1、
「グロリア。お前と結婚はしてやるが、俺が終生愛するのは、このアメリアだけだと承知しておけ。ああ、もちろん。学園でもそのように振る舞うから、そのつもりでいろ」
会いたくもない、そもそも結びたくて婚約の縁を結んだわけでもない、愚者と有名なこの国の第三王子マーカスに居丈高に言われ、イーデン公爵家の跡取りであるグロリアは、ひそめたくなる眉を何とか堪える。
「殿下こそ、それがどういうことを招くか、ご承知で?」
「当たり前だろう。たとえお前が何と言おうと、俺は真実の愛を貫く。たとえ愛妾という立場になろうとも、俺が愛し、子を産ませるのはアメリアだけだ」
「ごめんなさあいね。マーカスってばあ、あたしに一途なの。まあねえ。女のくせに、そおんなに大きいんだものお。仕方ないってことよねえ」
呼び出された街中のカフェ。
しかも、特別料金のかかる最高級の個室。
ここの支払いも、どうせ自分に回されるのだろうと内心でため息を吐きつつ、マーカスの隣で、いとも当然といった風にケーキを食べ、コーヒーを飲む女性を見た。
今日、マーカスが『自分が終生愛する女性だ。そして、公爵家の跡取りを産んでくれるのだから、お前も礼儀を尽くせ。立場は、後継を産むアメリアが上になるんだから、弁え、敬えよ?』とグロリアに引き合わせた彼女は、マガフ男爵家の次女アメリアとのこと。
貴族らしからぬ所作で、満足そうにコーヒーを飲み、ケーキを食べる彼女は、このコーヒーの価値を知らないのだろうなと思い、グロリアは冷めた目になった。
この国で、コーヒーを飲料として売り出したのは、グロリアの生家であるイーデン公爵家。
未だとてつもなく高級であるそれは、高級であるがゆえに上流階級の象徴となり、貴族はじめ、裕福な層が好む飲み物のひとつと、数えられるようになったばかり。
それも、イーデン公爵家の持つ販路、技術あってこそのことと、知っている者は知っている。
そして、コーヒー以外にも手広く事業を手掛け、財を築いているイーデン公爵家の婿にと、王家がごり押し、無理強いした結果の婚約という事実を、マーカスは忘れているのだろうかと思い、否、そもそも、そのような事を考える頭も無かったと、グロリアは、アメリアといちゃいちゃしているマーカスを見た。
「では、わたくしは、これで」
「ああ。支払いはしていけよ」
「ふふ。お財布さあん。お願いしまあす」
マーカスと会う時は、いつものこと。
やはり、いつも通り支払いはこちらのようだと思い、それもこれが最後だと思えば、どこか清々しい気持ちがする、グロリアだった。
「お嬢様」
カフェの個室を出てすぐ。
控えていたグロリア付きの侍女マーサが、憤怒も露わな顔で寄って来た。
その顔には『許すまじ愚王子』と、はっきり書かれている。
「平気よ、マーサ。それより、すぐに親族会議を開きたいの」
「・・なるほど、お嬢様は、流石に賢くていらっしゃいますね。かしこまりました。旦那様へ、先触れをお送りしておきます」
「お願いね」
父は今日、自邸の執務室で仕事をしている。
先触れを出しておけば、すぐにも対応してもらえるはずと、グロリアは馬車へと乗り込んだ。
ありがとうございます。




