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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
1章 うららちゃんはゲームをやらない
24/75

スライム

「クサッ!」


宿屋さんに帰って、借りている部屋のドアを開けた。

その瞬間にむわっ!とした嫌な匂いが襲ってくる。

ベッドのひとつで、ブレンダンがイビキをかいて寝てた。


これだから、酔っぱらいは。


王子様らしくしたらいいのに、どう見てもこれじゃただのオジサン。

換気のために少し窓を開けて、ブレンダンのお腹に毛布をかけ直した。


無精髭が伸びてる……。


帰り道、レリオはあのお酒をもう1杯飲んでた。

お酒ってそんなにおいしいの?


アタシはシャワーを浴びたかった。

部屋に置いてあった寝間着を取る。レリオのぶん渡したげよう。ついでに手に取った。


「うぁーーーーー……っ!」


うなるみたいな声がしたから、ふりかえってみた。……レリオが大きなあくびをしながら、上半身の服を脱ごうとしてるところだった。


「ちょっ!?待ってよ!」


アタシ、まだここにいるんですけど!?


寝間着をなげつけて、あわてて部屋を出た。


「これだから、酔っぱらいは……もう」


あんなにお酒臭い部屋で、酔っぱらいたちと一晩を過ごしたくない!

空気だけでアタシまで酔っぱらっちゃいそう。着替え終ったかな?くらいまで待ってから、部屋をのぞいてみる。

……レリオは上半身裸(下半身は見てない)で布団に入って寝ちゃってた。

ぐちゃぐちゃに落ちてる服をみる限り、パンツ一枚……って感じかな……。


別に、体育の授業前に教室で着替えてる男子のパンツなら見たことあるもん。見えちゃったって感じだけど。誰が自分から見るかっての。


毛布をきれいにかけて、お行儀よく寝てるあたりはなんかレリオっぽい。落ちてた服を簡単に畳んで、洗濯してもらう用のカゴに入れておく。


もう、これだから、酔っぱらいは!


お父さんが、ひどく酔ったときに水をガブガブ飲んでたのを思い出した。ふたりの枕近くの台に水を置いておく。


全然眠たくないし、アタシは食堂に行くことにしよう。あそこなら外じゃないし。変な人もそんなに居ないだろうし。

それでシャワーは明日浴びる。うん。そうしよう。


××××××××


目が覚めてみると、近くに水が用意されてあった。俺はゆっくり起き上がってからそれを飲む。


たっぷりと身体にまだ残る酒が、俺の頭を攻撃してくる。

回復魔法を自分にかけて二日酔いを消した。

ヤバっ!


いつもの癖で服を脱いでいた事に気がついた。

下着は身に付けている。……からギリギリ許される……のか?


あわてて部屋を見回す。

ブレンダンはぐちゃぐちゃのベッドで大人しく寝ていた。

うららのベッドは空いている。窓を開けたのはうららだろう。


痛む頭に手を当てて、夕べの記憶をたどってみる。


……うん、大丈夫だ。


酔って浜辺でうららにキスしようとして失敗したことも、そのあと部屋に戻って服を脱いですぐに寝た事もハッキリ覚えてる。なんか泣きたくなってきた。


これで万が一、酔った勢いでうららを押し倒そうとしたとか……そんな恐ろしい事故があったら俺の人生が終わる気がする。

物理的に。


うららはシャワーを浴びているのか?

それにしちゃ時間がかかってるな。


意識を凝らしてうららに渡してある指輪を探す……宿屋にはいるけど、部屋には居ない。

シャワーを浴びて完全に酒臭さを流してから、うららを探しに部屋を出た。


時間的にはまだ早朝。

廊下にもロビーにも人影はなかった。


食堂に入ると、外のテラスにうららの後ろ姿が見えた。

白いマントにくるまって、海を眺めているみたいだった。

扉に手をかけるたら、細い、ほそい、ゆったりとした歌声が聞こえた。

普段うららが口ずさんでいる曲じゃない。

もっと静かで、伸びやかで、悲しい歌に聞こえた。


白んでいた空がだんだん染まってきて、食堂の向こう、調理室からも物音が聞こえてきた頃。


ずっと椅子に座り、テーブルに肘をついて頬杖をつく体勢でいたうららがすっ、と立ち上がった。



そらのあお うみのあお

ほしのしずく つきはかがやく

きのうのなみだは うみにすてた

かおをあげよう あるいていこう

もういちど あといちど

ぼくははばたいていける

あしたに あしたへ


初めて聞く歌だった。

なんだか、ものすごく綺麗な立ち姿に思えて、俺は声をかけるのをためらってしまった。

普段は見られない、大人びた表情のうららをもう少し見ていたかったんだ。


「新曲、きっとたくさん出てるだろうなぁ……戻ったらアオイに音痴って馬鹿にされたらどうしよう。ヒトカラ行って練習しないと……」


うららはそんなことを言って、すとんと座った。

まだ俺がいる事には気がついてないらしい。

ドアを少し開けたまま、突っ立って聞き耳を立ててる俺、カッコ悪すぎる。気付かれる前に声をかけよう。


「うららちゃん、おはよう。ここに居たんだね」


声をかける。

俺を振り返ったうららの頬を朝日が照らしていた。


「レリオ、おはよう。二日酔いとかは大丈夫?」


いつもの可愛らしい笑顔だった。


「少しだけあったけど、魔法があるから」


少し冷えた空気が澄んでいる。

俺はうららのすぐ近くの椅子に片手をかけて立ったまま、座っているうららの顔を見下ろした。


うん、二日酔いは少しだけなんてものじゃなかった。ちょっとくらいは格好つけさせてください。


「そっか、じゃあブレンダン、今日はどうなのかな……。一日寝たままかな……」


うららは仔犬がするみたいに、見上げてきた。きゅるんとしたまっすぐな目だ。ていうかそれ、首は辛くないのか。


「これから朝の鍛練?」


「うん」


「じゃ、着替えてくる。ブレンダンが洗面所に入ってこないよう見張っててね」


絶対あれ、尻尾着いてるよな?

これで最近は手も繋いでくれないとかさぁ……。夕べ、繋いだか。じゃあなんでキスには失敗したんだ?


はぁ。

絶対にさ、またあの変な命令が、俺の近くにいろとか言ってるだけなんだ。


俺、守られる程弱く無いんだけどな、攻撃魔法はほとんど使えないけど。


××××××××


「この街って柵が無かったでしょ?モンスターは来たりしないの?」


宿のすぐ近くで、人気があんまり無くて、剣を振り回せるくらい広いところ……浜辺に降りてきた。


朝の散歩のつもりなのか、観光客らしい人影がちらほらいる。


「この街には灯台があるだろ」


俺は白い崖を指差した。


「?」


うららは首をかしげる。

灯台がわからない……ってわけじゃないよな、灯台の仕組みがうららの世界とこちらとでは違うのかも知れない。


「灯台から照らされる聖なる光が、モンスターを村に近寄らせないんだ」


海風が今日は強い。

今日はともかく、明日の作業は落ち着いた天気であって欲しい。

びっくりした様子のうららが、片手で髪を押さえていた。


「海のある街や村はみんなそうなの?海の中に柵は作れないでしょ」


「海から上がってくるモンスターは少ないから……ほら、ああいうのばっかりなんだよ」


俺は浜辺でプルプル震えてるスライムを指差す。

たまに、落ちてるんだ。


「……ひっ!?」


うららの口から悲鳴が漏れる。

……いや、スライムだよ?子供が木の枝で叩いても退治できるモンスターだ。うららは怯えたように半歩下がる。

スライムはブルブル震えて、ぐんぐんと巨大化した。

凄い勢いでこちらに近寄ってくる。


「いいいいやぁぁぁぁぁ!?」


うららがなかなか情けない悲鳴をあげた。

剣……ハナチラシミナモを抜いて、へっぴり腰で振り回す。


まぁ、当たればこんなスライム、ハナチラシミナモならすぐに退治できるからへっぴり腰については……


ばいーん!


え?

スライムが剣を弾いた……?うららの攻撃が全く効いてない。

うららは俺をチラリと見てから逃げ出した。


「びにゃぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁ!」


おいかけっこが始める。


なんというか……緊張感の全く感じられない悲鳴だ……。

向こうにいる観光客も、きっとうららがふざけて遊んでいるとしか思ってないだろう。


あ、

俺も眺めてる場合じゃない。


俺はスライムに向かって駆け出した。

軽く剣を振る。


パシャァ……ン!!


スライムは、いつも通り簡単に消えた。


散々走り回って息が切れたらしいうららが、砂の上でへたりこむ。


「あり、がと……」


「大丈夫?」


うららは心底怯えた顔をしてた。


「なんなの、あのぶよぶよ……」


俺が差し出した手に掴まって、立ち上がる。

うららの視線の先には、さっきのスライムが落としていった素材が落ちていた。

それを拾うと少し嫌そうな顔をしたけど、これが単なる素材でしかない事を俺は知ってる。


「スライムだよ」


かなり上質な魔鉱石だ。灯台の修繕に使わせてもらおう。


「すらいむ?」


「うん。水場近くとかによくいる、弱いモンスター」

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