SS 『真偽』
(=ↀωↀ=)<エイプリルフールだしネタもあったので投稿
(=ↀωↀ=)<漫画版最新話のヴァーミンとか本編最新話やってて思いついた話
■某月某日・レジェンダリア某所
「基本的にこの世界では嘘や偽証、贋作は通用しません」
それは、“監獄”を脱獄した<超級>達がレジェンダリアの森の中でキャンプをしていたときのこと。
夕食後のコーヒーを淹れながら、ゼクスがいつものようにこの世界に関する雑談を始めた。
なお、キャンディはログアウト中で不在である。
「なぜか分かりますか、ガーベラさん?」
コーヒーを受け取りながら、ガーベラはその簡単な問いに答える。
「《真偽判定》があるからでしょ?」
「はい」
《真偽判定》。
様々なジョブで獲得・使用可能な汎用スキルの一種であり、相手の言葉の嘘を暴くスキル。
《看破》と合わせればステータスの隠蔽も剥がし、《鑑定》と合わせれば贋作も見抜く。
この世界の汎用スキルでも、比較的普及しているスキルである。
「基本的に見抜くスキルと欺くスキルは見抜くスキルの方が有利です。同じスキルレベルならば必ず見抜く側が勝ちます」
「バランス悪くない……?」
「むしろバランスを取っているんですよ。欺くスキルはそれ単独で成立し、使い方次第で利益を齎します。しかし、見抜くスキルはあくまでも欺きへの対抗策でしかありません」
有用ではあるが、嘘がなければ意味がない。
だからこそ、このようなバランスになっている。
まぁ、これが普及して活躍している時点で世界には嘘が蔓延っているとも言えるが。
「嘘に特化した対抗スキルのためにジョブや装備の枠をどれだけ割くかは、判断の分かれるところです」
「あー……」
多くのジョブで取得可能とはいえ、その分だけ削れる部分はある。
また、スキルレベルを最大にしようと思えば、上級職もそちらの要素を含んだものを選ぶことになる。
ガーベラは『私もどっちかというと欺く側なのよねー……。なぜかバレて見つかって監獄に送られたけど』と溜息を吐く。
彼女は度々自分を監獄送りにした二人を思い出す。
しかし、脱獄したもののしばらくはリベンジしなくていいかなとも考えている。
格上がいすぎてまだ届かない気がしているのだ。
「とはいえ、ティアンの場合はそもそもの適性があります」
「あー、そういえばそんな仕様だったわねー」
この世界で『職業選択の自由』が真に自由なのは、<マスター>とハイエンドくらいのものだ。もう一つの例外である【勇者】など、むしろジョブに縛られている。
「ただ、官憲や騎士団には《真偽判定》を修めた者が多くいます」
選ぶまでもない者も、それなりにいるだろう。
そして《真偽判定》が重宝される職場は多いため、その適性ならば安定した生活を送れるだろう。
犯罪を取り締まる立場以外に、商取引などでも有用なスキルだ。
「特に重要なところにはスキルレベル10の《真偽判定》持ちがほぼ確実にいますからね」
「そうねー……」
監獄での読書週間中に読んだミステリーでもそんな話はあった。
なお、この世界における大体のミステリーで高レベルの《真偽判定》持ちは早めに殺される。
生きているとミステリーにできないからだ。
ちなみに実際の事件でそうなるケースも多々ある。
「とはいえ、スキルレベル10の《真偽判定》が通じないケースも、この私が知る限り六つ……いえ、五つあります」
「結構あるわね……」
穴だらけだが、それぞれに仕方ない理由がある。
「まず一つ目はシンプルに欺くジョブが勝る場合です」
「超級職?」
「はい。スキルレベルEXでの欺瞞に対し、上級職の範囲の《真偽判定》では通じません」
超級職の最たる利点はレベル上限がないことと言われているが、それに並ぶ利点がジョブスキルのEX化だ。
系統スキルの効果が跳ね上がるものが多く、劇的に性能が変わる。
詐欺師系統の《偽名》や《偽証》、《偽装》。贋作師系統の《偽造》など、EXに至れば対抗スキル側もEXに至らなければ見抜けない。
なお、《偽名》は名を偽るスキル、《偽証》は発言を偽るスキル、《偽装》はステータスを偽るスキルである。
「余談ですが、《偽装》や《偽造》はEXになると世界そのものも騙し、欺いた通りの性能を発揮します。そのため、詐欺師や贋作師は超級職になると途端に戦闘職に化けるそうです」
「ちょっと面白そうな話じゃない……」
元より示された数値によって性能が発揮される世界。
そこに干渉できるスキルならば不可能ではないのだ。
無論、限界値はあるが。
「二つ目は<エンブリオ>や特典武具……<UBM>ですね」
「そこはセットなの?」
「《真偽判定》からすれば同じでしょうから」
「?」
要は、元のシステムに存在しなかった者達だ。
専門外ゆえに、アマノジャクなど《真偽判定》を外れるものが多い。
むしろ、多少は効果の範疇に収めている分だけ優秀とさえ言える。
「三つ目はアプリルのように完全な機械である場合です。魂なき無生物である彼女達の言葉に込められた意図を、《真偽判定》は汲み取れません」
スリープモードで座っているアプリルを見ながら、ゼクスはそう述べた。
ガーベラはそれに対し、『魂ないとか言うけど、わりとキャラ濃いわよねアプリル。……まぁそういう設定ってだけでしょうけど』と結論づけた。
「四つ目は特に特別なものは何も要りませんね。『嘘ではない言い方』や『真実を誤認した人間』を挟んで《真偽判定》そのものを回避する手法です。ティアンなどはむしろこちらをよく使うでしょう」
実際、皇国の皇王などはこのやり方で一人二役を担っていた。
「そして五つ目は以前お話ししたラスボス……【邪神】ですね。育つ前に見つからないように、【邪神】の嘘は《真偽判定》に掛からず、《看破》と合わせてもステータスを見破れません」
「本当に対象外多いわね《真偽判定》……」
元より《真偽判定》の効果範囲を超えるものとして設定されていた超級職と【邪神】。
ジョブシステムの世界にとっては想定外だった<エンブリオ>と<UBM>、煌玉人。
《真偽判定》を回避するために編まれた話術。
そうした別ベクトルの突破法により、見破れぬ嘘がこの世には残っている。
「ところで、さっき六つと言いかけて五つに減らしてたけど、他に何があったの?」
「そもそもの前提情報からすり替わっている場合ですよ。ただ、これは《真偽判定》に限った話ではありませんから」
「どういうこと?」
「《真偽判定》が成立したとしても、その成否を伝えるのは視覚と聴覚です。つまり、その二つそのものを誤魔化してしまえばいい。」
「幻術とか催眠術的な話?」
ガーベラがイメージしたのは、自分が生まれる前に連載していた忍者漫画や死神漫画の大ボスだ。
父が好きで家の本棚にも並んでいたので覚えている。
「ええ。受け取る情報そのものが違っていたり、あるいは本当は虚偽と判定されているのに真実を示す映像と音を受け取ってしまったり、そうした情報そのもののすり替えです。ただ、これは《真偽判定》を誤魔化す、などというレベルではないため外しました」
「そうねー……。ていうか、そんなすごいことできる奴いるの? できたら無敵じゃない?」
「ハハ……」
ガーベラの問いに、ゼクスは曖昧な笑みで返す。
なぜかと言えば、その代表例の一人が彼女自身だからだ。
必殺スキル発動中のアルハザードは自身の行動を世界に正しく認識させるまで十数秒のタイムラグを生じさせるほどの欺瞞能力の持ち主だ。
世界に嘘をつく……情報欺瞞の分野では最高峰の一体である。
ただ、彼女自身が自分はそのレベルですごい奴だということを忘れて久しかった。
『そろそろ天地で国取りですし、ガーベラさんにも自信を取り戻して欲しいですね』、と思わないでもないゼクスであった。




