4.4 C調言葉に気をつけて4
「ん?……おおう、アイマスクを忘れていたか。まあ、いいや。私を知っているということは、失敗作は小動高校の生徒だったのか?」
自身の美顔をペチリと触ったDr.ヘッドランド……神城岬先生は、別段慌てた様子もなく尋ねてくる。
「由比里ですよ。二年の由比里是陽です」
動揺しつつも、名乗る。
「うん、知らん。私は生徒の顔は覚えても、名前までは覚えんのでな」
「いやいや、この前散々、僕の顔を見てたのに、全然、気がつかなかったじゃないですかぁ~」
思わず突っ込む。
「うっさいなぁ~。しょうがないだろぅ? 毎年毎年、何百人ってガキが入れ替わるのに、一々顔と名前なんて覚えられる訳がないってんだよ」
「教員は記憶の達人じゃないんだぞ。私は円周率だって3.41までしか、覚えていないくらいだ」
「はあ、それは凄い楕円が出来そうですね」
BIPはこの人を研究室長にして大丈夫なのか?
(……しかし、確かにDr.ヘッドランドは体型、雰囲気、話し方、傍若無人さまで、思いっ切り神城岬先生のまんまだったなぁ……)
アイマスクを着けただけで気がつかないとは、僕はかなりヌケてるな……
ちょっと、僕を覚えてない先生を笑えない。
「ま、そんな些事はどーでもいい。で、なんだって? いまさら、変化が起きただって?」
神城岬先生が、僕の下半身をジッと見る。
「おい、変化が分からないぞ。それで大きな変化だなんて、お前は下半身も失敗作なんだなぁ」
先生が僕の下半身をマジマジと観察しながら、大変、失礼なことを仰った。
「そこじゃなくてっ! 体全体を見て下さいっ!」
身振り手振りをしながら訴えると、やっと、先生が顔を上げて、全身を見る。
「んん~~? ……別に普通のイケメ……あれ? 失敗作は、そんなに痩せた男前だったっけか?」
ようやく、先生は変化に気つき、首を傾げた。
「そこなんですよっ、あれから家で一週間寝込んで、今朝、起きたらこんな顔と体になっていたんですよっ」
「ふむ。なるほど、確かに劇的変化だな。これは有望だ、面白い」
先生は、ベッドに転がっていたアイマスクをスチャッと装着して、立ち上がり、机に向かう。
「……どれ、軽く血を診るから、手を出せ……」
机からメスを取り出すと、問答無用で手を掴まれた。
チク……
「痛て……」
メスで指先を切られると、血が滴る。
Dr.ヘッドランドはそれを、ガラス板に数滴落とした。
「頼むから期待外れで終わるなよ……」
すぐにDr.ヘッドランドは、備えつけの大きな顕微鏡で観察を始めた……
「どれ……ん? ……おっ! おおおうっ!?」
なにやら興奮して声を上げているDr.ヘッドランドの後ろで、不安な思いで結果を待つ。
「ふむっ……うんっ! 零型BIP細胞が完璧に定着したようだなっ。怪人化は成功だっ」
Dr.ヘッドランドは、満面の笑みで椅子から立ち上がった。
「ええぇ~~……やっぱり成功しちゃったんだぁ……」
予想はしていたけれど、やっぱりショックだ。
「ああっ、大成功だっ! ほらっ、自分の指を見てみろっ」
指摘されて、指先を見る。
と、さっきメスで切られた傷口は、跡形もなく塞がっていた。
「もう細胞の超複製が発現し、怪我が再生しているんだよっ」
Dr.ヘッドランドは僕の指を掴み、傷口があったはずの場所をつんつんと弄りながら、嬉しそうに話す。
「うぅぅ、そうでぇすか。で、僕はこれから、どんなドロドロの触手怪人に変化するんですかぁ?」
僕は嬉々として観察中のDr.ヘッドランドに、項垂れながら質問する。
「いや、細胞が完璧に着定したので、これ以上は変化しないぞ。コレが予定通りの完成形だ」
「へっ!? これ以上は変化しないっ!?」
「僕は、ドロドロデロデロの触手の化け物にはならないんですかっ!?」
「当たり前だろ。元々、総統家の細胞なんだ。総統閣下は人ならざる家系とはいっても、見た目は人型だろ」
「だから、その細胞が定着しても、ドロドロの化け物になんて、なる訳ないだろが」
Dr.は[何言ってるんだ? こいつは]とでも言いたげな表情で、そう言い切った。
「本当ですかっ!? うあぁぁぁ~~、良かったあぁぁ~~。助かったぁぁ……」
心底ほっとして、脱力し、ぽてんっとベッドに座り込む。
「この姿なら、普通に生活出来ますぅ~……」
「体が痩せたのは、超複製の能力によるものだろう」
「超複製は、壊れた不必要な細胞を、瞬時に正常な細胞に置き換えてしまう[最適復元力]、いわばその体最大のポテンシャルを形状記憶するみたいなもんだな」
「太ったお前は不必要な細胞だらけだったのだろう」
「あまりに最適とはほど遠かったために、体内に入ったばかりの零型BIP細胞は、しっかりと定着して機能するまで、時間がかかってしまったと推測出来るな」
「はぁ、なるほど」
よく分からないので、生返事をする。
「定着するまでは時間がかかったが、今後は凄いぞ? お前は、例え瀕死の重傷を負っても瞬時に治癒する、不死身の肉体を手に入れたんだぞっ」
Dr.はドヤ顔で僕を見る。
「はぁ、瀕死の重傷でも……そのぉ、その時は痛くはないんですか?」
「いや、治癒するまではめちゃめちゃ痛いだろうな。なんせ瀕死の重傷だからっ」
Dr.はそう言って、いいねっ! と親指を立てて微笑んだ。
「うわぁぁ、たとえ治るとしても、それは嫌だなぁ……」
まったく、他人事だからって、この人は……
「それより、最適化されたポテンシャル最大の肉体をちょっと見せてみろ。上着を脱げ、モルモット」
Dr.が強引に、ブカブカの制服を剥ぎ取ろうとする。
「わっ、分かりましたからっ、自分で脱ぎます」
破られてでもしたら堪らないと、慌てて、自分で脱ぐ。
「おおおっ!! うんうんっ、コレだよっ。この筋肉質で見事に均整の取れた体だよっ、コレを予定してたんだ」
Dr.がペタペタと触る。
女性に裸の上半身を触られているが、そこには一切の色気もない。
なぜならDr.の触り方は、完全に実験体でも扱うような手つきだったからだ。
「お前がデブいせいで、変化するのにここまで時間を要してしまうとは、天才の私でも想定出来なかったぞ」
「あー、注射の後に[出でよっ!]とか言って、ポーズ取ってましたもんね」
「うっせ。なんか生意気だぞ、元失敗作」
Dr.ヘッドランドはそう言って、僕のお腹をペチーーンと叩いた。
「うーーむ、しかし本当に素晴らしく成功したなっ!」
「現状で人間の限界に達しているはずだからな、戦闘員服程度のパワースーツを着ただけでも、驚異的な戦闘力を発揮するぞっ!」
「おい、ちょっと軽くジャンプしてみろ」
「はい? ジャンプですか?」
「ああ、軽くだぞっ、軽くだ」
「はぁ、軽く……」
よく分からないが、言われた通りに軽く跳ぶ……
ビョンッ!
「わわっ!?」
ガンッ!?
「痛ってぇぇ!?」
その場で軽くジャンプをしただけなのに、あっと言う間に天井まで跳び上がり、頭頂部を強かにぶつけてしまった。
着地して、頭に出来始めたコブを擦る。
シュン……
嘘みたいに一瞬で、コブと痛みが消えた。
「うん、やはりトップアスリート並みの身体能力になっているなっ。これでお前専用のパワースーツを開発したら、凄まじい強さになるぞっ」
Dr.がガッツポーズをして喜ぶ。
(これが超複製の治癒能力と、最適化された肉体の最大ポテンシャルか……)
僕は、二つ同時に自身に備わった特殊能力を体感して、少し戸惑いを覚えた。
「くぅぅぅ~~、とにかく、これで大成功だぁぁ~~」
Dr.ヘッドランドは、両手を上に上げて、ぐぐっ~と伸びをした。
すると、ポキポキと背骨が鳴った。
「はぁぁ~~、正直ホッとしたぞぉぉぉ~~~。私はこの一週間、どれだけ針の筵だったか、お前に分かるかあぁ~?」
Dr.が伸びながら、恨みがましい目を向けてきた。
「……なんかすみません、太ってて………」
僕が悪いのかなぁ? と疑問に思いつつも、頭を下げる。
「いいよ、結果オーライだ。ふぅ~、なんかホッとしたら喉が渇いたな……」
Dr.ヘッドランドはヒラヒラと手を振ると、僕から離れて机の横にあるポットの前に行く。
「お前もコーヒー飲むか?」
「あ……頂きます……」
Dr.ヘッドランドは特に応えることもなく、黙ってインスタントコーヒーを、BIPのシンボルマーク(八方睨みの亀)がプリントされた二つのマグカップに入れ始めた。
第4章 「驚異の怪人能力と、副作用?」
終了まで、あと3話




