第57話 期待外れ
『奴らを分断スルッ! ザック、ラカン、カール、モモ、ミモザの5機は敵集団の中央を狙ってありったけミサイルを撃ち込メ。敵機が分かれタラ、1機をワークスに任せ、残りの2機に波状攻撃を仕掛ケロ』
『『『へいっ!』』』
『反撃の隙など与えるナ。 反応速度と正確性で勝るAIに勝つには、相手が対応しきれナイ程の物量をぶつけるしかナイ。絶え間なく攻撃を仕掛ケ、決して相手にターンを渡さズ、スクラップになるマデ撃ち続けロッ! 薄っぺらな奴らのコアチップに、我ら人間の恐ろしさを刻みこんでヤレッ!』
『『『応ッ!』』』
敵AIが操縦する3機の海賊戦闘機が迫り来る中、全体通信でマッケンジーの指示が飛ぶ。
普段は個人プレーが多い白馬ギルドの面々だが、意外なほどすんなりとそれに従っている。
作戦と言っても細やかな連携が必要な内容ではなく、「数を頼みに追い立てろ」という、いつもと同じ単純な力押しだから受け入れられたのかもしれない。
傭兵たちも、敵が戦闘用AIだと告げた時は動揺が走ったが、マッケンジーが喝を入れたら冷静さを取り戻し、作戦を聞いた頃にはもう臆することなく戦意を滾らせていた。
人類にとって恐怖の代名詞である殺人AIとの戦闘だが、そこは砲煙弾雨を潜り抜けてきた傭兵たちである。この気合いの入り方にはシドも瞠目していた。
「すげえな……AIと戦うのに怖くねえのかよ……?」
『それだけマッケンジー・ウォルシュのリーダーシップが優れているということでしょう。シド、彼はエースパイロットとして割と良い見本なので、見習ってはどうです?』
ロナのマッケンジーへの評価も高い。
シドは以前彼女から言われたことを思い出した。
「前にロナが言っていた、『強く、頼れる味方の存在は全軍の士気に大きく影響する』ってやつか?」
『はい。彼は少なくとも白馬ギルドの傭兵たちにとっては“この人がいるならば”と味方に思わせるような頼れる存在です。おかげで崩れかけた士気もすぐに戻り、こうして一丸となって作戦行動に移れています』
「確かにな……」
通信で見ている感じ、傭兵たちは意気軒昂として作戦に臨んでいる。
いくらロナが強くても、シドであればこうはなっていないであろう。最悪は味方が算を乱して逃げる中、単機で敵と戦う羽目になっていたかもしれない。
これが大きな戦場であれば流石のロナでも命取りになりかねない事態だ。
彼女の言う通り、自身の命を守るためにもマッケンジーの姿勢を見習うべきなのであろう。
(死なないためだ。気後れなんてしてられないよな……)
前々から自分なりに気をつけていたが、マッケンジーという具体例が現れたので「理想のエースパイロット像」というものの輪郭が少し見えてきた気がする。
今すぐには無理でも、少しづつそれに近づけるよう心がけることをシドは決心した。
が、まずはなによりこの戦闘に勝つことが肝要である。見習うのも実践するのも敵を倒してからだ。
――なお、同じ優れたリーダーシップでもアイハムは参考にはなっていない。彼の独特のカリスマ性を真似できるとはシドにはとても思えなかったのである。
『作戦も対AI戦術の基本に則ったものですので、誰かがミスをしなければ問題ないでしょう。もっとも、私たち「チルドレン」と戦おうというのであればまだ他にも大事な――おや、もう始まりますね。この話はまた後にしましょう。シド、準備はいいですか?』
「もちろんだ」
まもなく味方機から敵戦闘機を分散させるためのミサイルが発射されるみたいなのでロナは話を切り上げた。
シドも、いつでもトリガーを引けるように改めて意識を集中する。
ここに誰にとっても予定外である対AI戦の火蓋が切って落とされた。
◇◇◇
『――散ったナ。さア、ここからダ。各機ぬかるナ』
5機の味方機がありったけのミサイルを撃つと敵戦闘機は散開して回避行動に移った。
敵AIがロナのようにビーム機銃でミサイルを撃ち落としにかからなかったのは、ミサイルの数が多く、そちらの方が確実に回避できるからであろう。
『ワークス、お前は緑の機体をやレ』
「はいっ!」
マッケンジーの指示でシドとロナは敵戦闘機の一機に狙いを定める。
敵は海賊が組み上げた改造戦闘機だ。ありあわせのパーツを組み合わせたような機体だが、シドが組んだアドホック号よりはずっと出来が良い。
ミサイルとビーム機銃の他にも底部にビームガンが装備されていて、海賊の機体としてはマシな方だろう。
コクピットには人間も乗っているようだが、AIに主導権を完全に奪われていてお荷物状態だ。
(……海賊とはいえ、ちょっと同情するなぁ)
最初、自分が乗った機体が勝手に動いた時の恐怖はシドもよく覚えている。今頃コクピットでさぞ怖い思いをしていることが容易に想像できた。
とはいえ攻撃しない理由にはならない。
さっそくロナの指示が飛んできた。
『シド、相手の性能を調べます。カウント3で第一射を。それから1秒ごとに連続でレールガンを撃ってください』
「わかった」
今回のエールダイヤの装備は以前も使ったレールガンである。昨日から着けていたが、戦艦を相手にするので丁度いいからそのままにしていたのである。
敵機はこちらに側面を向けている。
『3、2、1……今っ!』
「――ッ!」
ロナのカウントダウンに合わせてシドがトリガーを引き、バシュンという発射音と共に高速で弾が射出される。
すかさず始まる次のカウントダウン。シドは結果を見ることよりも毎秒告げられるロナの合図に合わせてトリガーを引くことだけに注力する。
かたやロナはシドへの指示をしながらエールダイヤの機体カメラを使い、弾丸の行方と敵戦闘機の動きを注視していた。
(照準誤差ゼロ……ですが相手は腐っても戦闘用AI。この距離では回避されますね。さて、あと何手必要でしょうか?)
弾丸は敵機の中心部を貫く軌道であったが、相手は発射した瞬間に機体をピッチダウンさせてそれを回避する。
こちらの下方へと沈み込むように機首を下げる敵機。さらには機体を捻ってビームガンの銃口をエールダイヤへと向け、反撃しようとするそぶりさえ見せた。
だがその頃には第二射、そしてたった今この瞬間に第三射が放たれている。
(二射目への回避行動、同時にビームガンでの反撃の前動作を確認。……ですがこの方向への回避では三射目への対応は――)
シドの指が第四射目のトリガーを引きかけたその時、ロナからストップがかかった。
『射撃中止。シド、もう結構です』
シドはその言葉を聞いてピタッと指を止める。
止めていた息をふぅと吐き、もういいのかと思いながら、カウントダウンに集中していて全然見ていなかった現在の状況を確認した。
「……まだ3発しか撃ってないよな?」
『はい、たった3発でこのザマです』
そこにはコクピットを撃ち貫かれ、煙を上げて機能停止している敵戦闘機の姿があった。
「早くないか? AIだったらもっとこう……」
あまりの手応えの無さに戸惑うシドだが、それはロナと比べているからであろう。
しかし、それだとしてもあまりに低性能だとロナは冷めた声で言う。
『同じ未進化AIでも250年前の方がマシでした。演算能力はともかく、致命的なまでに実戦データが不足してます。後続射を考慮していない回避運動など、論外としか言いようがありません』
それはそうだろう。マザーAIの反乱が起きる前であれば各国の軍が大規模に戦闘用AIを使っていたが、現代ではそうもいかない。
海賊などの犯罪者がまれに使うくらいしか機会が無いので、収集できる戦闘経験はどうしても限られたものになってしまう。
ともかく、戦闘AI「NM-H」は彼女にとって、とんだ期待外れだったようだ。
『アナタにAI同士の対決では何が優劣を分けるのかを教えてさしあげたかったのですが……これではダメですね。あちらのレベルが低すぎて話になりません。もういいです。さっさと巡洋艦を片付けてしまいましょう』
ロナは相手への興味を完全に失ったようである。
心底つまらなそうに残りのターゲットを片付けに行こうと言い、エールダイヤを残る敵艦へと向かわせるのであった。




