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雑記  作者: とくめい
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乱暴な日本の原風景

 日本の原風景などとして水田や農村の様子を見せられるのが嫌いです。


 私自身、漁村で育って周りに水田がなかったので米はともかく、稲については見ても郷愁とか親しみを感じません。小さな畑になら感じますが。

 私のような水田のないタイプの田舎で育ったから、という例は少数派だとは思いますが、現代日本は基本的に都市部へ人口が集中しているので原風景として農村の景色を見せられても原体験的なもの、自分の精神的なルーツに近いものはそこに見出せないという人の方が多いのではないかと思います。親しみが持てない。自分の暮らしの場所ではないという感覚。

 景色の美しさとかを否定しているわけではなく、もはや多くの人にとって経験したことのない生活の態様を原風景と呼ぶことがおかしくないか?などとずいぶん昔から考えています。景色に物珍しさを感じている時点で原風景とは呼べないのでは。


 私の原風景は潮の臭いとか年季の入ったコンクリートの港とか、防波堤で囲まれたせいで砂の流入が少なくなって年々石ころだけになっていく浜とかです。あまり風情はありませんがとても大切な場所だと思っています。東日本大震災の時、漁港がどんどん海に呑まれていく映像は見ていてそれは恐ろしいものでした。見知らぬ、けれど親近感のある風景があんなことになってしまうのかと背筋が冷えました。まさかその後地震がこちらにも来て、日奈久断層帯八代海区間の割れ残りにびくびくしながら過ごすことになろうとは。

 閑話休題、コンクリートの高い建物に囲まれた景色が自分の原風景だという人がいれば、郊外の閑静な住宅地がそれだと言う人もいるでしょう。今の時代、農村が原風景だと言い切れる人の方が少ないのではないか?と思います。けれど世間はそんな景色を指して日本の原風景だと言ってくる。

 「日本の原風景」という単語がもう個人の生まれ育った場所や経験を乱暴に無視した、特定の情景を指すものになっている気がします。

 と、ここまで書いて気付いたのですがもしかしてみんな「原風景」と「日本の原風景」を別物の言葉として使っているのでは?

 では日本の原風景とされる景色にみんなが求めているのは幼い頃の自分の体験に根ざしたものではなく、なんとなくノスタルジックでなんとなくエモーショナルな農村の景色だった?


 それはそれで個人的には何か釈然としないものがあります。

 特に選挙が近くなってくると見かける「日本の原風景を守る」みたいなスローガン。だいたい水田ですね。消滅可能性自治体かつ水田もほとんど存在していない地域については、人がいない、票が集まるわけでもない、守れと叫ぶことで情緒を揺さぶるわけでもない場所なので媚びる必要はない。そんな本音が聞こえてくるような気がしてきます。

 おそらく政治家も私や都市部の多くの人ではなく、主に農業従事者やその周辺の産業で働く人々に向けて日本の原風景という言葉を使っているのでしょうし、そうしたスローガンによって日本の原風景に該当しない地域の人を積極的に蔑ろにしようという意図もないのでしょう。私自身、書いていてだいぶ被害妄想っぽいなとも思いますが。

 こうした不安感に付け込んで陰謀論的世界観だったり、社会構造、社会の複雑さなどを無視して単純な敵を作り上げるポピュリズムが台頭してきたのだろうなと常々考えているので自分自身に危うさを覚えます。


 まあ結論として、そもそも個人の体験を前提とした原風景という言葉と、日本のというかなり大きな集団を指す言葉は相性がよくないのではないか。日本で暮らす人が見る景色というのは山間部、平野部、沿岸部、工業農業漁業繊維業など結構多様な地形と産業によって成立しているのでこれが原風景だ!なんて共通認識はあまりよくないものだと考えています。

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