第3話:Sランク魔石を「道端で拾った」と報告して定時で帰るつもりですが、一番弟子と元魔王軍幹部(骨)のせいで言い訳が完全に詰んでいます
いつもお読みいただきありがとうございます! 第3話の更新です。
【ここまでのあらすじ(アルトの苦難の歴史)】
前世で過労死したトラウマから「異世界では絶対に定時で帰って寝る」と固く誓った主人公・アルト。
しかし、神様からもらったステータス『耐久力MAX』とハズレスキル『確率反転』のせいで、平らな道で転ぶ最弱冒険者でありながら、Aランク魔物を投げた「おにぎり」で瞬殺してしまうというバグを引き起こします。
その結果、たまたま助けたポンコツエリート騎士・セレスティアに「実力を隠した真の英雄」と激しく勘違いされ、一番弟子として付きまとわれる羽目に。さらに彼女の暴走により、元Sランクのギルドマスターにまで勘違いが伝染。強制的にヤバい廃鉱山のアンデッド討伐へ向かわされてしまいました。
第2話では、最深部で待ち受けていたSランク級のボス「リッチ」に対し、一緒にサボるための交渉(お茶会)を試みるも、ポケットに入っていた「肩こり用湿布」を投げたことでスキルが暴発。極大浄化魔法となってリッチを成仏(?)させてしまいます。
しかし、呪いだけが浄化されたリッチは「シロ」という名の可愛いミニ頭蓋骨の精霊となり、「もう働きたくない」という利害が一致したアルトと『定時退社同盟』を結成したのでした。
さて、今回の第3話は「廃鉱山からの帰還編」です。
ボスの特大魔石を持ってギルドへ帰るアルトたち。果たして「道端で拾った」という苦しい言い訳は通用するのでしょうか……?(※しません)
それでは、本編をお楽しみください!
「はぁ……憂鬱だ。このデカい魔石、ギルドでどうやって誤魔化せばいいんだ……」
王都へ続く街道を歩きながら、俺は今日何度目かわからない特大のため息を吐き出した。
俺の後ろでは、満面の笑みを浮かべたセレスティアが、両手で抱えるほど巨大な『リッチの魔石』をまるで国宝か何かのように恭しく掲げて歩いている。すれ違う行商人たちがギョッとして道を譲っていくのが痛いほどわかった。
「……なぁシロ。こういうファンタジー世界の物語ってさ、大体3話目か4話目くらいで『新キャラ』が投入されてテコ入れされるよな」
俺は誰にも聞こえないよう、胸ポケットに潜んでいるミニ頭蓋骨――元魔王軍幹部のシロに小声で話しかけた。
『うむ。メタい話だが、作者もそろそろ主人公とヒロインの掛け合いだけでは文字数が保たないと焦る頃合いだからな。物語の展開を動かすための便利な舞台装置が必要になるのだ』
「だよな。俺としてはこのまま誰にも会わずにフェードアウトして、連載打ち切り(定時退社)という名のハッピーエンドを迎えたいんだけど」
『同感だ。我もポケットの中で一生みかんを食っていたい。だが、悲しきかな、これはいわゆる『なろう系』のテンプレ構造。フラグという名の理不尽な業務命令は、我ら社畜の意志とは無関係に降り注ぐものだ』
俺とシロが、謎のメタ視点で物語の構造に対する愚痴をこぼし合っていた、その時だった。
「さっきから胸元に向かってブツブツ何喋ってんだよ!! ていうか『連載』とか『作者』ってなんだよ!!」
街道の横手から、絵に描いたような見事なツッコミが飛んできた。
ビクッとして振り返ると、そこには白銀の豪奢な鎧に身を包み、腰に聖なるオーラを放つ剣(どう見ても伝説の武器)を提げた、金髪碧眼の超絶イケメンが立っていた。
「うおっ、びっくりした……誰だあんた」
「誰だとは失礼な! 俺はこの国の王より聖剣を授かりし『勇者』、レオンだ! ……って、あれ? お前、騎士団のセレスティアじゃないか!?」
勇者レオン。
王都にその名を轟かせる、正真正銘の『主人公』属性を持った男だ。なぜそんな雲の上の存在が、こんな平坦な街道を歩いているのか。
「おや、レオン様ではありませんか。魔王軍残党の討伐任務からお戻りで?」
「あ、ああ。今帰還したところだけど……お前、なんでそんなEランクの貧弱そうな男の後ろを歩いて……っていうか、その抱えてるバカデカい魔石、なんだそれ!?」
レオンがセレスティアの手元を見て、目玉が飛び出んばかりに驚愕している。
無理もない。Sランク級ボスの魔石など、国の宝物庫にだってそうそうあるものではないのだ。
俺は慌てて両手を振り回し、弁明に入った。
「あ、いや! 違うんです勇者様! これは俺のじゃなくてですね、さっきそこの道端で、たまたま『落ちてた』のを拾っただけで――」
「お聞きくださいレオン様!!」
俺の苦しい言い訳を、セレスティアの元気いっぱいな大声が完全に叩き潰した。
「こちらは私の尊敬するお師匠様、アルト様です! 隠遁してEランク冒険者を装っておられますが、実はこの恐るべきSランクの不死者を、なんと『湿布』と呼ばれる謎の聖布一枚で一撃のもとに浄化してしまわれたのですわ!!」
「はぁ!?」
レオンの端正な顔が、完全に引きつった。
「し、湿布……? 一撃で浄化……? セレスティア、お前頭でも打ったのか? いくらなんでもそんなデタラメ……」
レオンは信じられないという顔で、俺と巨大な魔石を交互に見比べる。
よし、いいぞ勇者。お前は正しい。そのまま「馬鹿馬鹿しい」と笑い飛ばして、俺たちをスルーしてくれ!
『……アルトよ。我の長年の勘が告げている。あ奴の目、どこかで見たことがあるぞ』
(えっ?)
胸ポケットの中でシロがボソッと呟いた直後。
魔石をじっと見つめていたレオンの顔つきが、スッと真剣なものに変わった。
「……いや、待てよ。この特大の魔石……魔王軍幹部クラスの途方もない魔力を秘めているのに、表面には傷一つついていない。激しい戦闘があったなら、必ず魔石にも欠けや傷が生じるはずだ」
ブツブツと呟きながら、レオンが勝手に名推理(迷推理)を展開し始める。
「傷一つつけずに、一撃で急所だけを完全に浄化し去る……そんな神業、王宮の筆頭魔導師ですら不可能だ。それをやってのける実力者が、あえて『道端で拾った』などとあからさまな嘘をついている……?」
ハッ!とレオンが顔を上げ、俺を真っ直ぐに見据えた。
「そうか……! あんた、俺を『試している』んだな!?」
「はい?」
「俺がただの肩書きだけの勇者なのか、それとも『真の実力者の嘘を見抜ける目』を持っているか、試していたんだろう! Eランクを装っているのも、腐敗した王都の貴族どもに利用されないためのカモフラージュ……!」
「…………」
俺は無言で空を見上げた。
どうしてこの異世界の連中は、揃いも揃って勝手に裏の裏(存在しない)を読んで、俺を最強キャラに祭り上げようとするのだろうか。
「素晴らしいですわ、レオン様! さすがは勇者、アルト師匠の深謀遠慮に気づかれるとは!」
「ああ! 危うく俺も騙されるところだった! アルト殿……いや、アルト師匠! 俺はまだまだ未熟な勇者です! どうか俺にも、その『湿布』の極意をご教授願えないでしょうか!!」
バッ!! と街道のド真ん中で、光の勇者が万年Eランクの底辺冒険者(俺)に向かって深々と頭を下げた。
『……ほら見ろアルト。綺麗にフラグを回収したぞ。これが『なろう系』における『強キャラが主人公を崇拝する』という王道展開だ』
「うるさい、黙れ骨。俺は今猛烈に帰りたい」
美少女エリート騎士(一番弟子)に加え、王国最強の勇者(二番弟子・志願)まで引き連れることになってしまった俺。
この常軌を逸した激ヤバパーティでギルドに帰還したらどうなるかなど、想像するだけで胃に穴が開きそうだった。
「……お願いだから、誰か俺を定時で帰らせてくれぇぇぇぇ……っ!!」
夕焼け空に響き渡る俺の悲痛な叫びは、またしても「謙遜する師匠の熱い叫び」と勘違いされ、二人のキラキラした尊敬の眼差しを一身に浴びるだけだったのである…
***
王都の冒険者ギルドの重厚な木扉の前に立った俺は、絶望的な気分で立ち尽くしていた。
右には、巨大なSランクの魔石を抱えてドヤ顔をキメている美少女エリート騎士(一番弟子)。
左には、なぜか俺の荷物(空の水筒など)を恭しく持ってくれている王国最強の勇者(二番弟子)。
そして胸ポケットには、事態を面白がっている元魔王軍幹部の骨が潜んでいる。
「……なぁ。俺がここで一人でこっそり裏口から帰って、二人がギルドに報告するっていう形じゃダメかな?」
「お言葉ですが師匠!」
「なりません、アルト師匠!」
俺のささやかな提案は、二人の見事なステレオ音声によって即座に却下された。
「この歴史的偉業を、ギルドの者たちに正しく伝えるのが弟子の務め! 師匠はただ、そこで堂々としておいでください!」
「そうだ! 俺もこの目で、王都の冒険者たちが『真の英雄』の帰還をどう迎えるのか見届けたい!」
ダメだ。完全に外堀を埋められている。
『アルトよ、諦めろ。これも主人公の税金だ』というシロの念話が脳内に響く中、勇者レオンが勢いよくギルドの扉を開け放った。
「皆の者、刮目せよ! 真なる英雄、アルト師匠の帰還である!!」
ギィィィンッ!! と、レオンの声に合わせて彼が帯びている聖剣が無駄に神々しい光を放つ。
夕方のピークタイムでごった返していたギルド内は、その瞬間、水を打ったように静まり返った。
無理もない。王国最強の勇者が、万年Eランクのサボり魔(俺)の後ろで、まるで従者のように控えているのだから。
「えっ……勇者レオン様……?」
「おい、なんであの万年Eランクの後ろに勇者様と騎士様が……しかも、なんだあのバカデカい魔石は……!?」
冒険者たちがざわめく中、受付嬢のミーシャが震える声で尋ねてきた。
「あ、アルトさん……? その、後ろの勇者様はいったい……そして、その魔石は……」
「いや、これはですね、俺がやったんじゃなくて――」
俺が真実(に近い言い訳)を口にする前に、セレスティアがドンッ!とカウンターに特大の魔石を鎮座させた。
「受付嬢! 報告いたします! 嘆きの廃鉱山の異常発生の元凶は、Sランク指定の不死者の王でした! アルト師匠はこれを、謎の聖布『シップ』の一撃により、文字通り跡形もなく浄化なさいましたわ!」
「エ、エスランクゥゥゥッ!?」
ミーシャが白目を剥いてひっくり返りそうになる。
その騒ぎを聞きつけて、ギルドマスター室から猛スピードでヴァンダルが飛び出してきた。
「Sランクだと!? 馬鹿な、そんな化け物が……ッ!!」
ヴァンダルはカウンターの魔石を見るなり、元Sランク冒険者の鋭い眼光を極限まで見開き、ワナワナと震え出した。
「こ、この途方もない魔力残滓……間違いない。正真正銘、魔王軍幹部クラスの魔石だ。だが、これほどの魔力を秘めながら、魔石に傷一つついていないだと!? 一体どれほどの魔力で包み込めば、こんな神業が……!」
「お分かりになりますか、ギルドマスター!」
レオンが一歩前に出て、誇らしげに胸を張った。
「俺も最初はこの目を疑いました。しかし、アルト師匠の実力は本物です。あえてEランクの皮を被り、陰からこの国を護る気高き英雄……俺も先ほど、弟子入りを志願したところです!」
「なっ……王国最強の勇者であるお前が、弟子入りだと!?」
ヴァンダルが驚愕の表情で俺を見る。
ギルド内の冒険者たちも「勇者が弟子入り!?」「あのサボり魔が、実はそこまでの化け物だったのか……!」と、完全にパニック状態に陥っていた。
(ちくしょう、レオンの奴が余計なことを言うから、権威付けがカンストしちまったじゃないか!)
俺は胃の辺りを押さえながら、必死に弁明を試みる。
「ち、違います! マスター、誤解です! その『シップ』っていうのは、ただの肩こり用の布で、本当にただの事故で……!」
「肩こり用の……布……?」
ヴァンダルは眉間にシワを寄せ、何やらブツブツと呟き始めた。
「患部に貼るだけで異常を癒やす布……まさか、神話の時代に存在したという伝説の聖遺物『天の聖骸布』のことか!? お前さん、そんな国宝級のアーティファクトを『肩こり用』と称して普段使いしているというのか!?」
『ぶふっ……!』
胸ポケットの中で、シロが盛大に吹き出す振動が伝わってきた。
笑うな骨! こっちは社会的な死(と過労死)の瀬戸際なんだぞ!
「いや、違うんです! 本当に俺が薬草をすり潰して作ったお手製の――」
「すり潰して作った!? つまり、あの伝説のアーティファクトを『自作』したと!? お前さん、錬金術まで神の領域に達しているのか……!!」
「どうしてそうなるんだよぉぉぉっ!!」
俺の悲痛なツッコミは、ギルドを揺るがすほどのどよめきにかき消された。
「マスター!」
レオンが真剣な顔でヴァンダルに告げる。
「アルト師匠は、地位や名誉をひどく嫌っておられます。これほどの偉業を成し遂げながら『ただの事故』と仰るその謙虚さ……! ギルドとしても、師匠の意志(正体を隠すこと)を尊重すべきではないでしょうか!」
おおっ、レオン! お前、たまには良いこと言うじゃないか!
そうだ、その通りだ。だから報酬だけ適当に振り込んで、俺をさっさと帰らせてくれ!
「……ふむ。確かに、勇者の言う通りだな」
ヴァンダルは腕を組み、深く頷いた。
「これほどの規格外の男を、既存のランク枠に当てはめること自体が間違っていたのだ。変にSランクなどに昇格させれば、王族や貴族どもがこぞって面倒事を持ち込むだろう。それはお前さんの本意ではないはずだ」
「はい! 全くその通りです! だから俺はEランクのままで――」
「ゆえに!」
ヴァンダルは俺の言葉を遮り、ギルド全体に響き渡る声で宣言した。
「本日をもって、アルト! お前さんをギルドの歴史上初となる特例……『規格外』に認定し、この王都ギルドの【特別顧問】に任命する!!」
「……はい?」
予想外の単語に、俺の思考が停止した。
「と、特別顧問……? なんですか、それ」
「安心しろ。面倒な定例依頼は受けなくていいし、ギルドへの出勤も自由だ! ただ、王都のギルドが『真の危機』に陥った時だけ、その強大な力を貸してくれればいい。もちろん、特別手当(給料)は弾むぞ!」
「おおおっ! さすがはマスター、粋な計らいだ!」
「アルト師匠! これで貴族に縛られることなく、自由に陰から国を護れますわね!」
レオンとセレスティアが拍手喝采し、ギルドの冒険者たちも「すげえええ!」「特別顧問バンザイ!」と謎の熱狂に包まれている。
……騙されるな。
出勤自由、危機的状況のみ対応、高額報酬。
それは前世のブラック企業で『名ばかり管理職』に押し付けられた、一番最悪な雇用形態(24時間365日オンコール対応・実質的な無限残業)と全く同じじゃないか!
『くくっ……アルトよ。お前、前世でも今世でも、見事に上に都合よく使われる星の下に生まれているのだな』
(笑い事じゃないぞシロ! 俺は絶対にそんな役職受けないからな!)
俺は決死の覚悟で、ギルドマスターに向かって叫んだ。
「お断りします! 顧問なんて絶対やりません! 俺は今日限りで冒険者を辞めて、田舎で農業をやります!!」
言い放ち、俺はギルドの出口に向かって猛ダッシュした。
――そして、すっかり忘れていた。
俺の『確率反転』スキルが、まだオンのままだったということを。
「あ」
ズサァァァァァァァァッ!!
ギルドのド真ん中で、俺の両足はまたしても見事に絡まり、顔面から床へダイブした。
「……見ろ! アルト特別顧問が、あえて自ら地に伏せられたぞ!」
「ギルドの床(底辺)から我々を見守るという、強き意志の表れだ……!」
「一生ついていきます、顧問ぉぉぉぉっ!!」
周囲の熱狂が、遠い別世界での出来事のように聞こえる。
もうどうにでもなれ、と俺は諦めの境地に至っていた。ここで何を言っても、彼らの強固な『勘違いフィルター』によってすべて英雄的行為に変換されてしまうのだから。
ゆっくりと顔を上げた俺は、無感情な声で言った。
「……わかりました。やります。顧問でもなんでもやりますから、今日はもう帰らせてください」
俺の力無い言葉に、ギルドマスターのヴァンダルは感動したように何度も頷いた。
「おお……! その重責、よくぞ引き受けてくれた! まさか、そこまで疲弊するほどの深い思考の海に沈んで、王国の未来を憂いてくれていたとは……!」
「純粋に疲労困憊なだけです」
「よし、ならばこれを! 我がギルドが誇る『特級冒険者用・特別社宅』の鍵だ! 顧問へのささやかな就任祝いとして、自由に使ってくれ!」
ヴァンダルから手渡されたのは、無駄に装飾が施された黄金の鍵だった。
社宅。その響きに、俺の前世の記憶がピクリと反応する。
(社宅……家賃タダってことか。しかも特級ってことは、それなりの広さとふかふかのベッドがある……?)
『アルトよ、騙されるな。会社の用意した家というのは、いつ呼び出されても逃げられないようにするための首輪だぞ』
胸ポケットのシロが的確すぎるツッコミを入れるが、今の俺には「ふかふかのベッド」という魅力に抗う気力は残っていなかった。
「……ありがとうございます。では、俺はこれで」
逃げるようにギルドを後にしようとする俺の背中に、セレスティアとレオンが元気よくついてくる。
「お待ちください師匠! 顧問の護衛は、一番弟子である私の務めですわ!」
「いや、二番弟子の俺に任せてくれ! なにせ勇者だからな、どんな刺客が来ても師匠の睡眠を邪魔させはしない!」
「どっちも来なくていいから! 頼むから俺を一人にしてくれ!」
結局、俺の懇願も虚しく、二人の最強ストーカー(弟子)を引き連れたまま、俺はギルドが用意した特別社宅へと向かうことになった。
案内された場所は、王都の高級住宅街のど真ん中にそびえ立つ、門から玄関まで噴水のある庭を歩かなければならないほどの巨大な豪邸だった。
「……これが、社宅?」
「さすがは王都のギルドですわ! 師匠の偉大なる力にふさわしい、見事な居城ですね!」
セレスティアが目を輝かせているが、俺の感想は違った。
(こんなデカい家、掃除するだけで過労死するわ……!)
重厚な扉を開け、広すぎるエントランスを抜け、俺はフラフラと一番奥にある主賓室へと向かった。
部屋の真ん中には、キングサイズのふかふかのベッドが鎮座している。
「よし……セレスティア、レオン。お前たちは適当に空いてる部屋を使え。俺は寝る。明日の昼まで絶対に起こすなよ。いいな、絶対にだぞ」
「はっ! 承知いたしました、師匠!」
「ゆっくりとお休みください!」
二人がビシッと敬礼するのを尻目に、俺は部屋の鍵をガチャリと閉め、そのままベッドへとダイブした。
ボフッ……。
最高級の羽毛が、俺のボロボロの肉体を優しく包み込む。
「あぁ……天国だ……」
俺が幸せを噛み締めていると、胸ポケットからもぞもぞとミニ頭蓋骨のシロが這い出してきた。
『やれやれ、とんだ一日だったな。まさか数時間前までダンジョンでボスをやっていた我々が、王都の豪邸のベッドで一緒に寝転がることになるとは』
「ほんとだよ。俺なんて、ただサボって寝てたかっただけなのに、なんで特別顧問なんてヤバい役職に就かされてるんだ……」
俺は仰向けのまま、天井の豪華なシャンデリアを見つめた。
「でもまぁ……とりあえず、これでギルドの面倒な依頼を受けなくて済むようになったのはデカいな。給料も出るみたいだし、この豪邸で引きこもって一生スローライフを送れば……」
『甘いぞ、アルト。前世の記憶を思い出せ。名ばかり管理職というのは、部下がやらかした尻拭いをすべて押し付けられる最も過酷なポジションだ』
「やめろ。現実を突きつけるな骨」
シロはふよふよと空中に浮かび上がり、窓枠のところに腰を下ろした。
『それに、お前にはもう一つ大きな問題があるぞ』
「問題?」
『外を見てみろ』
シロに促され、俺は渋々ベッドから起き上がって窓の外、玄関のほうを見下ろした。
そこには、白銀の甲冑を着たセレスティアと、聖なるオーラを放つ勇者レオンが、左右に分かれて直立不動で仁王立ちしていた。
まるで、神殿を守る一対の阿吽の像のように。
「……あいつら、何してんだ?」
『夜通しで警備をするつもりだろう。ちなみにさっき、あの二人の会話を念話で盗み聞きしたのだがな』
「なんだって?」
シロはからかうように骨の顎をカチャカチャと鳴らした。
『「師匠は明日から、陰でどのような壮大な任務にあたられるのだろう」「我々も遅れをとらぬよう、王都中のヤバい魔物や犯罪組織を事前にリストアップして、師匠に討伐を提案しよう!」……と、大変張り切っていたぞ』
「…………」
俺は静かに窓のカーテンを閉めた。
つまりだ。
俺がこの豪邸でサボろうとしても、あの熱血最強ポンコツコンビが、外から勝手に『超危険なクエスト』を拾ってきては、俺のところに「師匠、出番です!」と持ってきやがるということだ。
しかも俺は『特別顧問』。王都の危機と判断されれば、ギルドからも公式に呼び出しを食らう。
「……終わった」
俺はベッドに膝から崩れ落ちた。
定時退社を夢見た男の異世界生活は、有給休暇どころか、24時間営業のトラブルシューティング窓口(しかも対応不可避)へと変貌を遂げてしまったのである。
「神様……俺、前世で何かそんなに悪いことしましたか……?」
『泣くなアルト。とりあえず、残りのみかんでも食うか?』
「食う。めちゃくちゃ食う」
俺と骨は、豪邸のふかふかのベッドの上で、小さなみかんを分け合った。
明日から、この理不尽な世界と最強のストーカー(弟子)たちを相手に、俺の『絶対に働きたくない戦い(サボり)』が本格的に幕を開ける。
負けない。俺は絶対に、定時で帰ってやる……!
固い決意(という名の現実逃避)を胸に、俺は深い眠りへと落ちていくのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
今回は少し趣向を変えて、アルトたちのギルド帰還後のドタバタをお届けする予定ですが、ここで少しキャラクターたちからご挨拶(愚痴)があるようです。
【おまけ・定時退社同盟の放課後】
アルト「……なぁ。今回の前書きと後書き、やたら長くないか? 読むだけで疲れるんだが。文字数を稼ぐのも立派な労働(残業)だぞ」
シロ(骨)『うむ。我もそう思うぞアルトよ。読者の皆様もスクロールする指が疲れてしまうだろう。労災が降りない作業はサクッと終わらせて、早くこたつでみかんを食うべきだ』
セレスティア「お言葉ですが、アルト師匠、シロ殿! 私はこの文字数の多さこそが、師匠の『隠された強大なる魔力』の余波が現実世界(読者の皆様の端末)にまで影響を及ぼしている証拠だと推察いたします!」
アルト「違う。純粋に作者のさじ加減だ」
セレスティア「なんと……! では作者という名の創造神すらも、師匠の偉業を長く語り継ぎたいと願っているのですね! さすがは私の師匠ですわ!」
アルト「もう誰かこいつを止めてくれ……(胃薬を飲む)」
――というわけで、アルトの胃痛は今日も絶好調です。
【読者の皆様へ、大変厚かましいお願い】
もし本作を読んで、
「アルトが不憫すぎて面白い!」
「シロ(骨)が意外と可愛い」
「セレスティアの勘違いをもっと見たい!」
と少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【評価ポイント(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)】を押して応援していただけないでしょうか。
「小説家になろう」では、皆様からのブックマークと評価ポイントの合計がランキングに直結します。アルトは働きたくありませんが、作者は皆様の応援を燃料に、過労死しない程度に毎日バリバリ執筆(労働)いたします!
次回の第4話では、魔王軍幹部を「湿布」で倒してしまったアルトに対する、ギルドマスターと王都上層部のさらなる勘違いが炸裂します。
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