第78話 汚物は消毒だ!
テンプレです。たぶん
「……負ける覚悟はできたのか?」
今日のイベントはもう終わりの筈だったんだけどな。
まあ、現在こいつを潰すことが最優先事項だ。覚悟ができてなかろうと逃がす気は無い。
「黙れ詐欺師め。せっかく先輩として僕が魔物は危険だと教えてやったのに、恩を仇で返しやがって」
勘違いに、上から目線、果てには間違いを認めない。ここまで存在するだけで人をイラつかせることができる生物が居るだろうか。いや、居ない。
「恩なんて受けてないし、最初から迷惑でしかない。早く消えろ。そうすることでしかお前は人の役には立てないと思うぜ?」
元がすごいイラつかせるからプラマイゼロだろうがな。
「貴様……!!」
「本性が漏れてるぞー。人を助けようとする正義マン(笑)さん?」
さてさて、皆さん。凄まじい形相で俺を睨んでくるこいつのことを覚えておいでだろうか。
そう、何を隠そうこいつは、ライムが魔物だからと、国から許可を貰っているにもかかわらず人を守るためにという名目の元、外に追い出そうとした正義マン(笑)である。
名前は覚えてない。
確か次に問題を起こしたら、冒険者資格の永久剥奪だったと思うんだがな。
こいつも懲りんな。
……まあ良いさ。こいつの骨も自信も夢も希望すら全て砕いてやろう。
恐怖し、泣き叫び、絶望し、二度と歯向かえないように。
「それではCランク冒険者アルノー対Eランク冒険者シオンの決闘を始める!」
「――良いぜ、お前の未来を消してやるよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おい、詐欺師。その娘達を自由にしろ」
「……何のことだ?」
「そんなのわかり切っているだろう!」
いや、マジでわかんねぇ。本気で理解できない。
誰か通訳プリース。
だが助けの手ははさしのべられない。いや、俺が嫌われてるとかそういう話では無い。
誰もわかんないから教えられない、そういうこと。
遠巻きにして話を聞いている冒険者達も話が理解できていないようで、ざわめきが加速する。
冒険者がいる場所、ここは例によって冒険者ギルド。
道で出現したこいつを無視して、宿の場所でも聞こうとここまで来た。
無視しても嘘つきだの詐欺師だの一人で言ってて、キモかった。
放っておいても勝手に付いてきてキモかった。
挙句の果てにこんなことを言い出した。
キモい上にめんどいからと無視していたのは悪手だったかもしれない。
さっさと潰すべきだったか。
「ふん、自分の事を勇者だと偽っていただろう。どうせそこの二人も同じように騙して連れ回しているのだろう。三人ともこっちに来るんだ。そんな奴よりも僕の方が勇者の称号がふさわしい。君たちのような美しい人は僕の側にいるべきだ」
うわー、ばらしやがったこいつ。まあ聞いていたのがこいつだからどうとでもなるんだけどな。
というかどんだけ自分に自信があるんだよ。しかも俺への追求が全て憶測でしかないという残念さ。
もう俺何も言えんわ。
「あー……何言ってんだ、俺が勇者?そんな分けないだろ。俺は勇者じゃないし、そんな心優しい人間でもないんだが。それであっちに行くか、フクシア?」
「いえ、シオン様について行くのです」
自分が勇者ではないとの周りへのアピールもかねてフクシアにどうするかを聞いた。
馬鹿め正義マン(笑)。フクシアが騙されていると言ったが、証拠を自分で持っていないので答えをフクシアに依存している。フクシアが俺な味方の時点で既に詰んでいる。
何より、騙されている筈のフクシアに事実を伝えても揺らがないと言うことは、こいつが言った情報が間違いだという可能性を限りなく上げる事になる。
極めつけは他人からの信頼だ。散々人に迷惑をかけてギルド永久追放目前のクソヤロウと、騙されているはずの本人、さらに美少女。あなたならどちらを信じますか?答えるまでもないだろ。
正義マン(笑)の話が間違いだと示すとともに、俺が勇者ではないということも周知することができる。
一石二鳥だ。ただ、俺の名前に敬称が付いてなかったら満点だったな。
ちなみに心底嫌そうに正義マン(笑)を見ているのは加点だ。
「なっ!僕と比べてそんな奴の方が良いというのか!?」
「いえ、比べるのもおこがましいですよ?」
うおっ、辛辣。良いね、もっとやれ。
とは言え俺との初対面はあんなに優しかったのにこの変わり様は少し気になるな。
「ちょっとフクシア。それ無理して言ってない?」
「へ?」
俺の言葉がよくわからなかったのかキョトンとした顔をしていたが、首を傾げながら話し始めた。
「えっと、お母さんが『汝優しき隣人を愛しなさい。そして愛した隣人を害する者を……ぶっつぶしなさい』って言ってたのです。もしかして……言い過ぎでしたか?」
「いや、問題無い。すっきりした」
「それは良かったのです」
フクシアが不安そうに顔を曇らせたたので、すぐさま否定する。笑顔に戻ったので一安心だ。
それに今の話で納得がいっく。
『汝優しき隣人を愛しなさい。そして優しき隣人を害する者を……ぶっつぶしなさい』
これは簡単に言えば、『優しい人を大切にしろ。そしてその人の害になるなら容赦するな』って事だろう。
色々とぶっ飛んだ考え方で凄まじい母親だなとは思ったが、それは置いておこう。
ただ、これには明確に足りない物がある。
それは自分、フクシア自身のことだ。
この言葉の中に自分を大切にするという内容がない。だからこそ、オーガに襲われていたとき俺を逃がそうと言う選択しにつながるのだ。
フクシアの親は、ただ単に伝え忘れているのか、それともそれでいいと思っているのか。
ただフクシアがひねくれていないことから、両親、少なくとも母親からは愛されていたことがうかがえる。
何より、フクシアが今まで生きていたことが理由になる。守られていたからこそ、この考え方でも生きてこられた。
詳しくは本人に聞かないとわからないが、そこは本人が教えてくれると言っている。気長に待つとしよう。
まあ、自分を大切にすることについては俺達が教えていけば良いさ。
「おい、僕の事を無視するな!!クソッ、せっかく僕が助けてやるって言ってるんだ!そこのお前達、僕の方に来い!!」
色々と考えている間にもゴチャゴチャと騒いでいた正義マン(笑)は、矛先をライムとフィラムに移した様だったが二人は言葉を聞いたとたんスッと俺の後ろに隠れた。俺に着いて来たいかは置いといて、あいつに着いて行く選択しはないと思う。色々酷いからな。
それに二人はお前より強いぞ?
「何でだ!……そうかわかったぞ!お前達、そこの詐欺師に金でも貰っているんだろう!?この薄汚いビッチ共め!!」
「……あ゛あ゛?」
《熟練度が一定に達しました。『威圧』を獲得しました》
その言葉が聞こえた瞬間感情が冷え込み、反射的に声を出してしまっていた。
すると同じくしてガタタタン!と椅子が倒れる音が聞こえた。何かが聞こえた気がしたが、椅子の音で聞こえなかった。
それにしても何でギルド中の全員が立って、しかも武器を抜いていないまでも戦闘態勢になってるんだ?こいつの言動にそんなに腹が立ったのか?いや、今はそんなことはどうでもいいとばかりに視線を前に戻す。
勘違いは腹が立った。でも、こいつに物事を正しく理解するだけの脳みそが無いことがわかったので我慢することができた。
上から目線にはイラついた。でも、確かにこいつの方がランクは上だし、冒険者としての時間だけは負けている。だから、流すことができた。
日本でも基本的に手を出されない限りは自分からどうこうする事は無かった。
でもこいつは手を出した。言葉だけだろうとなんだろうと関係ない。攻撃したことには変わりない。
俺の『大切』であるライム達にだ。
もうこれ以上は見逃せない。いや、見逃さない。
「……訂正しろ。お前が言った言葉を訂正して彼女たちに謝れ……!!」
「な、何でだよ……!せっかく僕が助けてやろうと言っているのに言うことを聞かないあいつらが悪いんじゃ無いか!そ、それにそうやって声を荒げているって事は事実だと言うことだろう!」
――そうか。まだ言うのか。なら……
「ちょっと待った!ストップ、ストップ!」
ところが行動を起こす前に少し焦ったような声に遮られた。
止められた事に少し苛立ちながら声の主を探す。
――いた。ああ、ダンジョンから脱出するときにボッコボコにしたパーティーの、リーダーっぽい槍使いの優男の人か。
「なんだ?あんた俺の邪魔すんのか?」
そう言うと槍使いの顔が目に見えて引きつった。
なるべく普通に話したつもりだったんだがな。
「ッ!!そうじゃない。別の解決方法がある。君たちには決闘で事を納めて欲しいんだ」
……決闘ねぇ。
「俺にそれをするメリットが無いんだが?」
「め、メリットならある!ギルドで暴れたときに壊れた備品の弁償代がいらない!」
「それなら大丈夫だ。金ならそれなりにある。……それだけならもう邪魔をしないでくれないか?」
それにしてもなんでそんなに汗をかいてるんだ?こういうのを滝のような汗って言うんだろうな。でもここそんなに熱くないぜ?
「ま、まだだ!君がここで暴れたら怪我人がでるし、ランクアップにも支障がでるよ。何よりここでは全力で動けないだろう!?」
「……そうか」
いや、別にランクアップはどうでも良いが、怪我人が出るのはな。少し申し訳ない。
それに怪我人が出るとたぶんフクシアが悲しむ。ライムとフィラムはどうかわからないが。
……それにしてもちらほら勇者という単語が聞こえる。
最初はまだ疑われているのかと思ったが、どうやら目の前の槍使いへの言葉らしい。
何でだろうか。
「おい!僕を無視して話を進めるな!」
「君は黙っていてくれるかな?」
「なっ!?」
……よし、決めた。
「わかった。あんたの提案を受け入れよう」
理由は色々あるが決まり手は今の塩対応です、はい。
「ほんとうかい!?」
「ああ」
「まて!勝手に決めるな!大体……」
「何だ、お前は自分よりランクが下の奴との決闘が怖いのか?そうかそうか、臆病者のCランク冒険者さん?」
「違う!僕の方が勝つのは当たり前だ!だから君のことを心配して言ってるんだ!」
……こいつ、本気で言ってんのか?ああ、本当に腹ただしいな。
「……そうか、じゃあ遠慮なんかいらない。さっさとやるぞ」
「……後悔するなよ」
「お前がな」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
決闘は訓練場でするらしいので早速向かった。
さてさて、決闘となったわけだが。
「ありがとうな、槍使いの……」
「おれの名前はカイナだよ。こう見えても一応Bランク冒険者を名乗らせて貰ってる」
「俺はシオンだ、よろしくなカイナ」
「うん、よろしくね。それでさっきの感謝って?」
「ああ、おかげで冷静になれたからな。あれを殺さずにすんだ」
「そうか!それは良かったよ」
「殺すなんて生ぬるいからな。今から死んだ方がましだと思わせるつもりだ」
「あっはい」
それを聞いたときにカイナの顔が引きつった様に見えたが気のせいだと思い、話もそこそこに前に進む。
「それではCランク冒険者アルノー対Eランク冒険者シオンの決闘を始める!」
開始の合図を耳に入れながら俺はこの決闘の制限に着いて考える。
確か簡単にまとめると
・一対一の審判あり
・殺すな
・相手のギブアップか、気絶が確認で決着。
・基本何でもあり
だったな。
俺だけの制限としては
・光、闇系の魔法を使わないこと。
これは必須条件となる。今更かもしれないが目立たないためには使わない方が良いだろう。
それともう一つ。
・あいつの心をへし折る、だ。
その条件として――
「おい、早く武器を抜けよ。それとも今更怖くなったのか?」
「いや、武器は必要ない。まずお前は俺に近づくことすらできないからな。無駄は省く性分なんだよ」
そう、接近させないこと。そして武器を使用しないという――ナメプで圧勝すること。
「貴様……!!どこまで僕を馬鹿にするつもりだ!!!」
「馬鹿にするも何もお前は俺に近づけないし、だからこそ武器も必要ない」
そう言って俺はこいつに嘲笑を向ける。
ステータスで劣っていた時にも負ける気がしなかった。なら今は、どうあがいてもお前は俺に勝てない。
「這いつくばった後で後悔するなよ!」
そして正義マン(笑)は俺に接近しようとするが……遅い。
「〈凍結する床〉」
進行方向に凍った床を設置する。
「馬鹿め!こんな物簡単に避けられる!」
そうだろうな。お前から見てちょっと左に寄った場所に設置した氷は、右に避ければな。
正義マン(笑)はしっかりと右にステップして氷を避ける。
「覚悟し……」――ズボッ。
「「「「「「うわっ……」」」」」」」
俺達の決闘をギャラリーとして見ていた冒険者達から心底嫌そうな声が漏れる。
それもそのはず。なぜなら奴が避けた地点には、その対応を予測していた俺が設置した泥沼があったからだ。こんなに簡単に引っかかるとは思わなかったが。
もちろん今度は避けることができるはずもなく。俺は、腹の辺りまで泥に埋まって脱出しようともがいているのを高みの見物。馬鹿にしたような嗤いを付けてな。
「クッ!このチャンスを逃したことを後悔させて……」
ようやく片足だけ這い出してきた正義マン(笑)が何か言っているが俺は次の行動に入る。
「〈落円石〉」
魔法が発動し、円盤形のそれほど硬く無い石が頭部に当たる。
普通ならなんの効果も無いだろうが、泥からもう片方の足も抜こうと前方に体重をかけている場合はどうなるか。答え、前のめりに倒れる。もちろんそれだけでは終わらせるわけがない。
――ベチョッ
「「「「「「「うわぁぁ……」」」」」」」
もう一つ泥沼を発生させ、前方に置くだけでこの通り頭から泥に突っ込むことになる。上半身を泥に埋め、足をばたつかせる無様な図の完成だ。
優しい俺はこいつが死なないように配慮をして泥の粘度を少し落としてある。
なんとか抜け出せるだろう。
正義マン(笑)は30秒ほど経ってなんとか泥から抜け出してきた。
その目はまだ俺を睨んだままだったが、うっすらと怯え、そして恐怖の色が見える。
悔しいだろうなぁ?明らかに手抜きされた上で遊ばれ、さらには明確な隙を見逃されている。
睨める元気があるってのは良いことだ。まだ痛めつけることができる。
「おいおい、泥だらけじゃないか。どうしたんだ?」
「これは……お前がやったんだろう!」
「そのままだと気持ち悪いだろう。俺が洗ってやるよ」
「何を……」
「〈水流落し〉」
安定の無視で魔法を発動。
頭上から水を降らせて強引に泥を流していく。
まあちょっとした滝並みの圧力で呼吸できないだろうが、汚れているより良いだろう。
親切心からだから許してくれるよな?
「……ゲホッ!……ゲホッ!」
「ほら、乾かしてやるよ」
「ま、待て……」
聞こえんな。
「〈風圧砲〉」
「グェッ!?」
強烈な風によりダメージを受けるとともに、後ろに吹き飛ばされる正義マン。
その背後にはなんと氷でできた道が。
なんでここにこんな物があるんだー?(棒)
哀れ、吹き飛ばされた正義マンはそのまま止まることなく反対側の壁まで滑っていき、ぶつかることでやっと止まった。
「あっれれー?おっかしぞー?」
俺は某少年探偵のような口調で言うと、ニヤリと口元をつり上げて嗤う。
「お前、近づくどころか離れてんじゃん」
――なあ今……どんな気持ちだ?
ちょっときつかったかもしれませんが、これが主人公です。




