようかな。
クラリッサに会ってみたいし。
「あっちで店を開いてるから、行けばすぐわかりますよ」
「ありがとう。行ってみるね!」
手を振って別れたあと、ジェフロワさんが言ってた方向に向かってみる。
人の波をかき分けて、しばらくしたら懐かしいテントが見えた。
「こんにちは!」
テントは屋根だけのタイプで、その下に折り畳み式の台がいくつか置いてある。
こっちがわに壺とかお皿みたいな陶器類があって、つやつやと柔らかく光を反射してた。
もし、ここで売ってるお皿に何か載っけたらスッゴく美味しそうに見える事をアタシは知ってる。なんでこの世界の食事はダーばっかりなのかな、もったいない!
あっちに並べてある、ネックレスみたいな装飾品は星空みたいにきらきらウィンクしてきてるみたいだ。女の子なら思わず手に取りたくなる素敵なものばっかりが揃ってる。
ちょっとした回復薬や武器、防具も扱ってる。
買ったら頼れる仲間になってくれること間違いなしの、値段のわりにはしっかりしてて丈夫で扱いやすいものばっかりだ。
メイン商品の布はテントの奥から手前まで、コロコロと筒状に巻いてあって、カラフルな水玉模様みたいで、見てるとウキウキさせてくれる。
フランツさんが売ってる布でなら、あの変なお祭りのスモックでだってお城のパーティーに行けちゃうかもしれない!
……とにかく、フランツさんが旅の途中で仕入れるものは安くても質が良いものばっかりだし、陳列もお客さんがつい、手に取って買いたくなっちゃうようになってるってこと。
「うららちゃん!!」
たたたっと走ってきたクラリッサに、ぎゅっと抱きつかれた。
「まぁ!久しぶりね、元気そうで何より」
優しく微笑むシモーナさんに手を引かれて、テント奥のもっと奥においてあったテーブルにアタシは案内された。
「久しぶりだね、レリオさんとはまだ一緒に旅をしてるの?」
アルマンさんがいつも通りの胡散臭い笑顔でお茶を出してくれた。えっ!幸運のブレスレットが今ならお買い得?でもお高いんでしょう……?て言いたくなった。こらえる。ガマン、ガマン。
「はい、でも今レリオはお仕事中だから」
良い香りのお茶。なんだかほっとする。
旅の事とかの話をしていたらお客さんがやって来た。
フランツさんは商会か何かの用事で出掛けているみたい。アルマンさんがお客さんの応対を
するために出ていった。
アタシとクラリッサが話に盛り上がっていたら、お客さんがなんだか騒ぎだした。
「どうしたんですか?」
シモーナさんに小さな声で聞いてみた。
「酔っぱらいがね、信じられないような安い値段であの大剣を買わせろって言い出したの」
……これだから、酔っぱらいは。
酔っぱらいはなにかよくわからないことをどなりだした。護衛のユークさんがそこにやってきて、仲裁しようとしてくれる……けど、酔っぱらいが暴れだした。
置いてあった壺が、大きな音をたてて割れる。
お皿も。
酔っぱらいの仲間が何かの液体を商品の布にかけた。
ヒドい!
「こんな安っぽいガラクタ!」
酔っぱらいがまた、どなる。
ユークさんや他の護衛の人たちともみ合いになった。
どなり声、商品の壊れる音、通りすがりの人たちのけしかける声、クラリッサの泣き声。
飛んできた置物を、アタシは反射的に剣ではじいた。
それを見た酔っぱらいが、アタシの剣を見て笑う。
「なんだぁ?それぁ……装飾品かぁ?弱っちそうな剣ダナァっ!?」
頭が真っ白になった。
フランツさんたちが、どうやって買い付けしているのか。
安く商品を提供するために、どんな苦労をしてきたのか。
一緒に旅して見てたから、ほんのちょっとだけだけならアタシにもわかる。
それに、レリオの剣をバカにするなんて!
壊した商品、弁償してもらおうじゃない!?
××××××××
「どうしたの、なにやってるの?」
強い力で手首をつかまれた。
気づけば、酔っぱらいや、酔っぱらいの仲間たちは全員紐でぐるぐる縛られていて、最初に騒ぎだした酔っぱらいはアタシの足元で伸びてた。
いつ現れたんだろう?
レリオが不思議そうな、困ったみたいな顔をして、アタシの手首をつかんでた。
「何があったの?」
アタシは空いている方の手で、フランツさんのテントを示した。
「フランツさんのお店が荒らされたの」
すこしの間、レリオはお店を見てた。
それから縛られてる人と、たった今アタシが踏んづけてる人、最後にまたアタシ。
「……うん。それで?」
××××××××
灯台っていうのは、王城や、王都の敷石と同じ素材で造られてる。
つまり、それだけで魔物避けの効果がある。
造るのには素材と、時間と、それなりの腕があればそれなりに造れたりするし、壊すのだってそれなりの破壊力があれば難しくはない。
何についても言える事だけど、作ることと壊すことは難しくない。
難しいのは直すこと。
だから、この俺がこうして働いてるんだけどさ……。
灯台を修理するとき、魔物避けの効果が極端に弱まるのが問題だったりする。だから俺は、灯台修理のこの季節に、この街にも新しく柵を設置することにした。
その前段階として、海にも柵の代わりとなる魔除けの聖石を置こうと、祭りの客で混んでいる通りを神殿や灯台、街の役人たちと歩いていた。
向こうの人混みからうららの声が聞こえた気がする。
ケンカだ、と言う声は違う方向から。
気になったから近寄ってみたら、うららが何人かの男達をのしている最中だった。
まさか殺したりはしないだろうけど……。
気を失った男に高く跳ねたうららの膝がめり込んだ。
更にうららが殴り付けようとしている手首を、慌てて俺は掴んだ。
「どうしたの、なにやってるの?」
俺を見上げるうららの大きな目がぱちぱちとまばたきした。
「何があったの?」
俺の問いにうららは空いている方の手で、テントを示すことで答えた。
「フランツさんのお店が荒らされたの」
フランツさんたちがこの街に居たらしい。
うららひとりで1、2、3……5人をのしたのか、フランツさんの護衛もやったのか……。
俺が半殺しにあったときもこうだったのかな、と思う。
容赦ない。半端ない。
だけどうららを怒らせたヤツが悪い。
「うん。それで?」
何がきっかけでうららはここまでキレたんだ?
俺の手の中には細い手首。
この小柄な身体のどこにこんな力があるんだろう。
筋肉がガッチリって訳じゃないし、めちゃくちゃ華奢って訳でもない。
むしろちょっとだけむちっとしてる。
大きな目をじっと見つめると、うららはあからさまに俺から目を反らした。
「『ハナチラシミナモ』を……レリオが作った剣をバカにされたのが頭にきて……それで……」
ナニソレ。
俺は片手で自分の顔を覆った。
だって、にやけそうだったんだよ……仕方ないじゃないか。
かわいいんだけど。
なんで俺の為に怒ったのかだなんて、きっと『命令』のせいだろうけどさ。
今!あからさまに!目を反らしたそれ!!
俺にはわかる。
これは女の子が恥ずかしがってる時にする仕草!




