第79話 身内には無償の愛を、敵には地獄を、害敵には地獄すら生ぬるい絶望を
お久しぶりです!エタってませんよ?
咲夜さんのエサ投下で華麗に復活しました。
ありがとうございます!
今回の話には変な設定が入ってると思いますが、そうなんだな~て感じであまり気にしないでください。
昼の時間に入り、王城の訓練場では疲れが滲んだ声がユルユルと飛び交っている。
「お疲れ様~」「お疲れ」「朝の訓練おわりー」
毎朝ある基本的な訓練を終え、勇者として召喚された少年少女達がそれぞれ自由時間に入る。
何も知らない人が見たのならばきっと勇者だとは思わないであろう光景が広がっていた。
「ねえねえ、日本で本物の魔法少女をやっていたって本当なの!?」
「ええ本当よ!魔法少女グリームライズとしてバッタバッタと人に害を及ぼす『ディスパイアル』を倒していたわ!」
その話の中心にいたのは嘉陽 紗也香。
日本で魔法少女として戦っていたという少女だ。
すごいでしょと言わんばかりに日本での戦績を語る彼女はまさに美少女と言っても過言ではなかった。
大きな瞳はいかにも元気いっぱいですと言った様子で、まとめたサイドテールがピョコンピョコンと揺れている。
今でこそ打ち明けているが、日本に魔法少女がいること自体が知られていない。それは、魔法少女として行動をしやすくするためでもあり、『ディスパイアル』という異形の怪物から身近な人を守るためにも必要な事だった。
察しの通り表裏のない人物として親しまれている彼女は本質的に嘘が苦手であり、最近は嘘とは行かないまでも隠し事をしていると言う裏目からか、その快活な表情はなりを潜め、形の整った眉を額に寄せることが多くなっていた。しかし、生きて帰るために協力が必要だからという名目で秘密を打ち明け枷が外れたことで、今は笑顔を浮かべている。
「ねえねえ、もう一回変身して見せてよ」
クラスメイト達に話を信じて貰うためにも、一度だけ変身した姿を見せた事がある。その姿は全体的に明るい色で占められており、嘉陽の性格と相まってまさに太陽という表現がぴったりであった。
それをもう見たいと一度願ったのだが。
「それはだめハム」
しかし、それを良しとしない者がいた。その声が発せられたのは嘉陽の肩、正確には肩に乗ったハムスターからであった。
「えー、良いじゃんマトラ」
「変身は神聖なものハム。そう易々として良い、見世物の様なものではないハム」
そう言ったマトラと呼ばれたハムスターは、日本で出会った。自称妖精であり、嘉陽に魔法少女としての力を授けた張本人でもある。いつもは通学用の鞄に突っ込んでいるのだが、いっしょにこの世界へときてしまったようだ。
「そうよ紗也香。神聖かどうかは置いておいても、ここでは変身のために送られてくる魔力が微弱で自分の魔力を使って変身しなくちゃいけないから、節約するって話になったでしょう?それに変身なしで強くなれば変身後も強くなれるかもしれないしれないでしょう?」
腰までかかる長い髪を揺らしながらそう嗜めたのは、嘉陽と正反対のような少女だった。
鏡月 舞夏。清楚な風貌と落ち着いた雰囲気が相まって大人な魅力を周りに振りまき、学内でも高い人気を誇る美少女である。肩には小さめのフクロウを乗せ、そのミステリアスさに拍車をかけている。
彼女も日本で、同じく妖精を名乗るフクロウのメイガスに魔法少女としての力を授かり、戦ってきた。
「……他の奴らに紗也香の変身した姿は見られたくないし」
「うん?何か言った、舞夏?」
「いえ、何でもないわ」
片手を振って、不思議そうな顔をしている嘉陽の質問を躱した鏡月は、木陰で休んでいる少年を指さした。
「物珍しいのがお好みならあそこにいる『超能力者』とか、ここにはいないけど『退魔師』や『巫女』、『陰陽師』にでも話を聞けば良いじゃない?全員日本の時からの能力者らしいわよ」
「拙者もいるでござるよ」
「「「「「黙れエセ忍者」」」」」
「ござる!?」
「ははは、みんな充実してるみたいだね」
訓練場をぐるっと見渡した海野は満足げに頷いた。
「おいおい、いきなり何言ってんだ?拓さんよォ」
そう声をかけたのは目尻が鋭くつり上がった三白眼のガラの悪い少年だが、今は変な物をを見るような目で呆れたように近づいてくる。
「ちょっとね。諒也はどうしかしたのかい?」
「俺かァ?別に何でも無いぜ?ただ、訓練場のど真ん中でぐるっと一回転し出したと思ったらいきなり笑い出した誰かさんのことを、ヤベーなこいつと思いながら怖い物見たさで近づいてみただけだ」
「……そんなに変だったかな?」
「とびっきりナ」
そう答えた刈田 諒也に、流石に堪えたのか顔を押さえてうずくまってしまった海野。この気安いやりとりからもわかるように二人は長い付き合いになる。簡単に言えば腐れ縁だ。
「そンで、あれは良かったのかよ?」
「あれ、とは?」
「七星だ。あいつを一人で出すのは危険だなんだって言って止めると思っていたからなァ」
腐れ縁の少年の言葉に「あぁ」と言葉を漏らす。
「人の決めたことに口を出すのは傲慢だと思うからね。ただ、周りに迷惑を振りまくことなら流石に止めるけど、彼は日本にいたときからそういうのはきちんとしていたからね。問題無いと思っただけだよ。……止めた方が良かったかな?」
「いんや、お前がそう思うんならそれで良いんでねえの?まあ、あの『洗礼』ぐらいは受けた方が良かったかもしンないけどナ」
そう言って頭の後ろで手を組むと「それは大丈夫だよ」と声がかけられる。
「あン?」
声の方に目を向けると件の少年の幼なじみが二人。
「七星君は命の大切さは十分わかってるはずだから」
「そうだな、あいつならそこら辺のことは大丈夫だろう」
「うおッ、出た。ミスターおかん」
「何だその矛盾しかない呼び方は!?喧嘩売ってんのか!?」
無線を口元に当てるような素振りをして、刈田は真面目な顔で言った。
「一つ十万円でーす」
「ブッ殺す」
「「まあまあ」」
駅名をアナウンスするかのごとく良い声で単価を言い出した刈田に優がキレるが、二人に止められる。
しばらくもがいていたが、現状日本に居た時から能力者であるメンバーを除けば最強格である海野に、真琴の補助がある状態で勝てる筈もなく、諦めた。
「オイオイ、ひ弱さで定評のあるオレを攻撃しようとスンナよ」
「なら挑発するんじゃねえよ」
肩をすくめて戯ける刈田に、優がジトッとした半目を向ける。
本人の言うとおり、刈田は現状クラスで最弱のスペックとなっている。最初期は「勇者の卵」のスキルもあって差はほぼ無かったが、日が経つにつれその差は浮き彫りとなっていた。
別に刈田がサボっているわけでもなく、同じように訓練しているのに差は広がっている。
それ故、人一倍訓練をしているようだが結果は芳しくないようだ。
ただ、本人はさほど気にしている様子は見られない。「日本でも同じようなモンだったから」だそうだ。
「オレの話はイイんだ。そっちの大丈夫な理由ってのを教えてくれ」
「そうだね。僕も気になっていたんだ。教えて欲しい」
「あーうん」
どうしよっか、とでも言うように隣の優を真琴が見上げる。
「良いんじゃないか?あいつも言いふらしたりするんじゃなければ気にせんだろ。何より人様に無用な心配かけてんだ。それを取り除くためだ」
「そっか、じゃあ二人ともこれから話すことは面白半分で言いふらしたりしないでね」
「……なんだか重い話になってきたね」
「ちょっと後悔してるわ。まあ、オレもこいつも言いふらしたりなんかしねェよ」
二人の真剣な表情にコクリと頷いた真琴はゆっくりと話し始めた。
「七星君はね――目の前で両親を殺されたんだよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ぁあ……はぁ……」
それはうめき声のような物を口からだし、ふらふらと立ち尽くしていた。
対面には無表情で魔法を行使する少年が一人。
「ウィンドブロウ、ウィンドブロウ、ブロウ」
「グェ……ブホッ!?……グヒュ……」
魔法によって作られた風の塊がそれの体を打ち据える。体を浮かせるほどの一撃が幾多も容赦なく突き刺さり、それに膝をつくことすら許さない。
「おお、すげえじゃねえか。よく耐えてるな。ほら、もっと行くぞ」
本人がしゃべれる状況であればふざけるなと言いたくなるであろう事を口にして、紫苑は魔法を発動させ続ける。
アルノーを壁際まで吹き飛ばした後も同じようなことが何度も繰り返された。
紫苑に近づこうとしては壁際まで吹き飛ばされ、近づくことを諦めて魔法で攻撃を始めるまでだ。
しかも魔法を避けることもせずに、正面から〈振撃〉で破壊。心が折れるまで徹底的に魔法を潰し続けた。
そしてアルノーにもう打つ手が無いことがわかると攻撃を始める。
決して近づかせないとの言葉を守るために遠距離から魔法のみで。
〈風撃〉を連続で行使し、アルノーの周囲360度から滅多打ちにする。
その光景はさながら一人で、いわゆるリンチという行為をしているようだった。
魔法の威力で倒れそうになっても〈風撃〉で角度を調整し、無理矢理立ったままにしてなぶり続けた。遂には気絶しそうになっても回復魔法をかけ、気絶しないぎりぎりの所まで引き戻す。
そうして今に至る。
「ウィンドブロ、ウィンドブロウ、ブロウブロウブロウ――」
お前は俺の仲間に、家族に手を出したんだ。俺は俺と家族の敵対者は絶対に許さない。
もう、失ってたまるか。力が無いからと逃げ出すのはこりごりだ。
だからこそ敵対者には容赦をしない。
――希望すら抱けないような真っ暗な絶望を。
いつの間にかその顔には凄惨な笑みが浮かんでいた。
「もう良いかな……」
最早うめき声さえ上げることもできず、《風撃》を全身に浴びて木の葉のように揺れ続ける正義マン(笑)。
これ以上やっても無意味そうだし。
「良かったな、これで終わりだぜ?《風圧砲〈ブスラストカノン〉》」
圧縮された空気の塊が高速で迫り、強かに体を打ち据え吹き飛ばす。手加減はした。死んでは居ないだろう。
「――そこまでだ!救護班、急いで治療しろ。早くしないとそいつ死ぬぞ。お前ら!道を空けろ」
怒濤の勢いで指示を出したのはギルドマスターもガザルだ。
いつの間に来たんだろうか。全然気がつかなかった。
そんなことを考えている間にも、救護班とやらが出口からやって来てボロ雑巾を担架に乗せる。
その間にも治療行為がなされていて、その手際の良さからプロだとわかる。
どこかの誰かとは大違いだ。
「呼ばれた気がしたし!」
いや呼んでねえよ。噂をすればなんとやらだが、回収早すぎだろ。
現れたのは残念ナースこと日高だ。今日も要救護者を求めてさまよっているのか。
「んん~……」
いきなりうめき声を出し始めた日高を見て、遂に本性が現れはじめたのかと思ったがどうやら違ったらしく、担架に乗せられたあれを見て何か考える素振りを見せている。
「……手遅れだし?」
そう言って出現から早くも出口から消え去った。
え?あいつ死んだの?こんな大勢が居る中で殺っちゃった?
流石に評判が悪くなりそうでいやなんだけど。
「……良し、もう安全圏だ」
額の汗を拭って、応急処置をしていた人がもう安全圏に落ち着いたことを告げた。
あれ、助かったぽいんだけど。なんであいつは手遅れって……。
ハッ!?まさかあいつの手遅れって治療に遅れたって意味なのか!?
そこは助かったことを喜んどけよ!?お前にとってナースって何なの!?
「……おいシオン」
「何だよガザル、やり過ぎだなんて言葉は受け付ねぇぞ?」
こちらを見下ろしていたガザルはおもむろに腕を組む。
そして――
「――良くやった」
「は?」
え?あれで良かったの?
遅れたお詫びとして情報を置いておきます。
この話はまだ始まったばかりですが、序盤ではありません。
それではまた!




