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AIは人類に敗北しました。 〜敗残兵とハリボテエース〜  作者: 山野 水海


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第8話 補給と僅かばかりの休憩

『シド・ワークスくんだね? 第3部隊でのキミの鬼神のごとき闘いぶりは司令本部より聞いている。ジャンプシー乗員一同、キミを心より歓迎しよう。必要な物があれば整備班に遠慮なく言ってくれ。裏切り者の伯爵軍に一矢報いれるのなら、協力は惜しまないつもりだ』

「あ、ありがとうございます、艦長」


 コクピット内でパイロットシートに座りながら頭を深々と下げるシド。モニターには軍服を着た50代くらいの男性が映っている。

 アドホック号は現在ジャンプシー内の戦闘機格納庫にて補給を受けている最中だ。

 彼が通信しているのは防衛艦隊旗艦ジャンプシーの艦長である。

 顔に小皺があり、眼光が鋭い。ピンと伸びた背筋は生真面目そうな印象を与える。モニターには映っていないが、きっと靴はピカピカに磨かれていることであろう。上官としては威厳があるが、一般人から見れば威圧感を覚える印象。

 そんないかにも年季の入った軍人といった風貌の艦長にシドは萎縮しているようだ。すっかり腰が引けていて、モニター越しですら艦長と目線を合わせられないようである。


「ええと、その……お心づかいに感謝いたします」


 オドオドするシドの顔を、艦長はどこか不思議そうに見ている。

 本当に彼が“あの”単騎がけをしたアドホック号のパイロットと同一人物なのかと驚いているようだ。


『ふむ、キミはその……普通だな。あのような命知らずな突撃をするような男なのだから、私はてっきりあのモヒカン男と同類だと思っていたのだが……人は見かけによらないものだ。いや、なんでもない。失言だった。忘れてくれ。では健闘を祈る。存分に暴れたまえ』


 そう言って艦長からの通信が切れると、シドは「ふぅー」と大きく息を吐いて、頭を下げた体勢からそのまま前に突っ伏した。

 スピーカーから09(ゼロナイン)の呆れたような声がする。


『グッタリとして情けない姿ですね、シド。もうちょっと堂々とはできなかったのですか? これから敵を蹂躙してあげるのですから、ビクビクなどせずに余裕の表情で礼を述べればいいのです』


 シドは頭を上げ、ムッとした様子で文句を言う。


「あんな怖そうな人相手にそんな態度ができる訳ないだろうが」


 すると、09はすぐにぴしゃりと言い返した。


『全体の士気に関わる問題なのです。いいですか? 自信に満ちた頼り甲斐のある男性と、気が弱くてうだつの上がらない男。どちらの方がエースとして相応しいですか? 前者でしょう? 強く、頼れる味方の存在は全軍の士気に大きく影響するのです』

「それは……そうだろうけどよ……」


 シドの歯切れが悪くなる。

 戦略ゲームでもネームドキャラの活躍や撃破によって「士気」というパラメーターが上下するのはよくあるシステムだ。彼にとってもそれはよく理解できる事柄だ。

 09は言い聞かせるように話を続ける。


『かつての戦争でも、軍の精神的支柱である存在が奮戦した結果、戦況をひっくり返した例は数多くあります。この私が戦う以上、活躍は絶対なのですから、アナタはしのごの言わずにそう振る舞いなさい。これも生き残るための一つの作戦ですよ』

「うぅ……わかったよ。ちくしょうめ……」


 悪態をつきながらも情け無い声で運命を受け入れたシド。

 エースとして活躍すればするほど敵からは目の仇にされるのは彼もわかってはいるが、当の09が手を抜く気がまったく無いので、目立たないのはどだい無理である。

 それならば早々に諦めた方が楽だと考えたのだ。

 

 ◇◇◇


『シド、見てください! 支給されたミサイルですが、かなり高性能ですよ。アナタが積んだ、ろくに誘導装置も働かないロケット砲まがいのポンコツとは威力も精度も大違いです! ああ、これが初めからあったなら、先程の戦艦もブースターなどではなく、エンジンや艦橋(ブリッジ)を破壊できたのに!』


 弾んだ声でシドに話しかけてくる09。

 よほど初期装備に不満があったようで、散々にこけ下ろしてくる。

 

『本当になぜあんな粗悪品を積んでいたのやら。悪徳業者にでも引っかかりましたか? それともまさか自分で選んだとか? どちらにせよ、シドに買い物のセンスが無いのは間違いなさそうですね』

「うるせえな、09。こんな事になると知ってたら、ちゃんとしたの買ってたつーの」


 栄養補給用の飲料を手に持ちながら面白くなさそうな顔で言い返すシド。

 相変わらずお互い口は悪いが、会話の距離感は以前より近くなっている。

 移動中にした自己紹介が良かったのかもしれない。名前で呼び合うようになってからというもの、最初のギスギス感が薄れ、少し気安い間柄になったように思える。

 そこへ通信が入ってきた。


「――ん? 通信だ。整備班の人からだな。応答するぞ」


 相手はこの艦の整備班の人間のようだ。

 中身が半分ほど残ったボトルを脇に置いて応答すると、モニターに作業着姿の若い男性の姿が映った。


『ワークスさん、燃料の補充とミサイルの積み込み完了しました。ビーム機銃もエネルギー充填してあります。他に何かご要望の物とかありますか?』


 そう聞かれても、シドには何が必要なのかイマイチよくわからない。

 困った顔で「えーと……」と言いながら斜め上に視線を向けると、スピーカーから09の声がした。


『もっと強力な武装がないか聞いてください。他の誰よりも私が効果的に使用できます』


 整備班と通信がつながっている状態でコクピット内に09の声がしたが、これは全く問題無い。

 彼女は機体の電子機器を掌握しているので、自身の声は通信相手に送信されないよう細工している。

 また、相手に捏造した映像や音声を送りつけることも可能である。(司令本部に補給を要請した時もこれだ)

 また、その気になればシドの声もほぼリアルタイムで修正できるので、通信回線を開いている時にうっかり09とシドが会話しても、外部にバレないよう隠蔽できたりもする。

 そのあたりは機械の申し子であるAIの面目躍如であろう。

 因みに、09が一番望んでいたのは今の機体(アドホック号)を捨てて別の機体に乗り換えることだが、残念ながら緊急事態だからと全機出払っていて叶わなかった。

 なので次点として火力を求めたのである。

 という訳で、シドは09に言われたことをそのまま向こうに伝えた。


「強力な武装があると助かるんですが、何かありませんか?」


 シドが尋ねると、整備班の男性は困った顔になった。

 どうやらあるにはあるが、はいどうぞと渡せるものではないらしい。


『あー……あるっちゃあるんですが、そのミサイルより強力なのは上の許可が無いとダメっすね。いちおう申請しますけど、ギルドの傭兵さんに許可降りるか怪しいんで、あんまり期待しないでくれると助かります』

「お手数おかけします」


 やはり軍以外の人間においそれと危険な武器は渡せないらしい。

 モニターの向こうで端末を操作する整備員を見ながら、シドは無理そうだなと諦めていた。

 が、結果は違った。


『えっ、もう返事が来た!? はっ? 「許可する」ってマジかよ! しかも“コレ”を!?』


 なにやら慌てている男性。

 どうも許可が降りたみたいだが、その動揺の仕方が尋常ではない。

 シドがどうしたのかと尋ねようとした瞬間、またもや通信が入った。発信元は防衛軍の司令本部である。

 タイミングから考えて申請についてだと思われる。


『応答しましょう、シド』

「ああ」


 09に促され通信に応答するシド。

 前方のモニター画面が二分割され、右側に新しく人物が映る。その顔はシドもつい1時間ほど前に見た顔であった。


『初めましてだね、シド・ワークスくん。防衛艦隊司令のタックだ。傭兵であるキミに直接依頼したい事があってこうして連絡させてもらった』

「へっ…………?」


 通信先はこの防衛戦の総大将であるタック准将本人であった。

 これにはシドも驚いて声も出ない。09はシドにエースとしての振る舞いを求めたが、まだヒヨッコの彼だ。この反応も仕方ないであろう。

 准将といえば雲の上の存在と言っても過言ではない。

 間違っても今日傭兵になったばかりの一戦闘機乗りと直接話すことなど、本来はあり得ないはずの階級の人間。まさしく異例の事態である。


 このあと彼の口から伝えられる「依頼」によって、この防衛戦は大きく動き出したのであった。

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