36. 知ってしまった以上は無視をすることは出来ない。これはただの善意
36. 知ってしまった以上は無視をすることは出来ない。これはただの善意
そして翌日。最悪なことにオレは白石に水着を買いに付き合わされることになった。断るという選択肢は、白石の強引さの前には存在しない。そのまま慣れない場所へ連れ出される。大型のショッピングモールの一角にある、水着売り場は、色とりどりの水着やビーチグッズが並べられていてなんとも華やかな雰囲気だった。
場違いなオレは、店内でどう振る舞えばいいか分からず、少し居心地の悪さを感じていた。白石は、キラキラした目で水着を眺めながらオレに尋ねてきた。
「うーん……どれがいいと思いますか?先輩は?」
白石は何着か水着を手にとって、オレの方に見せてくる。ピンク色のフリルの付いたものやチェック柄のポップなものなど可愛い系のデザインが多い。
「そう言われてもなぁ……」
正直、どれが似合うかなんて本人じゃないと分からないだろう。それにこういう場所で、しかも白石相手に真剣に水着選びのアドバイスをするというシチュエーションが、どうにも気恥ずかしい。
「まぁ……あまり露出が少ない方がいいんじゃないか?お前は一応可愛い系なんだろ?」
無難な線で答えておく。あまり露出が多いとプールで周りの視線を集めるだろうし、それはそれで面倒だ。白石は、オレの言葉を聞くと少しだけ顔を赤くしたように見えた。
「いやーん。可愛いって恥ずかしいですよ~!」
わざとらしく身体をくねらせる白石だが正直ウザかったのでスルーした。こういうあからさまな照れ方というか、ぶりっ子みたいな仕草は見ているこっちが恥ずかしくなる。
「じゃあこれとかいいんじゃないですか?先輩」
白石が次に選んだのは、真っ白なビキニだった。胸元にフリルがあしらわれていて、スカート部分はフレアになっている。確かに可愛らしいデザインではあるが……
「ちょっと派手じゃないか?」
白石が着る姿を想像すると、少しだけ露出が多い気がした。別にオレがどうこう言う筋合いはないのだが、なぜかそう言ってしまった。
「えー?私はそんなことないと思うんですけど……」
「それならこっちのヤツの方が良くないか?」
「ふむふむ? 先輩は清楚系が好きなんですね?まさに私です!」
白石は得意げに胸を張った。お前のどこが清楚なんだよ。いつも人をからかって、図々しくて、人の話を聞かないやつのどこに清楚な要素があるんだ。
「お前のどこが清楚なんだよ?」
「またまた照れちゃって!さては私の可愛さにメロメロになってますね!?」
白石はオレのツッコミを、またしても照れ隠しと解釈したらしい。そして、根拠のない自信で人をからかい始めた。メロメロ?あるわけないだろう。
こうして、白石の水着選びはしばらく続いたのだが、会話のほとんどはこいつの「彼氏」アピールと、それに対するオレの否定、そしてこいつの的外れな解釈と、それに続くオレの内心でのツッコミで占められていた。
まあ、白石も楽しんでるみたいだし、いっか。付き合わされているオレはたまったもんじゃないが。
結局、長い時間をかけて、白石の選んだ水着は、最初に白石が気に入っていた白を基調としたビキニタイプになった。少し露出はあるが全体的に可愛らしいデザインで、白石の雰囲気には合っている。
「どうですか先輩?似合いますか?」
「……まあ、いいんじゃねぇの?お前に似合いそうだしな」
「もう!『夏帆!お前絶対可愛い。彼女として最高だ!』って素直に褒めればいいものを!」
白石は自分が言ってほしいセリフをそのまま口にした。彼女として最高?だから彼女じゃねぇって言ってんだろ!
「彼女じゃねぇし。うぜぇ」
「先輩酷いです!せっかく私が可愛い水着を、先輩のために着てあげようとしてるっていうのに!」
「うるせぇ。早く買ってこい。」
「わかりましたよ~買ってくるから待っててくださいよ?絶対に先に帰るとか意地悪しないでくださいよ?」
まるで小学生に言い聞かせているような口調でそう言ってレジの方へ向かった。オレは小学生かよ……はぁ。
白石がレジに並んでいる間、オレは店の隅でスマホを取り出した。ゲームをするためではない。ブラウザを開き「誕生日プレゼント 高校生 女子」と検索する。
そう、白石の誕生日は7月31日。知ってしまった以上、一応、先輩として後輩の誕生日を祝ってやりたいという善意だ。別に白石には特別な感情なんかない。でも何かしてやりたいとは思うものの、何をあげたら良いのか見当もつかないのだ。
アクセサリーか?服か?雑貨か?白石に似合うものなんて、全く想像がつかない。困ったな。悩んでいると、白石が戻ってきた。紙袋を手にオレに駆け寄ってくる。
「先輩お待たせしました!あれ?スマホなんか見てどうしたんですか?」
オレのスマホの画面を覗き込もうとする。危ない、見られるところだった。慌てて画面を消しポケットにしまった。
「なんでもない。ほら帰るぞ」
ごまかすようにそう言って、店を出る方へ向かう。
「あー!なんか誤魔化しました?」
白石は少し頬を膨らませながらも、オレの隣へと駆け寄ってきた。そして、そのままオレの腕に自分の腕を絡ませてきた。おい!だから当たってんだって!水着選びで散々意識した体のラインが、腕を通して伝わってくる。歩きにくいし!
「別にいいじゃないですか!私たち付き合ってるんですよ?」
「だから付き合ってねぇって言ってんだろ……」
もう、声に出して反論するのも疲れてきた。白石はオレの言葉を聞いているのか聞いていないのか終始上機嫌だ。
「えへへ〜っ 今日は楽しかったですね〜、先輩?」
腕を組んだまま、楽しそうに話しかけてくる。話聞けよ……あと腕を組むのやめろよ……
その後も、店を出て、そのまま最寄り駅まで歩く間、ずっと腕を組んだまま歩く羽目になった。人に見られていないか、周りの目を気にしながら歩くのは心底疲れる。白石は、全く気にする様子もなく、今日の買い物の話や明日のプールの話を楽しそうに喋っていた。
とりあえず、まずは明日のプールの事を考えるとするか。そしてそれが終わったら、白石の誕生日プレゼントについて本格的に悩まなければならない。全く、夏休みは始まったばかりなのに、頭痛の種は尽きない。白石の腕の感触と誕生日プレゼントの悩みがオレの頭の中を占拠していた。




