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第七話 メルキオール 2


第七話 メルキオール 2


 動き出した馬車の中で。


「とりあえずさあ、その姿、やめねえ?」


姿をやめろとは、どういう意味でしょう?


「お前、神田愛由香だった自分を好きじゃなかったじゃん。俺もさ、ミミズの目を通して見てた時はなんとも思わなかったけど、せっかくリーゼロッテなんだから、リーゼロッテの姿になれよ」


リーゼロッテの姿、と言われましても、産まれてから十八年間、この姿この顔でリーゼロッテと呼ばれて生きてきたのです。さきほど思い出した前世の、神田愛由香と同じ顔です。なんの特徴も無い、ジミな顔です。

 私がおろおろしていますと、メルキオールは苛立たしげに舌打ちしました。さきほどのため息の時にも思いましたけど、ちいさくて幼げなのに、メルキオールの言動や仕草は、なんて言うかとても・・・、オッサンくさいです。


「還元のやり方も忘れっちまったのかよお」


メルキオールが前肢でちょいちょい、と、おいでおいでをします。招き猫ならぬ招き竜といった感じで、とっても可愛いので、私はつい無防備に顔を近づけました。するとメルキオールは前肢で私の髪を掴んでぐいっと引き寄せ、伸びあがるようにして、私に口づけたのです。


「加護竜様! なにをなさいます!」


ハンナが悲鳴のような声をあげます。おおかた、お嬢様の貞操の危機! といろめきだったのでしょうが、前世を思い出した私は、犬猫に舐められたくらいの感じです。


 しかし。


 犬猫の愛情表現では済みませんでした。さきほど傷を舐めた時のように、淡く金色に光りはじめて、けれど傷の時とは違ってどんどん大きくなって、眩い光が私を包み込みました。馬車の外から、ヨハンが驚いて叫んでいる声が聞こえます。馬車の中にちいさな太陽が出現したような眩しさだったのですから、叫びたくなるのも不可抗力でしょう。


 その光が消えた時。


「お嬢様・・・?」


ハンナがぽかんと、目をまん丸にして私を見ています。


 「やっぱこの顔のほうがいいな」


メルキオールは私の顔を見て、嬉しそうに言いました。そして次の瞬間。


 前肢の爪を私の服に引っ掛けて引っ張り、胸をひょいと覗き込んだのです。


「きゃっ」


「おお、こっちももとの大きさになったじゃん」


「!」


言われて見てみると、確かに、シュタールベルク辺境伯宛ての書状を突っ込んだ時よりもコルセットが苦しいような・・・。


 じゃなくて。


「このコルセットってーの、邪魔じゃね? 神田愛由香の時にしてた、ブラジャーのほうがいいと思う」


私が東京のJKである神田愛由香だった前世では、普通にブラジャーをしておりました。母親に買い与えられたスポブラでしたが。


 じゃなくて!


 「加護竜様っ! お嬢様は清き乙女でございますのでそのような破廉恥なことはお止めくださいまし!」


ハンナがヒステリックに叫びますが、カエルのツラに水ならぬ、竜のツラに水。もしくは、馬の耳に念仏ならぬ、竜の耳に説教でしょうか。


「だってリーゼロッテは世界一の美乳だったんだぞ。でかすぎずちいさすぎず、完璧な胸だったんだ。顔もキレイだったけど胸もキレイだった。顔だけじゃなくて胸もちゃんともと通りになったか確認しなきゃだろ」


後でちゃんとナマで見せろよ、と言うメルキオールに、ハンナのひたいに青筋が浮かび上がります。


「いくら加護竜様でも言っていいことと悪いことがございます!」


「加護はまだできねーって言ってんだろーが。人の話を聞けや」


いえ、あの、アナタはドラゴンであって人ではありませんでしょう。



ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。


次回、第八話 『メルキオール 3』

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