第20話 突然の訪問者
「はじめまして、トキオ・タカツキです」
「魔導協会より推薦を受けたダリア・シュレーダーです」
国王主催の“最強の戦士”選出トーナメント。その本戦当日に“最高の魔法使い”ダリアは勇者や他のパーティメンバーと引き合わされた。試合に先立ち詰めかけた観衆――国民に勇者ともどもお披露目されるらしい。
「……お嬢さんはずいぶんと若く見えるけど。魔法使いということは、もしかして魔法の力で不老の存在だったりするのかな?」
「しません。見てもらったまま十四歳です」
「なんだ、そうなのか。てっきりロリババアの類かと。いやしかし、天才魔法少女と言うのも鉄板の一つではあるなっ」
「……意味がよく分かりませんが、何となく馬鹿にされているのは分かります」
「馬鹿にするだなんてとんでもないっ。良いものですよ、魔法少女っ」
しばし勇者の力説を聞くことになる。ニチアサがどうだとか、変身ヒロインがどうだとか。ノリはきついが合わない相手ではなさそうだ、あくまで友人としてならば。
その後、噂の聖女リリアーヌ・エヴァーグリーンとエルフのオリビア、ドワーフのヘーゼルも紹介される。
会うのを楽しみにしていた聖女は“最良の神官”なのは間違いないのだろうが、至って真面目で面白みに欠ける印象。
エルフとドワーフは俗説通り反目する種族らしく険悪な雰囲気ながら、互いにチラチラと気にする素振りも見て取れる。こちらの方が面白さでは断然上か。
やがて勇者パーティが観衆に紹介されると、闘技場に集う選出戦の出場者達から不満の声が上がった。予定外のエルフやドワーフがトーナメントも勝ち抜かずにメンバーに加わることが面白くないらしい。
そんな中、一人の少女がごねる者達へ“勝ち抜く自信がねえだけだろう”と一喝し――
「――リリィを守るのはあたしでっ、だから勇者パーティに加わんのもあたしだっ! てめえらなんざお呼びじゃねえんだよ!」
と、宣言した。
「もっ、もうもうっ、ローザったらこんな大勢の前で私の名前を出してっ。あーもうっ、恥ずかしいんだからっ」
隣りで聖女が身悶えた。
「ぷっ、くふふっ」
思わず笑みがこぼれた。
面白みが無さそうな女の反応が意外や面白く、闘技場で自分の倍もありそうな巨漢達を相手に啖呵を切っている女は言うまでもなく面白い。なかなか面白いパーティになりそうだった。――ローザ・エヴァーグリーンと名乗ったあの少女が、トーナメントを勝ち抜き“最強の戦士”としてパーティに加わったならの話だが。
「――私が来たわよっ」
「おー、ダリアか。久しぶり」
「お久しぶりです、ダリア」
いささか警戒した面持ちでエヴァーグリーン邸の玄関を開けたのは――ついノックが強くなった――、前衛にローザ、後衛にリリアーヌだ。
「久しぶり、じゃないわよっ! あんたらちょっとは王都にも顔を出しなさいよねっ。アサとハルの入学式にはさすがに出席すると思って、あなた達の寝室とか色々準備をしておいたのに来ないしっ!」
大魔導士ダリアは憤懣も露わに叫ぶ。
元勇者パーティの最年少メンバーで唯一まだ二十代だから、そんな態度もギリギリ許されるはずだ。
「いやぁ、アサのやつが恥ずかしがってなぁ」
「二人がお世話になっています、学園長先生」
ローザは悪びれもせず、リリアーヌは口調だけ丁寧に言う。
「で、今日はどうしたんだ? と言うか、お忙しい学園長兼魔導協会の副会長様が、よくもこんな辺境まで来る時間を作れたな」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれましたっ! そこはこの私っ、天才魔導士ダリア様の腕の見せ所よっ。見なさいっ、私の新発明っ!」
手に持っていた物を突き出した。先程からローザにちらちらと訝し気な視線を向けられていたそれは――
「え~と、その箒が何だって?」
「忘れたの? 勇者のやつが言っていたじゃない、自分の国の魔女は箒で空を飛ぶって! いや、あいつの国にはそもそも魔力も魔女も存在しないはずだから正直意味不明な発言なんだけど、――この大天才が実現させてやったわっ!」
「つまり、これで飛んできたってのか?」
「ええっ! 正確に言うと私の飛翔魔法の補助をさせたと言うべきかしらね。飛翔は繊細な魔法だけど、この箒には術式が初めから組み込まれているから思いっきり魔力を注ぎ込んでも飛行が安定するのよ。この私の魔力なら馬車で一日の距離をだいたい一時間で飛んでこれるわっ」
「それは、――何というか、すごいわね」
リリアーヌが素直に感心の声を漏らす。
辺境の村ブルームから王都までは朝から晩まで馬車に揺られて五日は掛かる。それをこの箒ならわずか半日足らずである。
「つまりダリアは一人で空を五時間もぶっ飛んで来たってわけか。いやぁ、そんなにあたしらに会いたかったのか?」
「ぬぐっ。――そっちはついでよついでっ。前から北方砦の視察をしときたいと思っていたのよ」
「ふ~ん。まあ、とりあえず入れよ」
「入れよって、まるで自分の家みたいに。アサとハルから週の半分はローザが泊っていくとは聞いたけど」
「いっ、良いから良いから。さっ、入った入った」
ローザに促され邸内へと足を踏み入れる。
夕食の最中だったらしく、食卓の上には食べ掛けの食事や酒瓶が置かれている。
「あ、ダリア、ここまで飛びっぱなしだったのなら、当然夕食もまだよね? すぐに用意しちゃうわね。ローザはダリアに椅子を出してあげて」
「ああ」
リリアーヌがぱたぱたと台所の方へと消え、ローザは我が物顔で椅子を引っ張り出してくる。
「……えっと、もしかしなくてもあなた達、一緒に暮らしてるの?」
「――っ、な、何を根拠にそんな」
「いやぁ、ローザの服装とか、なんだからしくないって言うか、妙に生活感があるって言うか。それってリリアーヌの趣味でしょう? 私、あなたがおへそ出してないの初めて見たかも」
「ぬっ」
なんせ冬の雪山でもビキニアーマーを貫いた女である。
「それに食器類。それって客用じゃないわよね? お揃いだもの」
「ぬぬっ、鋭い」
どうやら図星らしい。この友人は相変わらず腹芸は苦手なようだ。
「――あ、ダリア、今日は泊っていけるんでしょう?」
そこでリリアーヌが台所から顔を出した。
「ええ、もちろんそのつもりだけど」
「それじゃあ部屋の用意もしないと。アサの部屋なら片付いてるけど、あの子は勝手に部屋を使わせたら嫌がるでしょうし。ハルの部屋で良いかしら? あ、それともローザの部屋に寝てもらう? どうせあの部屋、夜は使っていないんだし」
リリアーヌの発言にローザが“やばい”という顔をした。
「……え、まさかあなた達、同棲だけでは飽き足らず一緒に寝てるってこと? まさか一線超えちゃった?」
「どっ、どーきんっ! ただ同衾してるだけだっ!」
「ただ同衾してるだけって、あなた」
「ええ、そうなの、ローザとは毎晩一緒に寝てるのよ。ローザったらすぐに意識を飛ばしちゃうものだから、なかなかピロートークは楽しめないのだけど」
「ちょっ、ちょっとリリィっ」
「ぷっ、くふふっ」
思わず笑みがこぼれた。
かつてのパーティメンバーは相変わらず面白い連中だった。




