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新江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜  作者: 綿野草空希


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7.8 怪人君の空8

 (……この怪人……本当に格好良くて強そうだ……)

 素顔の時とは違い、素直にそう思えた。


 正直、BIPの怪人は、蟹とかムツゴロウとか、ウニとかサザエとか与謝野とか、結構、格好悪い怪人が多い。


 だが鏡に映る怪人は、そんな怪人とは一線を画していた。


 「そうそう、パワースーツのバッテリーだが、今つけてるのを、そいつに交換しろ」

 Dr.が、机の上に転がっている、バッテリーを指差した。


 「へ? なんでですか?」

 立ち上がって、机に近づく。

 一見すると、置いてあるのは、ただのバッテリーだった。


 「見た目は同じだが、そいつは特別仕様のバッテリーなんだよ」

 Dr.は煙草の箱から、煙草を一本取り出し、口に咥える。


 「普通の戦闘員が使ってるバッテリーでも、連続で24時間稼働出来る仕様だ。が、それはあくまでも、戦闘員レベルの戦闘を想定してのことだ」


 「当然、怪人がピュア・シャイニングと激しく戦えば、短時間でとんでもなく電力を消費してしまう。パワーアシストだけではなく、スーツが衝撃に対して瞬時に硬化するにも電力を消費するからな」

 Dr.が煙草に火を点ける。


 「なるほど」

 つまり、攻撃を喰らえば喰らうほど、電力を消費するってことだ。


 「普通のバッテリーで戦って[途中で電力切れました]、なんて洒落しゃれにならんからな。その特別仕様を使え。そのバッテリーなら、4、5時間、死闘を繰り広げても、電力は切れないはずだ」

 そう言って、紫煙しえんくゆらせた。


 「分かりました……今回は、[超科学なんとか]ってネーミングはないんですね」

 そんな軽口を叩きながら、ベルトのバッテリーを外すために、腰に手を伸ばす……


 ……だが……ベルトには、なにもない……

 「………………あ……バッテリー、つけないでココに来ちゃったみたいです……テヘペロ」

 そーいえば、忘れてた……


 「おいおいおいおい~~~~、お前大丈夫かあぁ~~? もしも私が、この特別仕様のバッテリーを用意してなかったら、どうやって戦うつもりだったんだよ」

 Dr.が心底、呆れた様子で、僕にジト目を送る。

 「まさか、ピュア・シャイニングを前にして[バッテリーを忘れちゃった。テヘペロ]って言って、取りに戻る気だったのか?」


 「いやっ、だってDr.が早く来ないと[もぐ]とか[ちょん切る]とか脅すから急いで……」

 僕は早口で、そう反論する。


 「はいはい。言い訳してないで、さっさと装着しろ。テヘペロ」

 Dr.は僕の反論を途中で遮って、そう言った。


 「ちぇ……」

 (ワザとテヘペロを誤用するなんて、嫌味なお人だ)

 僕は特別仕様のバッテリーを腰に装着する。


カチッ

 そのまま、バックルを押して、パワースーツを起動させた。


 「それから、触手を使いやすくするために、指なしタイプの強化グローブを用意した。これも装着しろ」

 Dr.から、旧[正式装備品]の指なし強化グローブを渡される。


 すぐに装着する。

 昔の正義の味方が、変身前に着用している感じのグローブなので、ちょっと恥ずかしい。


 (これ、私服で装着したら、周りから厨二病者に認定されるやつだよ……)

 今も似たようなブツが、自宅の押入れの奥に[由比里黒歴史]の一つとして眠っているのは内緒だ。


 (昔、私服で指なしグローブを装着した時の、妹の檸檬の冷たい視線といったら……)

ずーーーん……

 トラウマを思い出し、軽くテンションが下がる。


 「準備は以上だな」

 Dr.がヘッドセットを掴みながら言う。


 「……よしっ。そろそろ時間だし、出撃の場所まで移動しよう」

 Dr.ヘッドランドが白衣をひるがえして、僕の返事も待たずにドアへ向かって歩き出す。


 「へ? Dr.も出撃するんですか?」

 思わず白衣の背中に問いかける。


 「んなわけあるかっ。今日、お前は岩屋出撃口ではない、特別な出撃口から出ることになってる。場所が分からないだろうから、この私がわざわざ案内してやるって言ってるんだ」

 一瞬だけ振り返ったDr.は、そう言って、すぐにドアに向かう。

 「さっさと来い」

 

 「………………はい」

 [とうとう、この時が来たか]と一瞬、躊躇いを覚えたが、僕は青浜さんの顔を思い出して気持ちを整えると、ハッキリと了承の返事を返して、背中を追って足を踏み出した……

………………


 個人研究室を出たDr.は、ヘッドセットで僕の準備が完了したことを、中央作戦司令室に伝えた。


カツカツカツカツカツカツカツ……

 通信を終えたDr.ヘッドランドは、靴音を響かせて、薄暗く長い長い地下路を突き進む。


 僕は、その半歩後ろをついて歩く。


 「そうそう、BIPでは高校生アルバイトの怪人化は原則禁止なんでな、お前のことは大学生だと上に話してあるから、そのつもりでよろしく」

 Dr.が歩調を変えずに、ついで話のような軽さでサラッと仰った。


 「はいっ!? 禁止なのに僕の怪人化やっちゃったんですか!? しかも、大学生って!」

 思わず立ち止まる。


 「いや、怪人化をやっちゃってから禁止だって知ったんだよ。だから不可抗力だな。うん、私は一つも悪くない」

 Dr.ヘッドランドは僕につられて立ち止まることは全くなく、歩調を変えずにずんずん歩く。


 「不可抗力って……」

 呟きながら、慌てて後を追う。


 「だってさ、まさか悪の秘密結社が[人道的見地から]とか[青少年の健全な発育のために]とか言って、高校生の怪人化禁止の規定を設けていると普通思うか? 私はビタイチ想像もつかなかったな」

 Dr.はびっくりするくらいに開き直った。


 「今朝、諜報課の衣装部屋にお前を放り込んだ後、紗弥……事務員と話していてな、[今のイケメンの男の子は誰ですか?]って聞いてくるから[ウチの男子生徒が怪人になった]と説明したら、その事務員が高校生の怪人化禁止規定を、私に教えてくれたんだよ」

 やれやれっといった感じで肩を竦めて、首を振る。


カツカツカツカツカツカツカツ……

 「そこで私は機転を効かせて、新怪人は[大学生の佐藤君]と上に報告しておいたんだ。……あれ? [大学生の斉藤君]だったかな? ……まあ、どっちかだ」


 「んな、いい加減な……」


 「まあ、BIPは本名なんて誰も気にしないから大丈夫だ。あの事務員も上の口が堅いからバレやしない。もしバレても[大事の前の小事]だ、大してとがめられないから安心しろ」

 大きな胸を張って、言い放つ。


 「いや、とがめられるのはDr.ヘッドランドだけですよ。それこそ僕は不可抗力だったんだから……」

 上の口ってなんだ? 口に上下はないよね? と疑問に思いつつ、冷静に指摘をする。


 「チッ、薄情なやつだな、お前は。もしバレて私の細胞完成の臨時ボーナスが取り消されたら、多種多様な無意味な実験をお前にしてやるなっ。嫌がらせでっ」

 Dr.ヘッドランドがジト目で僕を睨む。


 「シマーーー!! バレないように全面的に協力しますっ」

 直立不動で服従を宣言する。


 「大体さぁ、総統閣下は高校生なのに、高校生怪人は駄目っておかしくないか? おかしいだろ?」


 「私は今度の幹部会議でソコを突いて、高校生の怪人化禁止規定を撤廃するように進言するつもりなんだ」

カツカツカツカツカツカツカツ……

 「ふふっ、事後とはいえ、撤廃した規定で罰を与えるのはナンセンスだからな、それで一件落着、私のボーナスは守られるって訳だ」


 「はぁ、さいですか」

 僕はDr.ヘッドランドの、悪の秘密結社の幹部とは思えないセコイ保身術に心底呆れた。


 「だから、しばらくお前は[大学生の加藤君]でいく。なーに、何度も言うがBIPで本名を尋ねられることは、ほぼないから、普段通りにしてれば大丈夫だよ」


 「大学生の伊藤君でしょ?」


 「そうだっけか? ……まあ、どれも藤原の末裔で親戚みたいなもんだ。問題ない」


カツカツ……カツ! カツカツカツカツカツ……

 Dr.ヘッドランドが予告なくクルッと地下路の横道に曲がったので、軽く戸惑いながらもついて行く。


ヴヴゥ~~~~~ゥ・ヴヴゥ~~~~~ゥ・ヴヴゥ~~~~~ゥ……

 突然、地下路にサイレンが鳴り響き、設置されてる赤色灯が回転し始めた。


 「作戦司令部より発令。江の島アジトの防衛体制をレベル3に移行。出撃口以外の出入り口は全て封鎖とす。繰り返す。江の島アジトの防衛体制を……」

 地下路のスピーカーから流れる。


 (いっ、いよいよ、作戦が始まるのか……)

 緊張で、手の平にジワリと汗をかく。


 ちなみに、防衛体制は1が平時で、危険性が高まるほど数字が増え、5が最大となる。


カツカツ……カツ! カツカツカツカツカツ……

 地下路は随分狭くなった。


 「さてと……今作戦こんさくせんだが、お前は初戦なので戦闘にベテランがサポートにつく」

カツカツカツカツカツ……

 「総統閣下と私も、指揮所から大まかな指示を出すが、現場での行動、戦闘は基本的にはそいつの指示に従え」


 「はぁ、ベテラン……ですか?」

 誰だろう? 怖い人だったら嫌だなぁ。


 「ああ、ベテランだ……ふふふっ、超がつくほどのベテランだな。くっくっくっ……」

 Dr.ヘッドランドは愉快そうに忍び笑いを噛み殺しながら、さらに地下路を曲がった。


 「それはずいぶんな言い草ですね、Dr.ヘッドランド」

 地下路の先から、よく通る声が返って来た。

 「もしや私の年齢を、揶揄やゆしているのですか?」


 「えっ!? カラー1将軍っ!?」

 僕は驚き声を上げる。

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