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そのような愚王子、我が家に必要ございません。  作者: 夏笆


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6/6

6、



「新しい国王陛下になって、随分落ち着いたわね」

「うん。グロリアの周りにいた羽虫も、全部完全に除去できたしね」

 学園を卒業して二年。

時間が経っても変わらない、ふたりでのお茶の時間。

 グロリアが清々しく言った言葉に、カーティスが、そちらこそが大事だと頷き答える。

「学園に居るときは、第三王子であるマーカス殿下の威光の方が勝(まさ)って見えたのでしょうけれど。何の才能も後ろ盾も持たない、王太子でもない王子が、学園の卒業後どうなるかまでは、考えていなかったみたいね」

「まあ、いいんじゃないか?最後まで愚王子マーカスに甘かった前国王夫妻が、名ばかりに近しいとはいえ、男爵位を与えたんだから。腰巾着たちだって、何とかなるだろ」

 愚王子マーカスと同じく実子である王太子と第二王子、そして、大臣たちにより退位を迫られた前国王夫妻は、退位の条件として、愚王子マーカスに貴族位を与えることを望んだ。

 結果、愚王子マーカスには一代限りの男爵位が与えられ、住む場所も保障されている。

「でも、領地といっても荒地なうえに小さいし、事業を興すにしたって周りの人たちまで恩恵は」

「それは、グロリアが心配することじゃないよ。それこそ、自業自得だ」

 愚王子マーカスに阿(おもね)って、グロリアを愚弄していた者たちを、イーデン公爵夫妻とカーティス、そしてその一族が許すはずもなく。

 彼らは、その地位や事業や財産を投げ打って、自らの行いを贖(あがな)うこととなった。

 しかも、彼らが選んだ愚王子マーカスという泥船は既に沈んでおり、近づけば寄生される恐怖しかない。



「そういえば、グロリアが進めていたコーヒーのブレンドの件だけれど」

 羽虫たちのことで、これ以上憂いてほしくないカーティスは、話題の変換を試みる。

「ああ。それねえ」

グロリアが、以前から特に力を入れているコーヒー産業。

そのなかで、また新たな産地を開拓し、ブレンドを生み出すと張り切っていたグロリア。

なので、食い付き、喜ぶかと思ったカーティスはしかし、困惑した様子のグロリアを不安げに見た。

「何か、あったのか?そういえば、話があるって」

 事業の件で、数日邸を空けていたカーティスは、心配になってグロリアの隣に椅子を移す。

「ああ、うん。あのね」

 言い淀み、ちらりと自分を見るグロリアに、カーティスの不安が募る。

「どうした?何か、心配ごとか?体調が悪いとかか?ん?」

「・・・・・私って、幸せ者ね」

「え?」

 ぽつりと呟いたグロリアに、カーティスが目を瞬かせた。

「だって、何かあったのか、って言って。事業のこととか、家のことじゃなくて、すぐに私を心配してくれるの、嬉しいから」

「当たり前だろう!グロリア以上に大切なものなんて、俺には無いんだから」

「それは、嬉しいけど。ちょっと、困る、かも?」

 途端に首を傾げるグロリアに、カーティスは、益々混乱する。

「とにかく、ベッドに横になって。静かにして、すぐに医者を」

「お医者様になら、昨日、診てもらったわ」

 立ち上がり、グロリアを抱き上げようとするカーティスの腕に自分の手を重ね、グロリアは静かに言葉を紡いだ。

「こどもが、生まれるんですって。それでね、コーヒーはしばらく飲まない方がいいらしいの。だからね、ブレンドの件は少し時間がかかってしまうようなの」

「・・・・・・・・」

「カーティス?嫌だった?困る?未だ、結婚して半年も経っていないし、事業の件もあるけど、でも」

「困らない!すっごく嬉しいよ!ありがとう!グロリア!ああ、やっぱり安静していないと駄目じゃないか。早く、ベッドに入って」

 そう言ってグロリアを抱き上げたカーティスの首に、グロリアはしっかりと抱き付いた。

「ベッドに行くより、カーティスと庭を散歩したいわ。駄目?」

「分かった。じゃあ、ゆっくり行こう」

 甘えるようにグロリアに見上げられ、その望みを叶えることにしたカーティスはしかし、次の瞬間、グロリアに叫ばれる。

「ちょっ。カーティス!下ろして!」

「駄目だよ。心配だから」

「自分で歩かないのに、散歩って言わないわよ!お医者様だって、運動も大事だって言っていたわ!」

 必死に訴えるグロリアに、カーティスは疑いの目を向けた。

「本当に?」

「ええ、本当よ」

「本当の本当に?嘘じゃない?」

「本当の本当よ。誓って嘘じゃないわ。何なら、後でお医者様に確認してもいいわ」

 日頃の行いなのか。

 事業の件となると飛び出してしまい、幾度もカーティスに心配をかけた自覚のあるグロリアは、カーティスの疑惑を当然と受け止めて、懸命に訴え続ける。

「・・・・そうか。じゃあ、少しだけだよ?それから、ちゃんと俺と手を繋いで。それなら、転びそうになっても支えられるから」

「ありがとう!カーティス!」


 その日から毎日。

 色々な場面、様々な場所で、ふたりの攻防は続いて行くことになる。


 ある晴れた、心地のいい日。

 元気な赤ん坊の産声が響く、その日まで。


 


完



ありがとうございます。

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