天地修羅事情
(=ↀωↀ=)<仕事が色々重なって【天神】VS【地神】が準備中なのと
(=ↀωↀ=)<「書いたもののいつ出そうかな」って短編あったので
(=ↀωↀ=)<とりあえずこれを投稿
□■天地・東青殿家領内某所
「うぅ……どうしよぅ……」
二〇四五年のゴールデンウィークも終わりそうな頃。
椋鳥玲二の学友、夏目高音ことアルトは団子屋の縁台に腰かけながら項垂れていた。
その理由は、ゴールデンウィークが終わりそうだからだ。
何も『連休が終わるのが嫌だ! もっと遊びたい!』という分かりやすい理由ではない。
大学が再開することが憂鬱な訳でもない。
むしろ、大学で友人達と会うのを楽しみにしているし、連休中はお休みだった樹里の家庭教師も楽しみだ。
ゆえに問題は、別の約束の期日が迫っていることだ。
「うふふ、ここのお団子美味しいですね。胡麻が良い感じです♪」
アルトがチラリと横を見れば、嬉しそうに団子を味わう修羅がいた。
【阿修羅王】華牙重兵衛。色々あって最近ではパーティメンバーになっている修羅だ。
斬り合うこと、殺し合うことが大好きな戦闘狂である。
「……はぁ」
アルトはこの重兵衛とある約束をしていた。
ゴールデンウィークが明けて大学が再開したら、レイ・スターリングのリアル……椋鳥玲二に重兵衛からのメッセージを伝えるという約束だ。
重兵衛の伝言、『十年くらい前に兄弟で交通事故に遭いそうな女の子を助けなかったか』という質問の意図は分からないが、このネジが外れた修羅の問題をリアルに持ち込むことは気が重い。
(まだ心の準備できてないからゴールデンウィーク、一年くらい延びないかなぁ……。王国と皇国の戦争で三十倍加速中ではあるけど……)
まぁメタ視点では一年どころか六年ほど戦争していたが。
ともあれ、棚上げしていた宿題を解消するときが迫り、さらにはそれが何らかの事件に繋がりはしないかと戦々恐々しているアルトである。
「あ、アルトさん、見てください」
ただ、そんなアルトの気も知らず、重兵衛はお団子の串で遠くを指した。
「んー、どうしたの?」
「あそこでティアンの武芸者が殺し合ってます」
「藪から狸が出てきたみたいなテンションで言うことじゃなくない!?」
「風流ですねぇ」
「風流って言葉の意味を辞書で調べよう!?」
家庭教師としては赤点レベルの単語の使い方であった。
「え? ていうか何で殺し合ってるの?」
「野試合……ではなく仇討ちのようですね。人相の悪い方がかつて仲間を背中から斬って刀と金銭を奪って逃げたことが発端のようです」
「え……物騒……」
「まぁ殺せば経験値も刀もお金も手に入りますからねぇ」
「人間は宝箱じゃないんだよ……!?」
「私もティアンについては同意見です」
アルトはガクブルしながら『じゃあ<マスター>については……?』と聞きかけて、止めた。聞くまでもないからだ。
そしてティアンの武芸者達は刀を抜いて斬り合い始めるが、アルト達以外にも周囲にいる人々は逃げもせずにその戦いを「ほう」、「どちらも良い腕だ」と眺めている。
この国ヤバイ。
「あ。あの刀、妖刀ですね。見ていると『殺してでも奪い取りたくなる』タイプの奴です。そして手に入れると手放したくなくなる効果もありますね」
「事件の黒幕は刀だった……!?」
アルトは殺人の動機に気づいてしまった。
そして見ているティアンにも刀を持ってフラフラと戦いの場に近付くものが出始めた。
話の流れが時代劇から妖怪退治にズレてきたな?
「ああいうの持ってないのでちょっと欲しいですけど、<マスター>相手には効かないこと多いんですよね……」
「第三勢力が発生しかけている……!」
この修羅は武器コレクター(実用)でもあるので、下手すれば殴り込みかねない。
「<マスター>相手にもモンスター相手にも使いにくそうなので、流石にティアンを殺してまでゲットはしませんよ?」
「…………」
アルトは『もしもめちゃくちゃ実用的だったら……?』とは聞けなかった。聞くまでもないからだ。
「あっ。私はそうそうティアンを殺しはしませんよ? 手足を切り落とすまでです」
アルトの表情で何か察したのか、重兵衛はそう弁明した。……弁明かこれ?
「伊達にして帰してるじゃん!?」
「切り落としただけなら上級までの回復スキルで治りますし」
「修羅の暴力ハードルが低い原因は医療体制にもあった……!」
実際、天地は戦闘系以外に各種回復系のジョブも育っている。
人を治す機会が多すぎるからだ。
「ティアンは殺すと再戦できませんからね……モグモグ……」
「お団子食べながら言うことかなぁ……」
修羅的にはここまで茶飲み話である。
「そもそも、私はティアンとの戦いはあまり好きではありません」
「戦いを好きではない……!? 重兵衛が……!?」
ライオンに『私お肉食べません』と言われるくらいの衝撃だった。
じゃあ何を食うんだ、キャットフードか。
「私は戦いが好きですけれど、好みというものがありまして。ジョブ、<エンブリオ>、そして武具。自分の磨き上げた自力、本質、追求をぶつけ合い、斬って斬られて、殺して殺される。そんな交わりが癖なのです」
「癖と申したか……」
「けれど、ティアンは<エンブリオ>が欠けていますから。最初からハンデ戦をしているようなもので、何だか乗り切れないんですよ」
「あー……」
<マスター>とティアンの最大の差が<エンブリオ>だ。
特典武具などで埋めてくるティアンもいるにはいるが、それでも最初から<エンブリオ>の有無による差は発生している。
「かと言って、<エンブリオ>を封じると私の方がガタガタになってしまいますし」
重兵衛のバトルスタイルはアシュラで妖刀のデメリットを踏み倒しながら得た高ステータスで数多の武装を駆使する。
自然、アシュラという根幹が欠ければそれは彼女のスタイルではない。
「非対称戦ではなく同じレギュレーションでやりたい、ってことだよね」
「正解です。さっそくやりましょうか」
「やらないよ!? 怖いもん!?」
そもそもアルトと重兵衛では階級違いも良いところだ。
「でもハンデを気にしたり、殺さないようにしたり、重兵衛がティアンとの戦いに気を付けてるのは意外だったかな……」
「そうですか?」
「うん。『優れた技術と正面から斬り合いたぁい!』ってイメージだった」
基本的に<マスター>とティアンではティアンの方が技術面で優れている。
時折“技巧最強”や“断頭台”のような例外もいるが、<マスター>のような復活も<エンブリオ>も万能ジョブ適正もなしで生き抜き、鍛え上げてきたティアンの技巧は高い。
ゆえに、それを味わうために重兵衛はもっとティアンと斬り合っていると思っていた。
「まぁ、それを知るだけならティアンと戦る必要はありませんからね」
「え?」
「アルトさんは<修羅の奈落>というダンジョンを御存知ですか?」
「それは知ってるけど……」
<修羅の奈落>の名はアルトも聞き知っている。
「天地の神造ダンジョンだよね? なんか、クリアしたら【魔王】になれるって噂の」
「はい」
神造ダンジョンが一つ、<修羅の奈落>。
空を彷徨う<優越の天空城>を除けば、東方における唯一の魔王転職用ダンジョンだ。
「アタシじゃ全く力不足だから入ったこともないけど、そこに何かあるの?」
「あそこは入った人間が死んだらコピーを作るダンジョンなんですよ」
「コピー?」
「ええ。影法師というらしいのですけれど……」
<修羅の奈落>は、死者の力を喰らう。
<修羅の奈落>に挑んだ者が死んだとき、その力を写す。
死者の力と技術、持ち物迄も正確に写した影法師達。
生前の死者と同じ力量で動くそれらが増えるほど、迷宮自体も広く複雑になる。
地獄が亡者で溢れかえることはないように。
「なので、時代を経るごとに沢山の武芸者の影法師がダンジョンを徘徊するのです」
「こわぁ……」
「なのでティアンの技術を味わうだけなら<修羅の奈落>に潜れば解決します♪」
「発想がこわぁ……」
あそこならティアンと殺し合わなくてもティアンの殺人技術を体験できるとウキウキの修羅に、アルトはドン引きしていた。
「一つ困り事なのは<修羅の奈落>の影法師は倒しても経験値がないのでレベル上げには使えないのですよね……」
「そうなの?」
「ええ。普通はティアンの死者から回収されるはずの特典武具も含めて再現されるあたり、あのダンジョン自体が一種の仮想空間ではないかとも言われています」
「ああ。闘技場みたいな」
『仮想空間の中でさらに仮想空間って変な話ー』と思わなくもないアルトだったが、そういう舞台設定もあるかと受け入れた。
影法師が増えるほど内部が広くなるというのもその一環なのだろう。
「<超級>でもクリアした人がいないって話だったけど、すごく広い上にあのダンジョンで死んだティアンの猛者が集まったダンジョンだからってことかぁ……」
「…………」
しかし、アルトのその言葉に……重兵衛は珍しく『何とも言えない顔』をした。
「あれ? 違った?」
「そうですね、修正が二点、追加が一点です」
あの一言のどこに三つも変更点があると言うのか。
「まず、影法師はティアンだけではありません」
「ほわ?」
「――<マスター>でもモンスターでも、<修羅の奈落>に入ったものはコピー対象です」
「…………ぱーどん?」
「<マスター>でも<修羅の奈落>に入って死ねばコピーされます。もちろん<エンブリオ>も含めてそうなりますね」
「クソダンジョン……!」
超難関ダンジョンだ、当然<マスター>でも死ぬものは多いだろう。
それら死者の戦力が全て、ダンジョンの駒として再利用されてしまう。
無法もいいところだとアルトは呻いた。
――だが、そんなレベルの話ではないのだ。
「次に、死ぬ場所はダンジョン内に限定されません」
「……? …………?」
「『<修羅の奈落>に入った者』が『死んだとき』に影法師は生成されます。死んだ場所は指定されていません」
「……あ、え? はぁ?」
アルトは重兵衛の言葉の意味を理解しようとしたが、脳が理解を拒んでいた。
ダンジョンに挑んで死んだ者をコピーするならば、まだ分かる。
だが、ダンジョンの外でも死ねばコピーするとはどういうことだ。
「一度入った時点でマーキングされているので、何度も蘇る者……<マスター>ならばその後に死ぬ度にデータ更新されます」
「…………ねぇ、重兵衛って入ってるんだよね?」
「ええ。ですから、今の<修羅の奈落>には最新版……<アニバーサリー>で死んだ頃の私もいますよ?」
「ヒェッ……」
折角国内にある神造ダンジョンなのだ。
戦闘系の<マスター>ならば、誰しもが一度は挑戦している。
ここにいる重兵衛も例外ではない。
そして、<超級>達も例外ではない。
彼らの影法師も徘徊している。
前回デスペナしたときの状態で、無論<超級エンブリオ>も含めて。
仮想空間と推測されているのは、そうでもなければ無法すぎて成立しないからだ。
<マスター>とシステム面での相性が最悪である。
「そしてこれはアルトさんの発言への修正ではなく追加なのですけれど……」
「まだ何かあるの……?」
震え声で問うアルトに、重兵衛は頷く。
「大昔、まだあのダンジョンが今ほど攻略困難でなかった頃に踏破して【憤怒魔王】となった黒城時貞という人がおりまして」
「あ、それ読んだことあるかも。天地を統一して【征夷大将軍】になった人だよね」
そのことはアルトも前にデンドロ内の歴史コラムを読んで知っている。
特殊超級職の中でも【征夷大将軍】の条件は変わり種であり、『転職用クリスタルを中心とした一定範囲(今の天地より少し広い)内で最大の領土を有している』というものだ。
かつての【憤怒魔王】はそれを満たし、【征夷大将軍】となった。
そして、自陣営超強化のスキルによって大陸にも覇を唱えようとし、最終的に黄河の【勇者】に討たれたのだ、と。
「……ん? あれ……? それって……」
しかしアルトは、その意味をさっきの重兵衛の説明と合わせて理解してしまう。
「ええ。天地の偉人の一人で、当然もう故人です」
『<修羅の奈落>に入った』、『故人』。
ダンジョンで死んだ者、脱出した者、そして踏破した者でもそれは変わらない。
即ち……。
「あのダンジョン、【征夷大将軍】の影法師がいます」
「クソダンジョンすぎない??」
本来は『ダンジョン最奥にいる先代【憤怒魔王】を倒すことで新たな魔王になる』という程度の話だった。
しかし現在は『ダンジョン最奥にいて、多数の<超級>・準<超級>・ティアンの上澄みに強烈なバフを掛ける【征夷大将軍】を倒す』になってしまっている。
そんなもの誰がクリアできると言うのか。
そも、<マスター>がいない時代でも先代の後は踏破者がいない。
作った連中は自動アップデートダンジョンくらいの気持ちだったかもしれないが、噛み合い過ぎて難易度がバグっている。
何もかんも【征夷大将軍】に就いた【憤怒魔王】が悪い。
「というか<マスター>って【征夷大将軍】のバフ対象外じゃなかった!?」
「影法師は<マスター>と同じ能力を持っていても<マスター>ではありませんから……」
「バグにバグが重なってる……!?」
オリジナルの<超級>よりも強い<超級>がウロウロしているダンジョン。
『そんなの誰がクリアできるの?』とアルトは悶絶した。
「慣れると高難易度で楽しく、良い訓練にもなるのですけど」
「…………」
<マスター>の修羅勢がこのノリで挑むから影法師も強化されるんだろうな、とアルトは思わないでもなかった。
「今度一緒に入りませんか?」
「絶対イヤだよ!?」
『一緒にジム行ってみない?』くらいのノリで地獄に誘ってくる修羅に、アルトは涙目でノーを宣言した。
なお、ティアンの仇討ちの方は無事果たされて妖刀も圧し折られていた。
To be continued




