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第一話 婚約破棄


流行りの? 婚約破棄される御令嬢ものを書いてみました! でもきっと、王道からは大幅にズレています。




第一話 婚約破棄


 「リーゼロッテ・アウエンミュラー! 貴様との婚約を破棄する!」


華やかな卒業パーティーの場に、王太子殿下レオンハルト様の声が響き渡りました。


 殿下にしがみついて大きな胸を押しつけるようにして、勝ち誇った顔で私を見ているのは、私の異母妹のエミーリアです。卒業パーティーなのだから卒業生の皆さまが主役のはずですのに、卒業生ではないエミーリアが卒業生諸嬢の誰よりも派手なピンク色に金糸銀糸の刺繍やフリルがてんこ盛りのドレスを着ています。これでもかというほどたくさんの宝石で絢爛豪華に身を飾り立てています。常識的に考えたら首飾りにしか使わないような大きな宝石を耳飾りにしていますので、耳が下に伸びて痛そうです。


「王太子であるこの僕をさしおいて首席卒業など、図々しいにもほどがある!」


ええ? 成績は実力でしょう? 忖度しろと? 殿下に忖度するということは、私に最下位になれとおっしゃいますの?


「そもそもなんだ! その安っぽいドレスは! そんなみすぼらしいドレスで卒業パーティーに出席して、恥ずかしくないのか!」


このドレスは王妃陛下が今日のためにと御下賜くださいました最高級の生地を、王妃陛下御贔屓のドレス工房で仕立てていただいた逸品なのですけど。生地の上質さを引き立たせるためにあえてシンプルなデザインをと、王妃陛下御自ら工房主にご指示くださり、縫製の緻密さと繊細なレース使いで知られた工房が腕によりをかけて仕立ててくださったのですから、エミーリアが着ているキンキラキンのドレスよりもはるかに洗練された極上品だと、見る人が見ればわかるものですのに。


 でも、なにを言っても無駄なのですよね。


 王太子殿下はもともと、派手派手しく煌びやかなものがお好きでいらっしゃいます。ですから私との婚約を国王陛下から命じられたことは、最初からご不満でいらしたのです。在学中ずっと、私を目の敵にして、ジミだ生意気だと罵倒されておりました。それでも私は国王陛下からの御命令に背くことはできませんから、じっと耐えておりました。


 「そのくらいになされませ殿下。お姉様はお顔が控えめでいらっしゃいますから、明るいお色はお似合いにならないのですわ」


「そうだな。エミーリア。お前は華やかで、可愛い」


それはつまり、私はジミで可愛くないということでしょうか。もう何度も言われておりますからわかりますけど。


 ただ。


 普通の婚約破棄される令嬢でしたら、ここでステキな殿方、それも大国のお世継ぎなどの圧倒的な上位種が颯爽と現れて、殿下の雑言の矛盾点をさらりと論破した上で熱烈に求愛してくださるのでしょうけれど、私には間違っても、そんな奇跡は起きません。


 なぜなら。


 私には無いのです。あると言われて育った、奇跡の印が。


 竜紋。


 それは、ドラゴンの加護付きである印です。


 我がアウエンミュラー公爵家は、この国の長い歴史の中でもっとも多くの加護付きが現れた家系です。私も幼い頃から、お前にはファイア・ドラゴンの加護が付いているのだと言われて育ちました。


 お母様が亡くなられてからも、お祖母様が、お会いする度におっしゃってくださいました。お祖母様はアウエンミュラー家のお生まれではありませんが、ウインド・ドラゴンの加護付きでいらっしゃいます。その竜紋は、淑女が人目に晒すのは憚られる位置でしたが、私は一度だけ見せていただいたことがあります。


 淡い緑色の、複雑精緻な、人の手では決して真似のできない美しい紋が、余人には決して見せることのない真っ白なお肌に浮かび上がった様は、息を飲むほどに美しいものでした。・・・お年を召された高貴な女性のおいど、という、下々の者はもちろん、国王陛下ですらも目にすることは決してあってはならない場所、という一点を除けば。


『リーゼロッテ、貴女にはきっと鮮やかな深紅の紋が現れるわ。ファイア・ドラゴンはね、竜の中でいちばん鮮やかな美女なのよ』


ドラゴンが美女、というのがわかりかねますが、お祖母様が仰せになるのなら、そうなのでしょう。


 でも、竜紋は現れませんでした。


 私は、加護付きではなかったのです。


 もちろん、この世の中に『絶対』などというものは無いと、わかっています。


 わかっていましたけれど、お祖母様の言葉を信じて育ってきたのですから、加護付きではなかったことは、私のすべてが否定されてしまうような、つらいことです。


 ジミと言われることよりも殿下に忖度しないことを詰られるよりも、ドレスを貶されるよりも、私を傷つける言葉を、殿下は肩をそびやかして鼻息も荒く言い放ちました。


「ドラゴンに見限られた女など、田舎に引っ込んでおればよいのだ。いや、ちがうな。見限られたのではなく、最初から歯牙にもかけられなかった女ということだな。あーっはっはっはっ!」


そんな女など、娶る価値など無い、と嘲笑し続ける殿下を止めることができる国王陛下も王妃陛下も、ここにはいません。



ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。


次回 第二話 『夜逃げ』

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